サステイナブル・コミュニティ

アワニー原則

The Ahwahnee Principles

 一九九一年の秋、 カリフォルニア州にあるヨセミテ国立公園内のホテル、 アワニー(The Ahwahnee)に地方自治体の幹部が集まった。 この会議で発表されたのが、 “アワニー原則”である。

 アワニー原則は、 以下の六名の建築家によって起草された。

 第二次世界大戦後の米国の都市開発のあり方に強い疑問を抱いていた彼らは、 八〇年前後から、 自分たちの考え方に基づいて新しい町を建設してきた。 彼らのつくった町は、 米国内外で大きな注目を集め、 高い評価を得るとともに、 開発事業としても成功を収めた。 彼らの成功を見て、 彼らの町を模倣した町が各地に現われるようになった。 模倣は表面的で、 つまみ食い的に行なわれてしまい、 彼らの目的や意図とは異なる不完全なコミュニティが次々と出現した。 このような状況を見た彼らは、 自分たちの意図する町づくりの全体像を明確に提示する必要性を痛感し、 六人連名で、 町づくりにおいて遵守すべき諸原則をとりまとめた。 これがアワニー原則である。

 米国の抱える社会問題は、 コミュニティの崩壊によってもたらされたものである。 このコミュニティ崩壊の原因は自動車に過度に依存したエネルギー大量消費型の町づくりのなかにあるとする。 彼らはその解決策として、 自動車への依存を減らし、 生態系に配慮し、 そして何よりも人びとが自分が住むコミュニティに強いアイデンティティ(自己同一感)が持てるような町の創造を提案している。

 アワニー原則では、 このような町の実現のために遵守すべき事項を、 @コミュニティの原則、 Aコミュニティよりも大きな区域であるリージョン(地域)の原則、 そして、 Bこれらの原則を実際に適用するための戦略、 に分けて記されている。

 アワニー原則は九一年の秋、 約百名の地方公共団体幹部を前に発表され、 今後の都市開発プランの策定に当たって取り入れていくように各幹部に理解を求めた。 マイケル・コルベット夫人であるジュディー・コルベット(Judy Corbett)が事務局長(Executive Director)となっているローカル・ガバメント・コミッション(Local Government Commission)が主催した。 この団体はその後も機会あるごとに、 アワニー原則の広報に努めている。 参加した六名の建築家の名声が高まるにつれ、 各種の建築関係雑誌もこの原則を取りあげるようになり、 アワニー原則はしだいに建築関係者の間に広まってきている。

 以下に、 アワニー原則の全文を紹介する。

(1) 序言(Preamble)

 現在の都市および郊外の開発パターンは、 人びとの生活の質に対して重大な障害をもたらしている。

 従来の開発パターンは、 以下のような現象をもたらしている。

 過去および現在の最良の事例に依拠することによって、 そのコミュニティのなかで生活し、 働く人びとのニーズに、 より的確に対応するようなコミュニティをつくりだすことが可能である。 そのようなコミュニティをつくりだすためには、 計画書策定の段階で以下のような原則を遵守することが必要である。

(2) コミュニティの原則(Community principles)

  1. すべてのコミュニティは、 住宅、 商店、 勤務先、 学校、 公園、 公共施設など、 住民の生活に不可欠なさまざまな施設・活動拠点をあわせ持つような、 多機能で、 統一感のあるものとして設計されなければならない。
  2. できるだけ多くの施設が、 相互に気軽に歩いて行ける範囲内に位置するように設計されなければならない。
  3. できるだけ多くの施設や活動拠点が、 公共交通機関の駅・停留所に簡単に歩いて行ける距離内に整備されるべきである。
  4. さまざまな経済レベルの人びとや、 さまざまな年齢の人びとが、 同じ一つのコミュニティ内に住むことができるように、 コミュニティ内ではさまざまなタイプの住宅が供給されるべきである。
  5. コミュニティ内に住んでいる人びとが喜んで働けるような仕事の場が、 コミュニティ内で産み出されるべきである。
  6. 新たにつくりだされるコミュニティの場所や性格は、 そのコミュニティを包含する、 より大きな交通ネットワークと調和のとれたものでなければならない。
  7. コミュニティは、 商業活動、 市民サービス、 文化活動、 レクリエーション活動などが集中的になされる中心地を保持しなければならない。
  8. コミュニティは、 広場、 緑地帯、 公園など用途の特定化された、 誰もが利用できる、 かなりの面積のオープンスペースを保持しなければならない。 場所とデザインに工夫を凝らすことによって、 オープンスペースの利用は促進される。
  9. パブリックなスペースは、 日夜いつでも人びとが興味を持って行きたがるような場所となるように設計されるべきである。
  10. それぞれのコミュニティや、 いくつかのコミュニティがまとまったより大きな地域は、 農業のグリーンベルト、 野生生物の生息境界などによって明確な境界を保持しなければならない。 またこの境界は、 開発行為の対象とならないようにしなければならない。
  11. 通り、 歩行者用通路、 自転車用道路などのコミュニティ内のさまざまな道路は、 全体として、 相互に緊密なネットワークを保持し、 かつ、 興味をそそられるようなルートを提供するような道路システムを形成するものでなければならない。 それらの道は、 建物、 木々、 街灯など周囲の環境に工夫を凝らし、 また、 自動車利用を減退させるような小さく細いものであることによって、 徒歩や、 自転車の利用が促進されるようなものでなければならない。
  12. コミュニティの建設前から敷地内に存在していた、 天然の地形、 排水、 植生などは、 コミュニティ内の公園やグリーンベルトのなかをはじめとして、 可能なかぎり元の自然のままの形でコミュニティ内に保存されるべきである。
  13. すべてのコミュニティは、 資源を節約し、 廃棄物が最小になるように設計されるべきである。
  14. 自然の排水の利用、 干ばつに強い地勢の造形、 水のリサイクリングの実施などをとおして、 すべてのコミュニティは水の効果的な利用を追求しなければならない。
  15. エネルギー節約型のコミュニティをつくりだすために、 通りの方向性、 建物の配置、 日陰の活用などに充分な工夫を凝らすべきである。

(3) コミュニティを包含するリージョン(地域)の原則(Regional Principles)

  1. 地域の土地利用計画は、 従来は、 自動車専用の高速道路との整合性が第一に考えられてきたが、 これからは、 公共交通路線を中心とする大規模な交通輸送ネットワークとの整合性がまず第一に考えられなければならない。
  2. 地域は、 自然条件によって決定されるグリーンベルトや野生生物の生息境界などの形で、 他の地域との境界線を保持し、 かつ、 この境界線を常に維持していかなければならない。
  3. 市庁舎やスタジアム、 博物館などのような、 地域の中心的な施設は、 都市の中心部に位置していなければならない。
  4. その地域の歴史、 文化、 気候に対応し、 その地域の独自性が表現され、 またそれが強化されるような建設の方法および資材を採用するべきである。

(4) 実現のための戦略(Implementation Strategy)

  1. 全体計画は、 前述の諸原則に従い、 状況の変化に対応して常に柔軟に改訂されるものであるべきである。
  2. 特定の開発業者が主導権を握ったり、 地域のそれぞれの部分部分が地域全体との整合性もないままに乱開発されることを防ぐために、 地元の地方公共団体は、 開発の全体計画が策定される際の適正な計画策定プロセスの保持に責任を負うべきである。 全体計画では、 新規の開発、 人口の流入、 土地再開発などが許容される場所が明確に示されなければならない。
  3. 開発事業が実施される前に、 上記諸原則に基づいた詳細な計画が策定されていなければならない。 詳細な計画を策定することによって、 事業が順調に進捗していくことが可能となる。
  4. 計画の策定プロセスには誰でも参加できるようにするとともに、 計画策定への参加者に対しては、 プロジェクトに対するさまざまな提案が視覚的に理解できるような資料が提供されるべきである。
    学芸出版社『サステイナブル・コミュニテイ』より
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