まちづくりイベント・ハンドブック

監修にあたって


1 「まちづくりイベント」とは何でしょうか?

 「まちづくり」と「イベント」。 どちらも今やあたりまえのように使われている言葉ですが、 考えてみれば比較的新しい言葉です。 けれども、 これらの2つを合わせた「まちづくりイベント」という言葉は、 まだ聞きなれないのではないでしょうか。

 そもそも「まちづくり」という言葉自体、 とても広い意味に使われていますが、 それは時代とともに意味が広がってきた歴史があると思います。 簡単にいえば、 古くは“まちを造る”ということが、 都市を整備する。 つまりは、 道路や公園などの都市基盤施設を整備していくということで、 それはお役所のやる事業だというイメージが強くあったと思うのです。 しかし、 都市社会の進展とともに「市民参加のまちづくり」などのフレーズが一般的に使われるようになっていくにつれて、 都市のユーザーである地域住民や一般市民が、 都市の空間整備や場の雰囲気づくりなどに積極的に関わっていく様子が連想されるように、 「まちづくり」という言葉そのもののもつイメージが広がってきました。

 「まちづくりイベント」という新しい言葉には、 このようなまちの「使い手」である市民が「まちづくり」に参加していくという時代の流れを、 「イベント」という方法と結び付けることにより、 さらに加速していこうという積極的な姿勢が含まれています。

 「イベント」とは、 人が集まり、 そこで何かが起こる、 という意味を持っています。 都市空間の「作り手」の論理と「使い手」の論理が交錯し、 結合するとき、 相乗効果が生まれ、 まちづくりが新たなフェーズに入っていく。 「まちづくりイベント」という新しい取り組みが各地で始まっているのです。

2 「まちづくりイベント」のいろいろ

 さて、 皆さんは「まちづくりイベント」という新しい言葉を見て、 どんな連想を持たれたでしょうか? 実は、 本書の事例編をパラパラとめくっていただいても分かるように、 「まちづくりイベント」の取り組みは非常に多彩であり、 いろいろな種類と目的と規模があります。 背景を含めて少し整理してみましょう。

 まずは、 「作り手」の論理です。 幹線道路など都市の骨格をなす都市施設を整備する国や自治体、 公団などの公共主体にとっても、 もとよりそのような施設を受け入れる地域住民等の理解と協力なしには事業を進めることができませんが、 環境などに対する市民の意識の高まりを受けて、 最近では「作り手」側からのPR活動がさかんに行われるようになってきました。 このようなPR活動の一環として、 イベントが多様に活用されるようになってきています。 例えば、 昔からくわ入れ式やテープカットなどの催しに地元住民等が招待されることがありましたが、 最近では高速道路や鉄道高架の供用前にそこを一般市民が歩いたりマラソンをしたりするイベントが行われたりしています。 シンポジウムが企画されることもよくあります。 そして、 このようなイベントを通して、 公共主体の行う都市づくりの事業に対する一般市民の理解や関心が高まるとともに、 地域住民等がイベントに主体的に参加することにより、 何よりもこれらの事業に参加意識を持てるようになる効果が期待できるのです。

 次に、 「使い手」の論理です。 住宅地の居住環境を保全したり、 商店街の魅力づくりを行うような場合に、 住民や店主たちが何らかの約束事を自発的に取り決めて、 まちの環境整備を行う例も増えてきました。 それらのルールづくりには、 建築協定や緑化協定、 地区計画などの制度も多く活用されています。 ただ、 そのようなルールづくりを進めるには、 住民や関係権利者がまちづくりについて勉強し、 みんなの意識を高めていくことも必要で、 専門家を招いての勉強会や、 先進的な地区の見学会を行ったりすることもあります。 これらも、 まちづくりイベントのひとつのスタイルといえるでしょう。

 さらに、 最近では、 このような作り手側、 使い手側の様々な動きに対して、 イベント「仕掛け人」ともいうべき、 イベントの企画・実施を専門とするプロフェッショナルの人たちも関心を持つようになってきました。

3 ハード屋とソフト屋、 そして市民

 都市施設を整備する公共主体や街の空間づくりを計画する行政や専門家等を「ハード屋」、 イベントプロデューサーなどイベント仕掛人のプロを「ソフト屋」、 と仮に呼ぶとしますと、 「まちづくりイベント」は、 「ハード屋」と「ソフト屋」、 そして市民が一緒に参画して作り上げていくものということができるでしょう。

 街の空間を魅力的な場としていくために、 「まちづくりイベント」はとても有用な手段として認識されるようになってきました。 とりわけ、 都市の顔となる中心地区の都市整備や、 商業施設、 アミューズメント施設などが集積する地区の開発においては、 今や「まちづくりイベント」は不可欠なものといっても過言ではありません。 要は、 人が集まり、 何かが起こることで、 その場所が人々に知られるようになり、 さらに人が集まり、 賑わいが生まれることで、 その場所がほんとうに魅力的な場所になっていくわけです。

 このような理想的な循環をつくり出すためには、 都市空間を整備する側にとっても、 都市施設が機能的であるばかりではなく、 イベントの場としても使い勝手が良いように十分考えて計画することが求められますし、 イベントを企画・実行する側にとっても、 その場所や施設の特徴を生かし切るアイデアや工夫をみがくことが求められることになるでしょう。 そのようにして初めて都市空間の理想的な演出ができるのです。

 魅力と活力にあふれた都市づくりを目指す行政、 街に人々が集う目的をつくることで賑わいを生み、 その集客力でビジネスを成功させたい民間事業者、 それぞれの要請を受けて、 わが国にもハードとソフトそれぞれの専門的ノウハウを持つ人々が育ってきています。 そして、 実際に「まちづくりイベント」を見たり、 参加することを通じて、 都市というものに対する市民の関心や意識が確かに高まってきていることを、 皆さんも実感できるのではないでしょうか。

4 「まちづくりイベント」の発展のために

 本書は、 まちづくりの新しい展開である「まちづくりイベント」について、 その重要性やノウハウを、 自治体のまちづくり行政の担当の方々は勿論のこと、 一般の方々を含めてより多くの方々に知っていただき、 これからの「まちづくりイベント」の普及や発展の参考となるようにと考えてまとめたものです。 特に、 編集にあたっては、 都市計画(ハード)とイベント企画等(ソフト)の第一線で活躍する専門家が一体となって設立した「都市イベント企画会議」のメンバーや、 まちづくりイベントに関心の高い自治体により構成される「都市イベント推進協議会」の協力を得て、 実際のまちづくりを進めるにあたって幅広い局面で参考となるような事例を、 「アイデアの玉手箱」となることをめざして幅広く集めるとともに、 第一線の専門家自らが執筆し、 そのノウハウを披露しています。 事例編の構成では、 各事例の特徴を簡素に記述した「ポイント」や、 執筆者の見解をコメントした「ひとこと」の欄を設けるなど、 できるだけ分かりやすくなるように配慮してまとめました。

 監修にあたった「建設省まちづくり事業推進室」は、 地域主導の個性豊かで活力あるまちづくりを支援することを目標に、 イベント活動の場となる多目的広場や人工地盤等を含め、 特定の地区を対象に多彩な施設整備などに補助を行う「街並み・まちづくり総合支援事業」を担当している部署です。

 本書に掲載した「まちづくりイベント」の事例は、 いずれも先進的でありながらも同時に萌芽であって、 まちづくりイベントの展開はこれからが本番です。 本書が多数の方々に愛読され、 市民参加型のまちづくりのヒントになれば幸いです。


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学芸出版社『まちづくりイベント・ハンドブック』/ gakugei.kyoto-inet.or.jp

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