まちづくりイベント・ハンドブック
1章 まちづくりイベントを始めよう
1 まちづくりは今
「まちづくり」って何だろう。 まちづくりは、 基盤整備から、 産業・商業の活性化、 福祉・文化、 コミュニティ活動、 さらにはまちおこしなどの地域づくりに至るまで様々に用いられている便利な言葉である。 「まちづくり」には、 人の温もりや将来の夢がつまっている。 自分のいる地域にかかわること全部がまちづくりといってもあながち間違いではない。 一方、 「まちづくり」をものづくりに近い分野に限定して考えると、 区画整理、 再開発、 街路、 公園などの基盤整備、 建築物整備、 あるいはまちなみなどのルールづくりなどがまちづくりということになる。 本書で取り扱う「まちづくり」であるが広い意味のまちづくり全部を対象にするのはちょっと荷が重い。 したがって、 本書では、 主に「ものづくり」を中心としながら、 それとの関わりの中で広い意味のまちづくりにもアプローチするという立場をとることにしたい。
では、 その「まちづくり」は今、 どういう状況にあるのだろうか。 まちづくりイベントについて説明する前にまちづくりイベントが必要となる背景として関係の深いキーワードをいくつか拾って概観してみることにしたい。
時代の背景のキーワード
- 自由時間の増大
- 総労働時間の短縮、 週休二日制の普及、 長寿化に伴い、 人生80年間の70万時間のうち25万時間が自由時間になる。 一方労働時間はわずか7万時間である。 自分の住まいのまわりにいる時間が長くなることにより、 まちの空間は、 ただ寝に帰る場所ではない、 生活の場としてとらえ直されることになる。
- 高齢化の進展
- 21世紀初頭には4人に1人が高齢者という高齢社会を迎えることになるが、 高齢者は一般的に行動範囲が狭く、 大半の時間を住宅と近隣コミュニティで過ごす。 バリアフリー化注や徒歩圏でのまちづくりなど、 高齢者の増大はまちづくりに必要とされる要件を変えることになる。
- 物の豊かさから心の豊かさへの価値観の変化
- 物の豊かさより心の豊かさを求める国民の価値観の変化は、 人間関係の充実、 身近な生活環境を大切にする傾向、 さらにはリサイクルなど地球環境問題への関心の高まりへと広がっている。 人や環境にやさしいまちに対する取り組みが少しずつ始まっている。
- コミットメント志向
- ボランティア活動への関心の増大など参加・体験を通じて、 自己実現する志向が高まっている。 誰かにやってもらうまちづくりではなく、 自分でまちづくりに主体的にかかわりたいという意識も当然高くなっている。
- 定住志向
- 高度成長期のような大都市圏への急激な人口流入はなくなり、 圏域内での移動はあるものの、 基本的にはその地域にずっと住み続けたいという定住志向が高まっている。
一方、 都市も様々な課題を抱えている。 市民のニーズの多様化、 広域的な対応と身近なまちづくり、 地域活性化、 都市構造の再編などである。 いくつか解読することにする。
都市の課題のキーワード
- 都市拡大の時代から都市再生へ
- 高度成長期においては大都市圏への人口流入の受け皿整備のため、 新たな都市開発を行うことが中心であったが、 都心での人口の空洞化、 住環境の悪化への対応、 産業構造の変化に伴う大規模な土地利用転換など、 都市構造の再編成が求められている。
- フローからストックへ
- フローという言葉は「ものをつくる」に、 ストックという言葉は「管理活用」に置き換えてもいい。 ものづくりが現在も大切なのは間違いないが、 現在あるものを使いこなす、 マネジメントすることが重要になっている。 勿論つくる際に利用者の視点で十分チェックし、 ものづくりを行う必要がある。
- 市民参加
- まちづくりについては、 行政の仕事であり、 それに対して、 反対したり、 要望要求したりするという形が従来の図式であった。 昨今、 市民が参加したり、 市民から提案したり、 むしろ市民が主体となってまちづくりをすすめる方向に変わりつつある。 まだまだ数は多くないものの、 まちづくり情報センター等により、 これを支援しようとする行政側の動きも現れつつある。
その他、 住民に最も身近な市区町村において都市計画のマスタープラン注をつくるということも、 このような大きな流れに位置づけられるものであろう。
2 まちづくりイベントとは
以上述べたように、 まちづくりの分野は、 新しい時代に入っている。 自分の身の回りの生活環境が大きな比重を占めること、 多様な分野との連携で総合的な対応をしなくてはならないこと、 利用・活用などのマネジメントが重要になっていることなどから、 これを実現するための新しいビジョンや仕組みが求められている。 その有効な方向が、 行政だけではなく、 市民、 企業が多様な連携を図って進めていくまちづくりである。 といっても、 市民の側からすると、 まちづくりについての専門知識がない、 また、 行政側も市民とのコミュニケーションの仕方がわからないなど、 どうすればいいかわからないと入口で悩む人もいよう。 こんな人のために、 むずかしく考えないで始めてみよう、 まず、 まちづくりの「しかけ」や「手法」としてイベントを使ってみませんか、 というのが本書の提案である。
イベントには様々な形態がある。 地方博覧会等は、 市民の関心の誘発、 地域の活性化などに有効な手法として用いられてきた。 昨今では、 市民・企業・行政を結びつけるための参加やコミュニケーションの手法としての側面なども期待されている。 まちづくりだってむずかしくなく入れるほうがいい、 楽しいほうがいい。 イベントの持つこのような性格を活用することは、 まちづくりの上で有効であろう。
「まちづくりイベント」を定義すると、 「単なる一過性のイベントに終わる事なく、 まちづくりの手段として活用されるイベント」ということになる。
まちづくりイベントの効果は様々で、 立場によって使い方も異なるであろう。
市民にとっては、
- 市民、 企業、 行政のコミュニケーションの場をつくる
- 意見を集約して形にすることにより、 行政への提案、 アピールをする
- 使い手の側にたったよりきめ細かなまちづくりをする
というところに関心があるかもしれない。
行政の人にとっては、
- 一般的に都市空間、 都市計画、 まちづくりについての市民一人一人の関心を高める
- 個別にプロジェクトについて、 PRし、 事業への認識を深めてもらう
- 多様な人の意見を集約する
などに重点があるかもしれない。
まちづくりイベントは、 市町村職員など行政の人、 商店街の人、 商工会、 青年会議所などまちづくりを組織的に行おうとしている人、 ディベロッパー、 コンサルタントなどのまちづくりの専門家、 自分でまちづくりをしようとしている市民グループなどまちづくりに関わるすべての人が、 まちづくりを行う時に、 様々な場面で使っていける手法である。
3 本書の読み方
でも、 まちづくりイベントって、 どうやったらいいのだろうか、 そんな疑問に答えるため、 本書では、 まちづくりの様々な段階に応じて行われているイベントを紹介するとともに、 個別のイベントのやり方について解説をしている。 まちづくりイベントの事例を参考にするもよし、 その手法を研究するもよし、 また、 その心を考えてもよしと、 どこからでも読める形になっている。
その構成は次のとおりである。
- 第1章 まちづくりイベントを始めよう
まちづくりイベントとは何かその背景と目的を紹介
- 第2章 まちづくりイベントいろいろ
まちづくりの段階に応じて先進的な事例を48事例紹介
実際に行われている事例を参考に自分なりのまちづくりイベントを工夫できる
〈まちづくりの段階〉
- まちづくりへの関心を高める
- これからまちづくりを始める
- まちづくり まっただなか
- まちづくりを仕上げる
- まちづくり いろいろ
- 第3章 まちづくりイベントの手法
事例で使われているまちづくりイベントの手法を、 @ワークショップ、 コンペなどの基本手法、 A祭り、 行事などのイベント導入の場、 Bパンフレット、 マップなどのツールの3つの角度から解説。
具体的にまちづくりイベントの手法を選択し、 実施するにあたって注意したいこと、 よりよい活用の仕方を学ぶことができる。
- 第4章 実行の段取り
いざ実行しようと決心した際に読む。 企画、 予算どりから実施までのフロー、 段取りのチェック、 さらに広報の仕方までを解説。
- 第5章 成功のためのポイント
特に行政の人に対し、 まちづくりイベントのうまい仕組み方や展開を解説。
- 第6章 まちづくりを始めよう
まちづくりイベントの心はどこにあるのか、 まちづくりイベントから本当のまちづくりへ向かう考え方を展開。
自分のまちに積極的にかかわっていきたい。 快適なまちにしたい、 いい老後を過ごしたい、 子供たちにいいまちを残したい。 そんな願いは、 市民であれ、 企業であれ、 行政であれ、 形は違っても共通である。 その願いに向けて一歩踏み出してみよう。 みんなのまちづくりを始めよう。
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