きんもくせい19号
(1996年11月20日)

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阪神大震災復興市民まちづくり支援ニュース
阪神大震災復興市民まちづくり支援
ネットワーク事務局発行

テキストのファーストアップはNifty GHA02037 つじさんによる

復興〈まちづくり〉の語源を探る

東京電機大学教授、 兵庫県復興懇話会委員(解散) 西山 康雄


似顔絵・Professor Yasuo NISIYAMA

 「区画整理は、 都市を造るという、 ハードの面だけではなく、 住民や働く人のコミュニティをつくる事業であります。

 まちづくりが大切であります」。

 11月7日から9日まで、 神戸国際会議場で「第8回区画整理と都市開発にかんする国際会議」が開かれた。

議論は熱をおびた。

 笹山幸俊・市長のこの一言は、 「上からの」「道路建設」に追われる海外参加者の、 計画哲学に、 強い感銘を与えた。

そしてかれらは言う。

 「<安心できる、 安全な都市を造る>という神戸哲学を、 つねに都市計画の基盤に置かねばならない。

<説得と納得>が、 まちづくりの出発点という説明は、 総合性と計算合理性を説く、 西欧都市計画家からは聞いたこともない。」

 筆者はここ10年来、 復興都市計画の論理と事業の論理を、 探ってきた。

そして、 (1)「初期の緊急対応時における<都市計画権限の民主集中>」と、 その後につづく、 (2)「復興過程における<まちづくり>」を区分してとらえる、 二段階計画論を説いてきた。

 1月19日に提案した「防災緑地軸」「防災基幹道路」は(1)に、 「復興事業は小規模、 小集団単位で」という飯田大火に学んだ考え方、 「まち住区・街区」は、 (2)に関わる。

 そして今、 震災300日。

「生活の器を再建する復興都市計画事業は、 <まちづくり>の過程を欠いては、 成立しない」ことを痛感する。

阪神淡路大震災の復興過程は、 この36文字を日本の都市計画の歴史に、 美しく明りょうにきざみつづけている。

 そして、 「まちかどプランナー」という新しい職種が、 社会的に認知されてきたことを、 身に感じる。

 では、 いつ、 「まちづくり」という概念はできたのだろうか。

 結論からいえば、 いまを去る30年前、 名古屋は都心に隣接する栄東地区の、 再開発運動で、 ひとりのおやじさんが考えついた、 ということである。

 生みの親は、 ふとん屋・東屋(あずまや)のおやじ、 三輪田春男さん。

そして、 育ての親は、 公団名古屋支所長・青木英二さんであった。

残念にも、 栄東の都市再開発事業はとんざした。

しかし、 ふたりとも進取の気にとむ「ただものではない」。

こうして言葉の来歴由来を聞くと、 「なぜ中小企業的な、 親しみのあるネーミングか」という疑問もとけるであろう。

対立する利害がうごめいていることも、 騒がしさもわい雑さも感じるネーミングである。

 そして、 「まちかどプランナー」に、 中小企業的な親父とおかみさんの、 けんめいに地域コミュニティのなかで生きる、 まじめさ、 やさしさ、 進取の気質、 親しみやすさ、 を感じとるのは、 筆者一人であろうか。

 そして神戸の地で、 長年この「都市計画家」と「まちかどプランナー」を兼ねそなえ、 神戸言葉でまくしたて活躍してきた故・水谷頴介(えいすけ)さんの名を思い出す。

 「まちかどプランナーと、 復興について議論したいので、 紹介してほしい」。

バンコックからの都市計画家の要請である。

「小林郁雄さんという、 パイオニアがいる。

だが、 英語はどうする」「からだじゅうで聞いてみる。

心と心だ」「成功を祈る」。
(11月13日 記)

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震災被害はどこまでつかめたのか?

GIS/人的被害研究会始動 神戸大学建設学科助手 大西 一嘉

●今回の震災では、 にわかには信じられないほど多くの建物が被害を受け、 その結果として、 多くの人的な被害が生じ、 多くの生活が一瞬にして失われてしまった。

建物被害に対しては、 数多くの(かつバラバラの?)調査が行われたのだが、 「きんもくせい」の創刊号で紹介され、 第2号の巻頭を飾った、 あの建物被災度の現地調査は特筆すべき取り組みといえる。

そもそもは震災の混乱が収まり切らぬ1月29日夜にコープランで開かれた、 東京と現地側の計画家や研究者との懇談がきっかけで始まったものであるが、 関係者の予想を超えてアッという間に歴史的な大調査へ成長してしまったのは周知の通り。

今から考えると調査の中身など反省すべき点がない訳ではないが、 すでに複数の類似調査が進められていた中で、 あえて困難な全数調査に取り組んだ成果はその後の各地でのまちづくりの基礎資料として今も使われ続けており、 それなりの使命を果たすことができた。

●その後、 私のチームは神戸大学の総合情報処理センターの福島助教授らの協力を得て、 コンピュータ時代にふさわしく上記の建物被災度データの数値化にコツコツと取り組んできたが、 最近になってようやく地理情報システム(GIS)での活用にメドが立つようになって来た。

当面は神戸市内に限って建物構造とのクロス集計ができる程度だが、 用途、 人口世帯数、 地盤区分なども入力を進めており、 これまで地図上でアナログ的にしか把握できなかった建物被害状況が任意のエリア(町丁目等)を単位として集計することもできる。

その後の復興状況を重ねて考える計画ツールとしても使えそうだと考えている。

●私たちの作業結果(市内184,067棟)を神戸市からの公表値(9月時点)全壊54,949 棟、 半壊31,784棟と比べてみると、 34,194棟、 29,192棟(うち木造で31,234棟、 25,038 棟)と、 全壊棟数で約2万棟ほどこちらの集計値の方が少ない。

この違いは罹災証明の交付数等を基準に算定している行政データとの判定方法の差異によるものと想像しているが、 今後は住宅地図データを用いた戸数単位での集計を進める必要がある。

建設年代等の把握も進めて、 より詳しい要因分析やマイクロゾーニングへの展開も図りたい。

二度と同じような災害を繰り返さないためにも、 どこで何が起こったのかを科学的に明らかにする努力を怠ってはならないと思う。

なお、 絶版となった被災度マップについてもGISを基に形を変えて出版できればと考えている。

●今回の被災の特徴を一言で整理すると、 近代都市という装いの陰で市街地更新の取り残されたインナーシティが直下型地震に襲われ、 老朽化した木造住宅、 特に木賃アパートや文化住宅の多くが倒壊し、 その結果多くの人命が失われたということであろう。

55 00人をこえる未曾有の死者数は、 ジャンボジェット機10機が同時に墜落したのと同じだ。

航空機なら国による事故調査委員会が組まれ大規模な徹底調査が続けられるはずである。

しかし、 今回亡くなった人々がどんな住宅に住み、 どのように暮らし、 なぜ死にいたったのかについての正確な情報は少ない。

もちろん、 地震後に多くの研究者や技術者が調査に訪れたが、 多くは倒れたビルに群がるように耐震性調査をしていただけである。

亡くなられた方の多くが木造住宅に住んでいたのだが、 それらの多くは十分な検証もされないままガレキとして処分され、 詳しい状況を知る遺族の方々も各地に散らばりつつある。

●そこで、 シティーコード研究所の大津氏が呼掛け人となって「人的被害研究会」と名乗る組織が発足した。

地震工学、 耐震工学、 法医学、 地域防災などの研究者7人を中心に横断的な自主研究グループの誕生である。

私も幹事として加わり、 まず手始めに東灘区魚崎・本山地区を対象に負傷者を含む人的被害に関するアンケートやヒアリング調査を手掛けようと活動を始めた。

被害を受けた方の中には地震のつらさを思い出すことに耐えられないとお考えの方もおられるため、 徹底解明がどこまで進むかは未知数だが、 できる限り被害の全貌に近づき人的被害予測モデルの開発に結びつけたい。

皆さんからも様々な情報をお寄せ願えればと考えている。

●昨今、 話題の地域防災計画では策定に先立って被害想定を行うのだが、 その根拠となる既存の人的被害モデルはかなり古い災害を基礎にしている。

さらに、 都市居住者の4割が住むマンションが層崩壊すれば大量の人的被害が一気に発生するため、 従来の確率論的な統計手法による想定では十分に説明しきれない可能性も高い。

今日の暮らしで精一杯の被災者や、 明日のまちづくりで頭が一杯のプランナーにしてみれば、 過ぎ去った地震被害は遠い話になりつつあるかもしれぬが、 次なる大地震がどこに来るかは誰にも分からない。

今回の教訓を後に生かす意味で、 我々の使命も大きいと考えている。


(10月30日 記)


建物構造別被害状況率


RINZOを用いた死者発生分布図(甲南町・魚崎北町)

震災復興に「土地三分権手法」のすすめ

都市計画コンサルタント 村松 茂

 阪神大震災の復興には、 従来から行われている「土地区画整理手法」を軸に進められ、 今後公的・私的資金を何兆円も投入し、 被災者の将来を再建しようとしている。

 しかし、 その手法だと個々に再建される建物は個々の資金力の差で、 その品質度はバラバラなものになり、 再び災害に弱い部分を抱えた都市に戻してしまう心配が生じる。

 また、 例え「都市再開発手法」で建物も併せてマンション群として立派に再建しても、 この度の震災で、 一部マンションビルが被った構造的破壊を、 後の世代で再び被ったらどうしようかという不安。

自らの土地に再び莫大な資金を注ぎ込み、 幾世代にも渡って住み続けようとする個々人にとっては、 な危険負担問題として残ってしまう。

 そこで、 これらの危険負担問題を公的・私的に広く分散させ、 しかも堅牢で計画的な都市づくりを、 新たに進めるために、 「土地の三分権手法」を提案する。

 それは、 土地の権利をほぼ三分割し、 その内、 私人が3分の1、 国と地方公共団体の公人が3分の2を所有するものである。

公人は3分の2の権利で、 道路だけでなく建物の躯体部分までの人工土地を計画的に建造し、 その共有廊下部分までを地先道路と考えて、 上下水道やガス等も引き込み、 その内側に私人の生活空間部分を3分の1の権利として供給する手法である。

 これは区画整理の立体換地手法の延長線上で、 さらに数歩すすめた考え方でもある。

 この方法での震災復興は次の4つのねらいを基本理念とするものである。

 第1に「居住・生存権の確保」である。 被災者は現在所有する土地の3分の2の権利を国と地方公共団体(市町)に譲渡する替わりに、 公共所有の、 より危険負担の少ない人工土地に、 ほぼ永久に居住できる使用権を安心して残しておくことができる事

 第2に「耐災害人工土地の公的保障」 その居住空間は人工土地とは言っても、 雨風・地震・火災に耐える造りにする事

 第3に「ライフラインの公的確保」 日常生活や社会活動に必要なライフラインを、 居住者の戸口まで、 公的都市施設として供給する事

 第4に「公的サービス施設として屋外空間の整備義務の強化」 居住者全体の社会生活空間として満足できる一般道路・空地・緑地その他公共施設を計画的に整備する事

 この考え方は国はその居住者に人工地盤を提供してその土地の生存権を保障し、 市・町はその土地の周辺も含めた地域全体の都市造りとその快適な都市環境を保全する責任を持ち、 住民(個人・法人)はその地域のルールに沿った都市活動を行う権利と人工土地活用の義務を持つ事であり、 これらが「土地の保有・整備・活用」の3分の1づつを分担するという「都市造り思想」である。

 また、 この復興への数兆円の投資は、 単なる土地購入資金とは異なり、 都市建設工事としての実需要となるので、 経済・社会への総合的波及効果が高く、 極めて即効的であり、 しかも非バブル的である。

従って、 急務を要する景気回復への強烈な起爆剤にもなりうるのではないだろうか。

 その実現性については、 地域住民がまとまりよく参加すれば、 この度の被災地のような地価の比較的高い地域では、 特に事業化し易いものと思われる。 今後の各方面での積極的な検討を期待するものである。

(10月19日投稿)
埼玉県入間市春日町2-12-3-401  TEL&FAX.0429-63-1723

INFORMATION

「白地地域」でまちづくり協議会が発足
―灘中央地区(神戸市灘区)―

 きんもくせい第14号で神戸芸工大の田中直人氏が紹介された灘中央地区で「まちづくり協議会」が11月21日に結成された。

 当地区では、 震災前から同氏らの助言により、 商店街の若手が中心になって商店街の活性化に向けて様々な検討を行ってきたが、 震災後、 地域の復興は商店街だけでなく地域の居住者とともに考えなければならないということで、 自治会や婦人会、 老人会に声をかけるとともに、 下図のようなまちづくり構想案を検討してきた。

 灘中央地区は「白地地域」である。

従来からまちづくりの気運・土壌があったことが協議会の結成につながったとも言えるが、 法定事業の導入が見えない、 被災市街地の大部分を占める白地地域の復興まちづくりの1つのモデルとして大きな期待がもたれる。


全体構想図(上図をクリックしてください)

p3

花咲かだより(号外)

1。

街角広場に「区の花」を

 一回目の種蒔きのころ、 愛知県からたくさんのサルビアの苗(2万株)が届き、 どこに植えようかと皆で大騒動したことがありました。

「せっかくのご好意を無駄にはできぬ」と奮闘し、 区の花として長田区鷹取の大国公園に1万株、 西神に、 東灘区に芦屋市にと分けていただき、 今も赤・白・青と色とりどりの花が咲いています。

 その時お世話くださった造園コンサルタント会社をされている辻本智子さんが、 今回も花の苗を届けてくださる方があると連絡をくださいました。

 この際各区の街角に『区の花』を揃え、 皆さんに見ていただける場所を造ったらどうでしょうか。

場所は一時的な場所でもしばらく(ここ2〜3年)使えるような場所なら十分と考えます。

毎年少しづつでも品種を増やし整えることによってこれからの観光名所としても使えるのではないかと思います。

 ネットワークの方々の知恵をお借りしたいと思います。

いい案をお寄せください。

2。

「ガレキに花」Tシャツのその後 「きんもくせい16号」の花咲かだより・その6に紹介しました阪神市街地緑花再生プロジェクトのシンボルマークのTシャツはあっという間に第一弾が売り切れ、 懲りずに再製してしまい、 いま在庫の山にため息の日々です。

 しかし、 どこからともなく注文があり、 今更ながらネットワークの人脈とパワーに頭の下がる毎日です。

各地の販売促進部や促進室の皆様ご苦労様です(特に東京の宮脇研究室さんありがとう!)。

本部の中井美賀子と天川佳美はTシャツに埋もれる夢に魘されております。

どうか今後もご注文はネットワーク事務局までよろしくお願いいたします。


花咲かグッズ

各種イベントのお知らせ

市民とNGO「防災」国際フォーラム

−阪神・淡路大震災1年を前に暮らし再建へいま」見すえて−

国際観光地復興フォーラム

−ボーダレス時代の国際観光地づくり−

第3回ユイ・フォーラム

−女性たちの発言 住まい・暮らし・地域−

ネットワーク事務局より

阪神・淡路ルネッサンス・ファンド(HAR基金)

−第1回助成について−
 前号で紹介したHAR基金の第1回助成申請は11月の18日で締め切られました。応募数は31団体を数えました。

 今回の助成は平成8年3月末までの活動に対して助成されるもので、 200万円を限度に5件程度が決定される予定です。

今後の日程は以下のとおり。

〈公開審査〉

「復興市民まちづくりVOL.3」発刊のお知らせ

1.「復興市民まちづくり・VOL.3」はボリュームが2倍に
 区画整理や再開発区域のまちづくり協議会の動きが本格化してきたことが主な要因です(一方、 それ以外のエリア(白地)での取り組みは遅れています)。

ボリュームが多くなった分、 紙面を縮小しています。

少し見づらくなっていますがご容赦ください。

2.継続購読のシステムを始めました
 今回から、 継続購読の申し込みをしていただければ、 自動的にお手元に3カ月に1度郵送されるシステムを始めました(送料無料)。

今後とも継続的に発行して行きたいと考えていますので、 ご協力のほどよろしくお願いします。


事務局のコスモス畑に園児もたくさんやってきた

次回のコレクティブハウジング応援団、
東・中・西合同市街地連絡会について

 このページ左下に掲載している「市民とNGO防災国際フォーラム」の〈まちづくりフォーラム〉に合流することになりました。

第11回・神戸市東部市街地連絡会

■連絡先:阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク事務局
〒657 神戸市灘区楠丘町2-5-20
まちづくり株式会社コー・プラン
TEL.078-842-2311 FAX.078-842-2203
担当:天川・中井

〒657 神戸市灘区六甲台町1
神戸大学工学部建設学科
TEL.078-803-1029 FAX.078-803-1029
担当:児玉

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このページへのご意見は学芸出版社/前田裕資

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