大道芸イキイキ空間

あとがき


ビル・ブルックマン


 ストリートパフォーマンスの追っかけが私にとって趣味の範疇を越えるようになったのは何時だっただろうか。 テントの設計以外何の仕事の経験もないまま二十五歳で自分の会社を始めてしまい、 プランナー、 コンサルタントとして細々と暮らしていた私は心底大道芸が大好きだった。 世界中の街を歩いて出会った大道芸人たちの数も種類も果てしない。 優れた大道芸人の持つ空間を掴むノウハウと、 人をハッピーな気分にさせる術を何とか自分の仕事に活かせる方法がないものかなどと無謀なことを考え、 そして実行してしまった。 最初はストリートパフォーマンスで空間を魅力的にし、 まちを活性化させる試みは、 私の実験であり自分の見い出した法則と信念を実証するためのものであった。 何度も何度も失敗し、 その失敗と世界各国から私の招聘でやってきたパフォーマーたちからたくさんのことを学び、 また挑戦する勇気をもらいながら失敗を重ねているうちに気がついたらビジネスになっていた。

 今年大道芸でまちづくりをしようということをとんでもない規模でやってくれた人がいる。 静岡の天野進吾市長だ。 たった四日間のフェスティバルに一億四千万円もの金を出し、 ワールドカップを開催しそれに二万ドルもの賞金を出した。 その表彰式典での挨拶で「静岡は世界中から大道芸人に集まってもらえるようなまちづくりをする」と声高に宣言した。 市の中心部のストリートは、 大道芸を自由にできるようになっているそうで、 四日間で一一一万人以上動員した。 このイベントの成功は、 ふらっと入った寿司屋でも居酒屋でも「楽しかった」「来年もやるらしい」という声が聞こえたことで確信した。

 欧米風のストリートパフォーマンスが単なるお手軽イベント、 人寄せパンダとしてではなく、 大道芸の本質的なエネルギーを発揮できる形で活用された例のひとつ、 静岡の大道芸フェスティバルのようなものがもっと生まれて欲しい。 そして大道芸ファンがもっともっと増えて欲しい。 ある空間である時間にいあわせなければ出会えないストリートパフォーマンス、 そしてその存在で空間がまったく異なる魅力を発揮するストリートパフォーマンスが日本の街角でもっと自然に見ることができるようになった時、 日本の都市はそこに身を置くだけで本当に嬉しくなるような魅力を持ち得るのではないだろうか。

 最後にこんなテーマで出版して下さるだけでもありがたいのに、 少しずつファックスで送る原稿に欠かさず返事をくださった学芸出版社の前田さん、 イラストを描いてくださった木村芳子さん、 ストリートパフォーマンスをプロデュースする機会を与えて下さったクライアントの皆様、 写真を提供して下さった皆様、 私の招待で日本に来てくれたパフォーマーたち、 そして私の道楽につきあって一緒に珍しい仕事を頑張ってくれたアートランドのスタッフに心から感謝いたします。

  一九九二年十一月十日
  高田佳子


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学芸出版社『大道芸イキイキ空間』/ gakugei.kyoto-inet.or.jp

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