はじめに
阪神・淡路大震災が発生した1995年1月17日から約1週間後に、 日本都市計画学会関西支部が母体となって、 同本部学術委員会ならびに日本建築学会近畿支部都市計画部会が参加する「震災復興都市づくり特別委員会」を組織し、 全国の都市計画関係者、 学生に呼びかけて、 被災度別建物分布状況図の作成にむけた作業が開始された。
延べ1,100人を越える全国的なボランティアの活動によって、 この困難を極めた作業も2月初頭から3月前半にかけて終了し、 その成果に基づいた「阪神・淡路大震災被害実態緊急調査図集」の刊行が3月29日に行われている。
日本都市計画学会関西支部では、 被害実態調査の推進と併せて、 調査結果の集約分析・デジタル情報化、 ならびに各方面から得られる知見をベースとした専門的立場からの提言を目的として五つの研究部会を設置し、 検討を進めて来た。
その成果の最初の情報発信は、 3月31日の報告会において「阪神・淡路大震災の被害実態と復興都市づくりの展開」としてなされている。 その後各部会の論議を深め、 改めて7月25日に震災復興都市づくり特別委員会としての報告会「関西圏の新たな都市・都市圏構造の構築に向けて」を開催し、 その知見を社会に問うた次第である。
本著はこの報告会における各部会の発表内容を基にして再構成するとともに、 新たな執筆を附加して編纂したものである。
さて、 今次の震災は、 大都市直下型という最もエネルギー集約の大きい形で臨海市街地を襲い、 6,000人におよぶ人命と10兆円に達する社会資本を失わせ、 数カ月間にわたって大都市中心部を孤立させるとともに、 わが国の西半分の地域に様々な形で経済的、 社会的マイナス影響を及ぼし、 さらにこの数十年間にわが国の文明が構築して来た都市ならびに都市圏構造の問題点を明らかにして、 21世紀都市文明のあるべき方向について根本に立ち返って検討すべき課題を提示するに至った。 そしてまた、 神戸市を中心とする市民・都市社会・都市構造の持つ可能性についても、 その貴重な体験を通して、 将来の都市にとって保つべき諸条件を教えてくれることとなった。
震災復興都市づくり特別委員会は、 これらの貴重な情報を集約しつつ、 第一に都市インフラのあるべき方向について、 第二に都市の生活空間を支えつつ防災機能を担うオープンスペースのあるべき条件について、 そして第三に、 より広域的な観点で都市ならびに都市圏のあるべき姿・形(構造)について、 それぞれに提言を行うこととした次第である。 また、 総合的なディスカッションを行ってその内容を採録し、 全体にわたる考え方の接点を解き明かすべく努力をした。
以上本書は、 一方で今次の震災の教訓を踏まえ、 検討のベースをその直接関わる関西圏の実態に置きながらも、 今後わが国の各都市、 各地方において取組むべき一般的課題としても、 知見を述べていくこととしている。
この内容が広く社会の眼に触れ、 論議のベースとなって、 各都市各地域のこれからの安全都市形成に役立つことを願いつつ緒言としたい。
本出版に至る過程で、 数多くの人々、 組織、 企業関係者のご協力を賜った。 特に日本都市計画学会関西支部ならびに同阪神・淡路大震災復興都市づくり支援センター事務局の方々には、 本当に大きなご苦労をおかけした。 また本出版を心よく引き受けて下さった学芸出版社のご協力も強い力となった。 ここに合わせて深く感謝申し上げる。