福祉のまちづくりデザイン

福祉のまちづくりの検証
視覚障害者

 視覚障害者は障害の程度により、全盲、弱視およびその他に分けることができる。視覚障害者は歩行等のために目で形、位置、形状、状態等を確認するのが困難であり、また記述事項を確認するのが不可能な場合が多い。白杖は歩行上の障害物や安全性の確認を行う重要な補助具であるが、盲導犬によって歩行上の安全性を確保している場合もある。

 福祉のまちづくりのうち、視覚障害者に対する具体的な方策として自治体等において近年、積極的に敷設されてきたものに点字ブロックがある。これまでの歩道の舗装はアスファルトやコンクリートブロックが主体であったが、街路景観に関心が高まるなかで、歩道の舗装もカラー化し、各種のタイル・ブロック等様々な材料が用いられ始めた。これにより目立つはずの黄色の点字ブロックと同じような色の歩道になったり、場合によっては点字ブロックそのものの色が黄色以外の色に変更されたりして、弱視者に対しては視認性の低下が指摘され始めている。

 また、交差点等では車いすを配慮した歩車道の段差の切下げに対応し、視覚障害者のために点字ブロックが敷設されているが(写真3)、他の歩行者や自転車の人が引っ掛かったり、雨天時や濡れた場合にすべって転倒するといった事故も生じている。さらに幅員が十分でない歩道の場合、どうしても点字ブロックの上を歩行せざるを得ないが歩行感がよくない。

 さらに、せっかく、設置された点字ブロックの上に自転車や看板等を放置していることも多く、視覚障害者にとっては危険である(写真4)。

 震災により歩道の舗装は大きな被害を受けたが、バリアフリーのための点字ブロックの破断は逆に歩行上の大きなバリアを生み出した。緊急対応におわれる状況の中で、破損した歩道の点字ブロックは長く放置されていた。仮設的対応であっても、すべての人が通行できる対応措置が必要ではなかったかと思われる。

 筆者らは、近年の福祉のまちづくりでよく用いられている点字ブロックについて、利用者である視覚障害者の外出時の通行の状況と利用状況および点字ブロックに対する意識調査を震災後に行った。図2は通行時に「困難」「危険」な場所と感じている場所の有無を示すもので約八割の人が有りと答え、その内容は、駅のプラットホームと道路の側溝に集中した。現在、ほとんどの駅のプラットホームには点字ブロックが敷設されているが、それでも視覚障害者にとって「困難」「危険」な場所とされたことは現状の点字ブロックの有用性が問われる。

 東京の地下鉄で最近開業した南北線においてはプラットホームにスクリーンが設けられ、電車の扉と合わせた乗降口が設けられている(写真5)。点字ブロックさえ敷設すれば、視覚障害者に対する配慮はすんだという時代ではない。

 通行中の事故経験の有無については、半数近くの人が有りと答え(図3)、その内容は駅のプラットホームや道路の側溝への転落事故と階段での転落事故、段差でのつまずき事故等であった。点字ブロックはこれらの事故防止の方法として用いられているが、唯一最高の方法ではないことをまず認識すべきである。

 点字ブロックは一部で点字と混同して、足でたどって使用されるという誤解があるが、視覚障害者にとっては、目で見てわかりやすいことが重視されている。点字ブロックが黄色であるかどうか以前に、路面との色の差が明快で、点字ブロックが目立つことが重要である。目立つことはデザインにとって必要な場合と必要でない場合がある。その使い分けが福祉のまちづくりデザインにおいても重要である。

 点字ブロックとともによく用いられるものに「触知図式案内板」がある。建物や道路、公園など施設の案内として、地図(図面)とともに主要な場所(部屋名等)と形状を点字によって表現したものである。点字だけでなく、晴眼者にもわかるように墨字での表記も併用していることが多い。

 晴眼者にはこの設備が「眼の不自由な人のためにあるのだ」と理解されても、視覚障害者および関係者に対する調査からは、この「触知図式案内板」によって空間を認知できる障害者は皆無だということが明らかになった(図4、写真8、9)。すなわち、指先でなぞって空間を思い描くことなどは至難の業ということである。視覚障害者のために配慮したと思う設置者の意図とは違った利用者の声がここにもある。

 今回の震災により、視覚障害者にとっては、従前の“心の地図”に描かれた街が激変し、新たな“心の地図”を求めて行かねばならなくなっている。同様に、広く一般市民の心の中にも“心の地図”や“地域のランドマーク”は存在するはずであるが、震災ではこれらの大部分が失われてしまったと思われる。

 景観を考慮するために、できるだけ周囲になじませるデザインをして、思わぬ危険を生じることもあるので注意しなければならない(写真6、7)。せっかく、設置した点字ブロックも施設管理者の良好な管理がなければ問題が多い(写真10)。また点字ブロックの敷設以前に歩行者の環境自体を改善すべきことも多い(写真11)。

 このように視覚障害者の生活環境にはまだ多くのバリアが存在し、現在、適用されている福祉のまちづくりデザインには多くの課題が残されている。


【証言】

知らないところには行けない

(視覚障害 宮崎正良、四三才 男性)

 私の自宅は神戸市中央区の市営住宅の一二階にありましたが、地震の時は西区の神戸視力障害センターにいました。私自身は助かりましたが、中央区は被害がひどく、家と家財道具などいっさいなくしてしまいました。

 行政は、私が視力障害であるにも関わらず、仮設住宅の申し込み、救援物資の配給、罹災証明の発行、義援金の申し込みなどすべてを指定の場所までしにくるようにと言いました。どうして全盲の視覚障害者が、今まで一度も行ったことのないところへいけるのか。ましてや知っているところでも、道路の状態は全く変わってしまって、あっちこっちに段差ができていたり、ブロック塀が倒れて通れない状態になっているのに。

 仕方なく、何とか中央区福祉事務所にいって義援金を申し込んで、ボランティアさんをお願いしていろいろな申し込み、水、食料などを確保してもらった。特に市民交流センターの人、近所の人にはいろんなことでお世話になり感謝しています。

私のように、行きたくても初めてのところにはいけない人間がいることを行政にはわかって対応してほしいと思います。

 仮設住宅でも、最初よその家に入ってしまったりして大変でしたが、ふれあいセンターができてから、手引きをしてもらったり、買い物をしてもらったりして助かっています。

ヒヤリング担当 岩田三千子

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