プレイスメイキング
アクティビティ・ファーストの都市デザイン


おわりに


 「はじめに」で触れたような「豊かな暮らしのシーン」は、元来日本の都市空間の至る所で営まれてきた。それは1章でも解説したが、日本の伝統的な建築と都市の構成が「余白」と言えるようなセミ・パブリック、セミ・プライベートな空間を内包するものであり、その「余白」が多様なパブリック・ライフの受け皿となっていたからである。人口が減少に転じモノも空間も余剰になるこれからの日本の都市では、物理的な「余白」が大量に生まれる。空き家や空き地はもとより、利用されなくなった公園や交通量の減った道路、シャッターを降ろしたままの店舗等、所有・管理形態がさまざまな空間である。そうした空間の中から真に潜在力を持つものを発掘し、「アクティビティ・ファースト」の考え方で身の丈に合った改変・活用をしていくことが、これからの都市デザインの一つの使命ではないだろうか。

 プレイスメイキングはそうした都市デザインの一つの選択肢として大いに有効な手段である。本書は、プレイスメイキングの本質を正しく理解し、一過性のムーブメントではなく、地に足のついた手法として実践の現場で役立ててもらいたいという願いを込めて執筆した。

 今後生まれてくる膨大な都市の「余白」を目の当たりにして、真に価値のある取り組みをしていくためには、「どうやってやるか」の前に「なぜやるか」をすべての人が共有することが非常に重要である。各種の規制緩和制度や補助金を活用すること自体が目的化してしまっては、都市の本質的な豊かさの向上にはつながらず、無駄な時間と金を浪費するだけである。そうならないためには、改めて地域と向きあい、本当の意味での「選択と集中」に取り組む必要がある。本書で「プレイス」の概念から解説したのも、地域で大切にすべきことがそのまま空間に表出するような豊かな都市をもう一度取り戻したいという思いからである。これからの日本の都市を支えていく皆さんにとって、本書が日本の都市の豊かさとは何かを見つめ直すきっかけになれば幸いである。

 最後に、本書の出版にあたりご協力いただいた皆様に改めてお礼をお伝えしたいと思います。私にプレイスメイキングの概念を教えてくださったのは、大学に入った18歳の頃から都市デザインのいろはを教わっている工学院大学名誉教授の倉田直道先生でした。そして、博士論文としてまとめる際に多大なるご支援をいただいた工学院大学の野澤康先生、遠藤新先生、星卓志先生をはじめとした都市計画分野の先生方や、日本におけるプレイスメイキング研究の第一人者である筑波大学の渡和由先生と日本大学の三友奈々先生には、日本の学術界におけるプレイスメイキング研究の意義と可能性を教わりました。

 また、株式会社都市環境研究所の土橋悟さんと高野哲矢さん(当時)、まちなか広場研究所の山下裕子さんと有限会社ハートビートプランの泉英明さんには、学術研究の成果が実際に日本の都市デザインの現場で活かせるものであることを証明する機会をつくっていただきました。本書の多くの部分が実務の現場での実践に基づく理論と手法として構成できているのは、この方々とのご縁があったからこそです。

 さらに、本書の中で紹介させていただいた各地の現場で活動されている皆様にも心よりお礼を申し上げます。繰り返しになりますが、プレイスメイキングとは海外から輸入した画期的な概念ではなく、これまで日本でも広く取り組まれてきた優れたプロセス・デザインを再定義するものです。ですので、私自身も今回紹介させていただいた各地の現場の皆様に多くを学びましたし、本書の執筆はその取り組みがどのように都市に価値を生みだしたのかを改めて言語化する作業であったとも言えます。

 そして、最後になりましたが、本書の企画をご提案いただき、私の筆が進まない時も粘り強く伴走してくださった学芸出版社編集者の宮本裕美さん、表紙のデザインを手掛けていただいた装幀家の水戸部功さん、表紙の挿絵を描いていただいた「世界のタナパー」こと熊本大学の田中智之先生にも厚くお礼申し上げます。プレイスメイキングという概念を、文章やビジュアルを通じて読者の方との共通言語にしていくというプロセスを、このような素晴らしいチームでチャレンジできたことは、私自身にとって生涯の宝物になりました。

 多くの方に支えられて形になった本書が、皆様のパブリック・ライフをより豊かなものにする一助となることを願っています。


2019年5月
園田 聡