本書の主題は、「プレ・モダニズム時代における近代化を目指した都市の改造」である。具体的に、この時代の都市に対する社会的、経済的要求の変化と、その要求を受けた実際の都市の変化を俯瞰しようとしている。その中でも特に、都市の近代化のために意思を持って仕掛けられた事業を、ここでは広義の「都市改造」と位置づけて比較検討している。この都市改造の事例については、主にパリ、ウィーン、ベルリン、ロンドン、東京を取材対象とした。
さて、今なぜプレ・モダニズム時代なのかを考えてみよう。私たち日本の都市・建築関係者は、これまで「近代化(モダニゼーション)」よりも「モダニズム」に焦点を合わせて学習し、議論してきたように思う。議論の舞台となった「モダニズム(近代主義)の時代」は概ね、第一次大戦後に始まった時代で、過去を否定することから始まり、新しい時代を肯定的に捉えながら都市・建築の生産に励んだ時代である。
一方、本書では、この時代の前の「プレ・モダニズムの時代」あるいは、「近代化(モダニゼーション)の時代」を対象としている。これは、フランス革命勃発(1789年)と第一次大戦終結(1918年)が、始まりと終わりを連想させる時代である。そこでは生産技術の進歩、産業構造の変革、そして社会の形の近代化が都市・建築に対して変化を求めていた。この時代の人々は、近代社会という未来に向けて、過去につくられた都市空間を真正面から捉えた上で変革させようとしていた。これは、近代主義者が過去を不問にした上でなにかを築こうとすることと、全く違う作法だったのかもしれない。
今、私たちは近代の生産・消費システムなどを肯定的に捉えるモダニズムを疑い、乗り越えていく時を迎えている。その前提として、プレ・モダニズムの時代に繰り広げられた近代化(モダニゼーション)を理解しなければならないのである。
この本は大雑把に言うと、まず都市の近代化の系統を確認し、これを体現していると思われる都市改造事例を列記している。この性格から、都市・建築のイノベーターたらんとする人たちのための参考書や資料集になると考えている。また、都市の近代化が社会・経済や思想・文化の近代化とも密接に関係したことを考えると、一般教養として広く読まれることも期待している。多数の図版の整理には苦労が伴ったが、これらの図版が読者のイマジネーションを喚起することを願っている。
最後になるが、事例については先達の業績に依拠しつつ、なるべく複数の書籍を確認し、系統に沿って紹介していることをお断りしたい。これについては、章ごとに参考文献を明記してあるので参照していただきたい。
2008年3月 宮城県大和町にて 永松 栄
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