花と緑のまちづくり


はじめに

 花と緑豊かなまちづくりは、国際的なガーデンシティの創造であり、それぞれの街の自然・社会風土を基盤にした総合的な取り組みである。日本では主として江戸時代に、城下町、門前町、あるいは宿場町など、活気に満ちたまちづくりが行われ、その面影は全国に残されてきた。ところが明治以降、戦災、高度経済成長などをきっかけに、日本の景観は大きく乱れ、緑や水辺も少ない殺伐とした姿に変貌してしまった。同時に、社会生活の欧米化が進み、園芸の分野でも、日本産の植物や庭のデザインが軽視され、欧米の流行に追随する時代が続いた。

  兵庫県では十数年前から、欧米の都市景観の整備、自然と大地の保護、水辺の生かし方などの調査研究を続け、それらに関わる市民を中心とした、企業や大学などとの連携についても学んできた。世界のガーデンシティを調査して驚くことは、街並みづくりに日本を中心とした東洋の植物が予想以上に多用され、水辺や庭の造作にも日本風の石組やデザインが散見されたり、日本産の地被植物が目立って街並みの個性を際立たせていることである。日本人がないがしろにしてきた日本の植物や園芸文化が海外で重用されているのを見るにつけ、我々は世界に誇る日本の植物や園芸文化の素晴らしさを改めて認識すべきだと痛感する。

 日本では、1990年代以降、ガーデニング人口が増えたが、未だ全人口の30%前後に満たない。世界一のガーデンシティといわれるニュージーランドのクライストチャーチ市では、全人口の80%がガーデニングに勤しみ、市の予算の15%が花や緑の施策に使われている。日本のガーデニングは、まだまだ個人で楽しむ趣味の園芸から脱していない。このガーデニングが、生活と深く結びついたり(生活園芸)、街の景観を整えたり(景観園芸)、子供の情操教育や園芸療法などの福祉厚生に貢献する(社会園芸)という最終目標を達成するまでには、まだまだ時間がかかりそうである。

 本書で取り上げたのは、世界の代表的なガーデンシティの一部にすぎないが、これらの都市の先進的な取り組みを参考にしつつ、日本の環境風土を活かし、先人が築いた景観文化を継承しつつ、日本独自の花と緑のまちづくりに取り組むことが大切である。本書が、その取り組みの一助になれば幸いである。