農ある暮らしで地域再生


書 評
『地域開発』((財)日本地域開発センター)2006.9
 現在、少子高齢化等による社会状況の変化から、都市住民は暮らしを豊かにするツールとして、あるいは自己実現を目指すライフワークとして「農」に強い関心を持ち、みずから農業に参入し始めている。一方農村住民も、ファーマーズマーケット、農家レストラン、農家民宿ブームにみられるように、農産物や田園景観を生かして都市住民を呼び込み、疲弊した地域経済と弱体化した農村コミュニティに活力を取り戻そうとしている。そのような中で、本書では、都市と農村を結びつけ、新しい価値観とライフスタイルを創造し、地域経済を活性化させる流れを「アグリ・ルネッサンス」とし、それに向けた様々な方策を、実例も交えながら紹介している。
 農産物の大量規格品が求められ、地価が高騰し、都市と農村が対立していた時代の発想と規制をきっぱり捨てた田園まちづくり実現のための処方箋としてぜひ読んでいただきたい。

『農業協同組合新聞』((社)農協協会)2005.8.15 ―― 自著を語る
JAの資産管理事業の再構築を願って
  今から37年前、JAグループが提唱した「農住都市構想」は農住共存型のまちづくりの指針として、土地区画整理事業や宅地供給・賃貸住宅建設などに大きな成果をあげ、JAの資産管理事業を支えてきた。
  しかし、バブル崩壊以降、都市部では地価下落とデフレで「まちづくり」が破たん寸前、農村部では高齢化と過疎化で「農村活性化」が暗礁に乗り上げ、JAの資産管理事業も社会・経済環境の激変に対応した理念と事業の見直しを迫られている。
  この八方ふさがりの現状を切り開くカギ、それは『農ある暮らし』である。これこそ、都市住民と農村住民が直接手を結び、新たな価値観とライフスタイルを創造し、地域経済を活性化させるためのキーワード。その芽生えは、すでに「コーポラディブ住宅」「体験農園」「ファーマーズ・マーケット」「農村女性起業」「優良田園住宅」などの事業として、全国各地に続々と出てきている。
  この本は、『農ある暮らし』の実現に向けて、都市農地を活かして住環境の改善とコミュニティの修復をはかり、農村資源を活かして地域を活性化していくための実践的な手引き書。まちづくりと資産管理事業に関わる農家地権者やJAグループの役職員ならびに行政担当者には、ぜひともお読みいただきたい。
  閉塞状況を嘆いていても現実は何も変わらない。夢を語るだけでは展望も開けない。さあ、過去の常識や固定観念にとらわれず、新たな発想で地域再生の具体的なシナリオを描き、農家の資産と暮らしを守り、JAの資産管理事業を再構築するために、まず一歩を踏み出してみませんか。

『都市問題』((財)東京市政調査会)2005.8
「都市・農村共生」時代の扉を開く
本書は、少子高齢化等の時代背景の変化や農村部におけるコミュニティ崩壊等の課題に対応した新たなまちづくりを実践するための指南書となる。その最大のテーマが「農ある暮らし」。今こそ「都市・農村共生」時代に向け動き出すべき時として、「農ある暮らし」に焦点を当て都市と農村の結び付けを図り、独自の「田園まちづくり」に取り組むことこそが、地域再生の手段として有効であると、著者は主張する。著者の基本的な時代認識と新たな発想によるまちづくりの必要性・関連性については、本書の「はじめに」において要約されている。また、著者は、農林水産省と国土交通省共管の研究機関「社団法人地域社会計画センター」常務理事の肩書きを持つ。同センターの設立準備(1973年)に参画以来、農住まちづくりや、ファーマーズマーケット建設、農村活性化事業等のプロジェクトを数多く手がけており、本書では、著者の豊富な経験と知識を踏まえたまちづくりの実践手法が、余すことなく披露されている。
  本書の構成は4章からなる。第1章「少子高齢化でまちづくりが変わる」では、これからのまちづくりを考察する前提として、時代背景や住民意識等がいかに変化し、まちづくりにどのような影響を与えているか現状を分析する。まず、都市住民の住まい選びに関して、暮らしの安全・安心や豊かさなど「ソフトの質」を重視する傾向にあるとし、アンケート結果や市民農園急増等の事例から、本書のテーマともなる「農ある暮らし」に対する都市住民の関心の高さを明らかにしている。さらに、住まい選びの流れは、「都市回帰」と「ふるさと回帰」に二極分化してきたと分析する。その上で、「都心回帰」の需要は、規制緩和の追い風を受けマンション建設ラッシュが続く都心再開発に象徴されるように一定程度満たされているものの、ゆとりある農村部に生活拠点を移す「ふるさと回帰」の受け皿づくりは、農地転用規制や開発規制により圧倒的に遅れていると指摘している。また、この二極分化が進む中、急速に地盤沈下しつつある郊外のベッドタウンにも焦点を当て、その最大の原因を上述した「ソフトの質」の欠如に見出し、この部分をどのように高め、魅力あるものにするかが、郊外住宅地再生の緊急課題と位置付けている。一方、都市近郊農家が置かれている状況に関しては、税制改正やバブル経済の後遺症に伴う固定資産税・相続税の負担増により、都市農地等の資産をそのまま維持することも、次世代に引き継ぐことも困難な状況に直面していると指摘する。そして、この状況を背景に都市近郊農家は、都市住民の価値観やライフスタイルなどの変化に対応できる新たな土地利用の途を模索している状態とし、制度上の課題と併せて農地利用に関する意識変化について明らかにしている。
  本書では、住民意識の傾向や変化あるいはまちづくりの実態等について確認する記述が随所に見受けられる。そこでは、各種統計資料やアンケート調査結果などがふんだんに活用されており、その内容は実証的で説得力あるものとなっている。また、これらの徹底した資料分析に基づく的確な状況把握は、著者が次章以降で展開する「田園まちづくり」に向けた提案のベースとなり、重要な役割を果たしているといえよう。
  第2章「都市農地を活かしてまちを再生する」では、都市計画法に基づく市街化区域内の「都市農地」に焦点を当て、都市部におけるまちづくりの手法や成功のためのポイントなどが論じられている。まちづくりの主軸となる土地区画整理事業に関しては、「もともと地価上昇を前提」とした事業制度と捉え、地価下落が続く情勢下においては「いずれ事業として成り立たなくなる」という基本認識を示す。その上で、都市農地の保全・活用を実現するまちづくりの手法として、インフラ整備から施設建設・運営管理までを一元的に実施できる「農住組合」の積極的活用、価格下落に対応可能な事業リスク軽減策として、土地区画整理事業に定期借地制度を組み合わせた新たな手法、住宅需要者自ら協同組合を結成し土地取得から住宅建設・管理運営までを自主的に進めるコーポラティブ方式の導入などを紹介している。さらに従来型まちづくりを「レディーメード」と位置付け、あるべき姿を「オーダーメード」のまちづくりに求める。「つくった宅地を売る」発想から「売れる宅地をつくる」発想へ転換し、街並み、暮らし、コミュニティの3つの観点からソフト面の付加価値をつけることの重要性を説く。なお、本章と次の第3章の章末には、複数の先進事例がテーマごとに詳しく紹介されており、著者が提案するまちづくりの手法を理解する上で効果的な構成となっている。
  第3章「農村資源を活かしてむらを再生する」では、前章(都市部)と対比させる形で農村部における実践手法について詳述する。その中で著者は、農村地域再生のためには、生産基盤のみならず生活基盤や自然環境を含む農村空間全体を一体的に整備・保全することが大切であると強調する。そして、農地利用に関し全国一律の農業生産基盤にシフトした規制や誘導が行われ、特定の作物を大量生産する「国内分業」に偏りすぎてきたこれまでの農政に疑問を呈し、この農政のあり方が食料自給率の低迷や耕作放棄地拡大の根本原因となっていると説く。こうした現状を打開するための抜本的な活性化策は、定住人口の確保にあるとし、その実現のシナリオを3段階に分ける。第1段階は「農を通じた交流」。章末で成功事例として紹介されるファーマーズマーケット等の活用による「モノの交流」から、農作業体験ツアーなど「ヒトの交流」へと発展させる。第2段階は「農を楽しむ滞在」。体験民宿に滞在してもらい農村と農業に対する思いを深めてもらう。第3段階は「農を活かした定住」。都市住民との相互理解と信頼関係が深まった段階で、田園住宅の整備等、農村定住に向けた取り組みを進める。農村側としてはかなりの手間と投資を要するが、第1、第2段階の過程を踏まえることでリスクは軽減されるという。その上で、これからのまちづくりに対する国や自治体の役割は、あくまで住民支援であるとし、農村住民の自助努力と自己責任が問われていると訴える。行政へ責任転嫁しようとするこれまでの傾向を否定するものであると同時に、行政による画一的あるいは一方的な規制や関与を否定するものといえよう。
 第4章「都市と農村を結んで地域を再生する」では、都市部に近い市街化調整区域や非線引きの都市計画区域など「市街化区域の外側」をこれからのまちづくりの表舞台と位置付け、「田園まちづくり」実現のためのシナリオを展開する。都市・農村間におけるコーディネーターの必要性、自主的な規制・誘導のための市町村条例の活用、マスタープランのゾーニング等について、現行法制度の関係や課題などを踏まえ丁寧に解説している。さらに土地利用を一体的・総合的にコントロールするための究極の目標として、ドイツやフランスの制度を紹介しながら「都市・農村計画法(仮称)」の制定を強く求めている。そして章末において、「田園まちづくり」が軌道に乗れば、都市と農村住民双方の意識改革が進み、地域再生とコミュニティ復権への道筋が見えてくるとし、本書の主張を総括している。

  著者は、これまでの都市計画と農業振興計画は対立関係にあったという。分野を問わずこれら縦割り的発想に起因する弊害は少なくなく、この政策的対立も、都市の過密化と農村の過疎化という「都市・農村対立」の構図を生んだ一要因となるものであろう。しかし、本書においては、これら既存制度の課題や縦割りの弊害等を指摘することに主眼を置くというよりはむしろ、各種制度の組み合わせ等によるまちづくりの新たな手法や取り組みについて意欲的に提案・紹介している。この点に本書の大きな特徴がある。理想を掲げ問題提起に終始しない著者の試みに共感すると同時に、崩壊的傾向に歯止めが効かない農村部の現状に対し危機感を強め、自立と活性化を願う著者の切実な思いと熱意が感じられ心打たれる。さらに、著者の豊富な経験と知識に裏付けられたまちづくりの実践手法には学ぶべき点が実に多いが、それだけではなく、農村部の現状や都市部との関係、農業のあり方等、さまざまな社会的課題についても改めて考える機会を与えてくれる書である。この意味において本書は、幅広い層の読者にとって大いに意義のある一冊といえよう。著者がいう「都市・農村共生」時代に向けた試みが各地で展開され、地域再生へと花開くことを期待したい。
(齋藤紀明)

『地方自治職員研修』(公職研)2005.7
 地価下落とデフレで都市のこれからが不安視される一方、農産物価格の下落と農業従事者の減少・高齢化で農村は存続自体が危ぶまれてさえいる。そんな都市と農村をめぐる状況を一変させるのが「アグリ・ルネッサンス」。それは、都市と農村を結びつけ、新しい価値観とライフスタイルを創造して、地域経済を活性化させる。本書は事例を挙げて、都市住民が豊かさを求める中で農に目を向け、農村住民も農作物と景観とで域外から人を呼び込み、地域の活力を取り戻そうとする姿を描く。

『建築とまちづくり』(新建築家技術者集団発行)2005.6
 いつのときでもそうだが、時代を先取りしている人々がいる。元祖、先駆者、隠れファン。この本の表題の「農ある暮らし」も興味深いテーマであり、みなさんのまわりにもそんな人がいるだろう。しかし、この暮らし──ライフスタイルの先取りは、なかなか勇気がいる。趣味的なものであれば個人の問題と判断されるが、特別な生活様式を取れば一般社会からの離反行為、アウトローのように受け取られ、羨ましがられる一方で身勝手と決めつけられがちである。
  しかし、表題のように「農ある暮らしで地域再生」であれば、もうこれは誰でも選択できる一般的ライフスタイルに格上げされたことになる。そう考えてみるとこの本は広く読まれるべきである。先輩は我が意を得たりと納得するであろうし、躊躇していた後輩市民は安心して農ある暮らしを選択することが容易になる。
  著者は地域で農ある暮らしのできるまちづくり手法の展開を期待している。その理解を高めるために制度や事業手法などを詳しく述べ、またデータ(数字や出所)を示しながらの説明は大変説得力を持っている。現状認識の正確さは専門書としての価値を裏付けている。
  しかしそれ以上に、一般市民がたまたま手にしてその思想に賛同する図書となることを期待したい。生活者がこの考えを後押しすることが実践に結びつくのだから。また、農家自身が農業の専門性を広く市民に開放していくことも必要で、ある練馬区の農家の積極的展開が市民の賛同を得て成功を納めている事例は示唆に富んでいる。
  農ある暮らしはライフスタイルである。ライフスタイルは生活創造思想である。様々な制度の支援によって農ある生活の基盤事業が成立する仕組みとそれを受け入れる農家と市民の意識が大切なことになる。著者はこのアグリ・ルネッサンスこそ農家や市民の持つ意識(固定概念や常識)を変革するものだと言っている。その意味では技術書の体裁を取りながら啓発書になっている。
(Y)

『環境緑化新聞』 2005.5.15
田園まちづくり実現のための処方箋
副題はアグリ・ルネッサンス。これこそ都市・農村共生時代の扉を開くカギであるとする。かつては対立関係にあった都市計画と農村振興計画の距離が急速に縮まってきたというのがその根拠。著者はJAグループのシンクタンク(社)地域社会計画センター常務理事。実践プロジェクトに数多い実績がある。
  アグリ・ルネッサンスの目標は、都市住民及び農村住民の意識を「田園まちづくり」を通じて改革することだ。が、改革は容易ではない。過去の大量生産・大量流通・大量消費の世の中の実際が変わらなければならない。この常識を断ち切り発想を変えることが出来れば、地域を再生させる具体的なシナリオも描けよう。都市住民と農村住民が直接手を結び、「農あるくらし」と「地域自給」を推進力として「田園まちづくり」共同で実践していくことだという。
  少子高齢化でまちづくりが変わる。都市農地を活かしてまちを再生する。農村資源を活かしてむらを再生する。都市と農村を結んで地域を再生する。と4章で実現の処方箋が綴られる。

『日本農業新聞』 2005.4.18
 郊外にちょっと足を伸ばし、田園に出たとき、晴れ晴れとした気分になるのはなぜだろう。今ごろは麦の緑が鮮やかなところも多い。緑の豊かさのせいか。都市に緑がないとは言わない。いや街路樹など美しい街並みがある。でも、最初はきれいだと感じても、感動は長続きしない。きっと「農」がないからだろうと勝手に思う。
  本書は「農ある暮らし」の基盤(地域)をいかにしてつくるかという指南書である。
  都市農業は危機を迎えているという。農地はいつでも宅地に転用できると農家は思っていたが、住宅・宅地需要が激減、そのうえ税負担が重くのしかかっているためだ。打開策がないことはない。宅地を農地に転用するという逆方向の「農地転用」という発想があってもいいのではないかと指摘する。
  実は、この農住共存型シナリオは1968年にJAグループが農住都市構想で描いていたが、宅地並み課税など種々のアメとムチ政策でほんろうされてきたと解き明かす。農家の土地に対する意識は、「保有していれば資産」から「利用してはじめて資産」に変わりつつあり、いまこそ「農ある暮らし」に戻るチャンスというわけだ。
  一方、こうした発想はコミュニティーが崩壊した農村の再生にも広げられると論ずる。純農村も都市農業と同じ危機を含む。そこでファーマーズマーケットを都市住民と農村住民がふれあう交流施設にするなど、住環境整備の必要性も提言する。団塊の世代は数年後には定年を迎える。いまの都市では得られない「農」のある生活を求めて、農村に住むことを考える人も多い。こうした地域再生に共に知恵を出したい。

『地域農業と農協』((社)農業開発研修センター)vol.35
 本書は、現場での調査研究やコンサル経験豊富な著者が書き下ろした、「これからのまちづくり」のあり方についての理論的実践的な研究書であるが、「農ある暮らし」をキーワードに、「アグリ・ルネッサンス」を起こそうと呼びかける啓発書でもある。
  著者は、JAグループの「農と住の調和したまちづくり」を支えるシンクタンクとして定評のある(社)地域社会計画センターにおいて中心的に活躍されている方であり、一級建築士でもある。筆者が訪れた農住組合や大規模ファーマーズマーケットなど先駆的優良事例とされる全国の多くの現場には、深く関与された著者の足跡があった。
  こうした著者ならではの説得力を持って、「アグリ・ルネッサンス」が提起されている。要諦は、「これからのまちづくり」では、都市と農村を結びつけ、新しい価値観とライフスタイルを再構築することがポイントであり、そして、そのことが地域経済再生の処方箋となるとの見解である。
  本書の内容は、第1章「少子高齢化でまちづくりが変わる」、第2章「都市農地を活かしてまちを再生する」、第3章「農村資源を活用してむらを再生する」、第4章「都市と農村を結んで地域を再生する」の4つの章から構成されている。
  第1章では都市住民と農村住民双方の意識変化を分析し、「これからのまちづくり」の方向性を明らかにしている。そして次章以降ではその各論として、第2章では都市農地をどう活用して魅力的な「まちづくり」ができるか、第3章では農村をダメにする4つのモザイク(土地利用、土地所有、土地利用意向、コミュニティ)を、農村のみにある様々な資源を活用していかに解消し、農村を再生するか、第4章では都市・農村共生をめざす「田園まちづくり」をどう進めるか、各章の随所に魅力的なアイデアを豊富に提供している。
  本書の副題である「アグリ・ルネッサンス」という言葉には、「これからのまちづくり」が単なるハード面ではなく、「農ある暮らし」に着目した新しい価値観の創造が欠かせないという、私たちに対する強いメッセージが込められている。本書は、非常に理解しやすい言葉で、しかも、著者がかかわった全国の事例も沢山盛り込まれていて、読者に元気を与えてくれる。ぜひ一読をお薦めする。
(瀬津 孝)