人間都市クリチバ


 

国際交通安全学会賞受賞

服部 圭郎 著『人間都市クリチバ』が第26回国際交通安全学会賞・著作部門を受賞いたしました。

◎受賞理由
 本書はクリチバ市の30年に及ぶ都市計画・環境計画を綿密な調査によりまとめたものです。
 ブラジルの地方都市であるクリチバ市は、環境都市として、さらに交通政策や都市デザイン政策などを果敢に実践してきた都市として、世界的に注目されています。クリチバ市は交通政策の面、とりわけ悪いイメージがあったバスを斬新なアイディアで魅力的な乗り物に変えた取り組みについて多く紹介されています。しかし本書では、その政策は30年以上も前にしっかりとしたマスタープランを策定し、それを羅針盤に、確固たる意志に基づいて多くの課題を乗り越えてきた結果であり、単に交通政策だけでなく、土地利用政策、緑地政策、都市デザイン政策などを包括的にとらえたものであると分析しています。すなわち、交通需要が顕在化する以前に予め交通ネットワークを整備し、それに整合性のある土地利用を指定して都市開発を誘導しつつ交通政策を進めるとともに、問題が生ずるごとに努力を積み重ねてきた結果であることが分かります。そして、すべての政策が「人」を中心に展開され、市民の立場に立った行政サービスに心がけていることが成功の要因として挙げられています。一方、日本では、都市計画という手法が間違っているのではなく、その手法を適切に使いこなせていない人々と行政システムの方に要因があると指摘しています。そして、すでに多くの研究者が指摘していますが、その手法をわが国へ適用するためには、優れたリーダーと長期的視野の都市計画が不可欠と述べています。
 著者は都市・地方計画、都市デザインを専門にしており、クリチバ市の都市政策について、多くの関係者への取材と、著者自身によるフィールド・スタディ、文献調査を行って本書をまとめています。本書は、クリチバ市の政策を先駆的な事例として解りやすく紹介、解説し、様々な政策を包括的にとらえる必要性を示して、都市計画や交通計画を実践する方々に、新しい視点を提供する内容となっており、著作部門の受賞にふさわしいものと高く評価されました。