書 評

 

 

『ECHO』 75号

 

自転車問題は身近であるが難しい

 自転車は、日本ではおそらくもっとも身近な交通手段として普及しています。その手軽さ、便利さゆえに、まちの中で問題を起こすともしばしばです。駅前に大量に並ぶ放置自転車。商店街への買い物客の自転車が挙げられますが、こうした問題が起こる背景について、また対策のメカニズムといったことが社会的に知られていないことがかなり多いように思います。
 この本は、自転車利用をめぐるさまざまな問題意識に立って、自転車と日本社会とのこれまでの関わりについて、その経過と全体像が具体的に書かれています。自転車をもっと使おうという立場(健康、CO2抑制の視点)、そして自転車を抑制しようという立場(利用者モラルの低下による放置)、それぞれの論理について、豊富なデータや分析に基づきながら説明されています。日本の社会でのクルマ普及と現在の自転車をめぐる問題との関係や、駅への自転車の大量殺到が起こるきっかけ、また行政による駐輪対策の根拠など、一般に理解されているようで実はされていないことが詳しく述べられていて、身近で手軽なテーマだと思われがちな自転車問題が、実は複雑で難しいテーマであることがわかります。
 自転車の路上放置は、歩行者や車いすの通行の妨げになる、美観上の問題、緊急時の救助の妨げといった問題を引き起こします。いかに効果的に近距離での利用を減らし、決まった場所へ自転車を誘導するかという視点で、さまざまな方法が実験され、費用、配置、方式などが考えられています。無料の駐輪場をいくらつくっても、放置自転車の呼び水になるだけという構図がデータから明らかにされています。

商店街と自転車の関係

 商店街での自転車の問題は、駅前での自転車問題と考え方を異にしなければなりません。放置者は商店街にとってお客様であり、行政は放置者を条例に基づき規制する立場にあるとともに、商店街を活性化する立場にあります。商店街内でも駐輪対策についての理解度がまちまちになりがちです。また商店街利用者の歩行導線は複雑で、放置したお客がどの店に行っているのかが明確ではありません。ゆえに商店街個店の「うちの店先に放置してあるがうちの客ではない」という声も上がりやすいという構図があります。ほかにも駐輪時間が短い、放置者が近くにいる、発生が不定期である、近くても自転車を使う人がいるなどの違いがあり、駅前とは対策のあり方が異なります。
 筆者は、買物自転車の移動距離に着目し、「自転車商勢圏(自転車による商店街への来客が発生する圏域)」の考え方の導入を提案しています。商店の売り上げは人の通行量に比例し、その意味からは、買物自転車の量を商店街の活力を示すバロメーターとしてとらえ、集客戦略の観点から自転車問題を見直してみるというものです。
 ほかにも、世界諸国の自転車利用の状況やその対策、また自転車を都市交通システムの中に組み入れるための、国内でのさまざまな試みについて紹介されています。
 まちなかの自転車問題について表面的なとらえ方でなく全体像をつかむ、また皆さんのまちでの自転車利用について、ルールづくりや活用法を考えるうえで基礎知識を身につけるのに、おすすめの本です。

(津川)

まちづくり交流誌『エコー』(豊中市まちづくり支援課発行、年4回)

 各地域のまちづくり活動ほか、新しい制度や事例、まちづくり活動の参考となる本などを紹介しています。「エコー(ECHO)」は Enjoy Communication and Have Our Vision の略で、「楽しく議論しよう。そして、自分たちのビジョン(将来目標)を持とう!」という姿勢を表しています。

『ASHITA』 1999.7

 放置自転車の問題が顕在化してから20年ほどが経過した。それ以後、駐輪場の整備は重要な行政課題となり、実際、かなりの都市でさまざまな駐輪場・駐輪施設が整備されたが、問題解決には至らず、相変わらず放置と撤去のいたちごっこが続いている。
 本書は、駐輪対策のみならず、交通対策、まちづくり、エコロジーなど、総合的な観点から自転車問題をとらえている。自転車を主役としてまちづくりを考えた書として、ある意味画期的なである。自転車は、これまでとかく脇役として考えられていたからだ。
 自転車は環境面でも、単・中距離の交通手段としても、すぐれた乗り物である。問題の駐輪場にしても、駐車場よりはずっと手軽だ。もっと見直されてよい。自転車を主役とした総合的なまちづくりを考えていけば、ずいぶんと住みやすい街ができるのではないか、そんなまちづくりのヒントとなる書である。
 


学芸出版社