これからの鉄骨構造

まえがき


 鉄を使い始めたのはかなり古くからである。近世以前は少量生産しかできない貴重な資源だったから、その用途は特定のものに限定されていた。貴金属ともいえる存在であったのが、18世紀頃に大量生産の方法が開発されてから急速に普及してさまざまな用途に使われるようになり、社会基盤設備の大規模化を促し、産業革命を導く原動力の一つとなった。我が国でも建設材料としての鉄鋼の利用は明治時代から本格化したが、当初は輸入品でまだまだ高価だったのが自国で大量生産できるようになってから徐々に一般的となってきた。今や一般の住宅に使われることも珍しくなく、構造種別の中で鉄骨構造の比率が最も高い鉄骨構造国といえる状況になったことは、戦後に鉄鋼の製造能力が飛躍的に伸びて世界有数の生産国となったことが大きな要因である。

 現在の鉄骨建築の技術は、我が国ではこの百年あまりの間に培われた新しい技術と見ることができる。鉄の歴史から見ればわずかであるが、その間に、粗鋼や形鋼の製法、リベット、ボルトや溶接の接合法、これらを組み合わせてつくる骨組の構造計画や設計法、とりわけ耐震設計法など、立ち止まることなく常により合理的なものを求めて歩んできた。かつてアングルやチャンネルを現場で加工してリベット接合してきたのが、H形鋼と溶接の普及によって工場加工へと製作形態が変わり、1981年施行の耐震設計法によって終局強度設計の考え方が取り入れられてからは、部材の幅厚比や接合部の保有耐力接合など、より変形能力を意識した設計へと変わってきた。そして1995年の兵庫県南部地震では破断という破壊の究極の姿による変形の限界を教訓として学び、さらに多くの技術的知見を得て21世紀を迎えた。

 建築基準法は性能規定へ移行し、設計者は施主とともに自らの判断で目標性能を明確にした設計を目指す時代がやってくる。そのような変革の中で設計や施工に携わる技術者に求められるのは自身で解決する判断能力である。今まで以上に根本的な原理原則を正しく理解して使いこなす技量を養わねばならない。新しい世紀を担う方々の一助になることを願い、本書を上梓する。

筆者一同 


学芸出版社
目次へ
学芸ホーム頁に戻る