時代はいよいよ21世紀を迎えた。現在、世界は情報革命の大きなうねりの中にあり、工学・技術の分野だけではなく、政治、経済、社会から日常の個人生活や人々の価値観にまで大きな影響を及ぼしている。
確かに情報、電子、通信工学の技術的な進歩は著しく、天賦のものとされてきた自然界の生命までもが人為的に操作することが可能になってきている。このような時代の流れの中で、自然現象に逆らうことなく、むしろ融和しようとする姿勢で発展してきた伝統的な「ものづくりの技術」は、ともすれば軽視されがちである。
振り返ってみると、18世紀には産業革命が起こり、このことが本書で述べたように今日までの鉄骨構造発展の起源となった。この発展の過程では、鋼材の製造技術をはじめとして、構造工学や解析・設計技術に対する精力的な取り組みが背景にあっただけではなく、実際の建築物として実現可能にする建設技術や加工技術への、携わる人々の並々ならぬ貢献があったことを忘れてはならない。
建築が将来も人々の生活の基盤であり、豊かな社会を創造する役割に変わりがないとすれば、「ものづくりの技術」の重要性を今一度再認識することが重要であろう。しかし、現在までの「ものづくりの技術」をそのまま踏襲する姿勢ではなく、ITなど新しい技術を積極的に取り込み、さらに進歩・発展することを願いたい。
本書は以上の事柄を意識しつつ、鉄骨構造の内容についてできるだけ平易に記述したつもりである。読者諸兄におかれては、本書の内容に対する御叱正、御批判を切にお願いする次第である。
2001年5月甲津功夫・吹田啓一郎