建築基準法は,戦後間もない昭和25年に制定された法律です.その目的とするところは「建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準」を定めることにあります.その最低の基準を定めることにより,国民の生命,健康及び財産の保護を図ることができ,ひいてはそれが公共の福祉の増進に資すると考えられるからです.
ところで,その基準も時代と共に変化・向上して参ります.建築技術の進歩に対応してその技術レベルが向上することもあるでしょう.国民の期待する水準がレベルアップする傾向もあります.特に環境問題(日照・遮音等)での要請は高まりを見せています.
そこで,建築基準法令の内容は,絶えず改正につぐ改正が行われ,時代の要請に対応する努力が続けられて来ました.しかし,それは屋上に屋を重ね,増築・改築や修繕を繰返すのに似ていました.もうそれも限界に近くなったとして,先に一たんこれまでの家屋を取壊し,新らたな設計により建て直すのに似た大改正が行われました.平成10年の大改正です.
それは内容的には,これまでの「仕様規定」を「性能規定化」するものでした.また,制度的には建築行政の民間開放を主体とする大変革でした.
それだけに,これまでの法令に対する考え方を改めなければならず,また内容的にも勉強をしなおさなければならない,という必要性にせまられて来ました.もうこれまでの解説書では間に合わなくなって来ているからです.新しい酒は新しい革袋に盛るの譬えのように,新時代の法令にはそれに副った解説書が必要です.そのような要請に則って本書は執筆されました.
次に,本書の特色を示します.1)最新の内容であること.とにかく平成10年の大改正は,内容的に3区分され,平成10年,11年,12年と3年間にわたり,順次施行されて来ました.そのため,法令集も解説書もそのたびに改訂が行われて来ましたが,古いものはそのたびに役に立たなくなってしまいました.さらに平成12年及び14年の都市計画法関係の改正で,建築基準法の第3章集団規定関係の規定も改められ平成13年5月及び15年1月から施行されました.本書は,それらの改正の最新の内容を採り入れています.2)図解による説明が多いこと.本書を手にしていただくと,どのページも右側には図(イラストレーション),左側には文章による解説という構成をとっています.建築基準法は,主として建築関係技術者によって活用されていますが,建築関係者は図面を理解する能力に優れています.建築物は立体空間ですので図面で表示した方が理解しやすいからです.これは建築関係法令の説明についても言えることです.そこで,本書はできるだけ図(イラストレーション)を用いて理解を深めることとしました.3)各テーマ毎に,何のためにこの規定が設けられたのか,その目的を示すこととしました.4)テーマ毎に見開きのページで.さて,建築基準法令は,その法令集の厚さからみても判るようにその内容は複雑で多岐にわたっています.そこで,主要なテーマを85項目にしぼり込み,そのテーマ毎に解説しました.そして,見開きのページ(左に文章・右に図)で,そのテーマを完結できるように努めました.内容によっては必ずしもそうなっていない部分もありますが,ほぼこの考え方は貫ぬかれています.そこで,テーマ毎に区切りをつけて読んでいただければ,効果的な勉強ができるものと考えています.5)相互の関連を重視して.そのテーマも完全に独立したものではなく,テーマ相互に関連の強いものが存在します.そこで,用語の定義等は,参照ページをできるだけ示すこととしました.また,巻末には索引を設けましたので,それを活用すれば,より有機的な理解が深まるものと思います.6)根拠法令は脚注で.法令の解説は絶えず,その根拠となる法令の条文が必要となります.そこでそれぞれの参照条文をページの下部に示しました.7)できる限り告示の内容も採り入れて.性能規定化により具体的な材料・仕様・構造方法は,すべて告示として示されるようになったので,主要な告示の内容はできる限り同時に説明するようにしています.
本書は以上のような特色をもった建築基準法令の解説書です.本書を活用して新しい建築基準法の内容の理解を深められるように期待しています.
高 木 任 之
平成14年3月
この版の内容は,その後の改正内容に則り平成20年1月1日現在の法令に従ったものとなっています.
平成20年2月
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