今から10年ほど前、床材として杉を使い始めたら、木の業界の人にまで、傷がつくものを使うのはどうかとお叱りをうけた。しかし、入居された施主からは「足触りがいい、暖かい」と喜ばれ、「工事の苦労は大変だったでしょう」とねぎらわれた。なかには病気から回復した人もいて、この経験を発表してもいいものか悩んでいるときに、当時東京大学教授であった有馬孝禮先生から「本当にあったことでしょう。ひとつずつ施工例を積み重ねていきなさい。そのことが建築士としての役割でしょう」と励まされ、仲間と活動を続けてきた。
本書がきっかけとなり、国産材を使う人が増えることを願っている。木を住まいに使うことはそこに住む人々の健康だけでなく、CO2の固定といった環境面で果たす役割も大きい。山にお金が戻って、山が手入れされ、若木が植えられるために、棚板一枚からでも使ってほしい。
多くの人が使うことにより、現場のノウハウが積み重ねられ、さらに、木の魅力を引き出す新たな使い方が提案されることを期待している。木にはまだまだ秘めたる力があると信じている。
未来に向かって、木を育て・守る活動を広げていきたい。
木をさまざまなかたちで使いたいという私たちの無理な要求に答えてくださった製材メーカーや林業関係の人たち、現場で一緒に苦労して夢を実現して下さった大工・工務店の方々、情報がなくて困っている私たちに、丁寧にご指導いただいた京都大学生存圏研究所所長・川井秀一先生はじめ研究所の先生方、奈良県森林技術センターの方々、施主の皆様にもお礼を申し上げます。中でも奈良女子大学名誉教授、疋田洋子先生、「木のなんでも相談室」の松山将壮先生、故京都大学大学院教授増田稔先生には、温かく見守っていただき、心よりお礼申し上げます。
本書を書き上げることが出来たのは学芸出版社の知念氏のお陰である。励まし、根気強く指導していただき深く感謝致します。
2006年3月
もく(木)の会代表 藤田佐枝子 |