『建築士』((社)日本建築士会連合会)2006.3
この本のタイトルに“四寸角”が出てくるので、意表をつくタイトルで人をひきつけるためかと思っていた。しかし、読み進むと坪、寸、間などが、注釈なしでどんどん出てくるので、わが国の度量衡がどうなっているのか、とまず考えさせられた。
このように古い度量衡が堂々と出てくるのは、在来工法ではまだ“寸”や“間”が、生きているからであろう。
この本は、著者が民家の再生や新しい家を設計するかたわら、民家について雑誌などに発表したものを集大成したものである。
したがって重複の記述が多いが、何回も読むと、それだけ著者の思いが伝わってくる。日本の森林の現状や、杉の活用が急務であることから、オール杉の“板倉の家”を設計している理由が良くわかる。
“板倉の家”は、はじめは板倉さんの家かと思ったが、柱の間に厚さ一寸の杉の板を落とし込む工法で、江戸時代からある工法の一つである。
いま、わが国の在来工法は大変混乱している。いろんな工夫ができる自由さは良いが、北米の在来工法とも言うべきツーバイフォーのように、工法が標準化されることはいつのことかと考えてしまう。
この本は、わが国の民家が、学ぶべき多くの点を持っていることや、“板倉の家”から、わが国のこれからの在来工法や森林資源を考えるための格好の本である。
(大海一雄)
『室内』((株)工作社)2005.10
木造住宅の需要は根強い。しかし、海外の構法に、日本伝統の木造住宅が押されているのもまた、事実である。今、木の家に住みたいと願う人達は、四方柾目や無節の柱を重んじた伝統的な住宅の価値観ではなく、素朴な木の味を求めている。だからこそ、著者で建築家の安藤邦廣さんは、国産スギを活用し、大工の技術を絶やすことなく現代の要求に合った構法─板倉構法─を確立した。
柱梁には四寸角のスギを用いる。さらに、一寸厚のスギ板を落とし板にして耐力壁にする。柱梁の継手仕口は大工の技で作って、補強金物は使わない。
本書は、国産材の現状や木造住宅の歴史、古民家の知恵を引合いに、これまでの板倉構法の取組を整理して、広く深く理解されることを目的としている。
日本人にとって、木は仲間である。山が荒れ、環境が狂い、過去の知恵が忘れられていく今、安藤さんの挑戦は希望である。
(聖)
『民俗建築』(日本民俗建築学会)No.128
第二次世界戦争における敗戦の後、戦災によって焼失した住宅復興の為、多くの木材を必要とした。建築用材確保の為、国を挙げて成長が早く、素直な材となる杉・桧(特に杉材)が多く植えられた。静岡県の某市は人工林が90%以上といわれた。しかし労働賃金の高騰は、広大な山林を抱えた山持ちを直撃した。又、生活の近代化は燃料への変化をもたらした。今日の都会では、煙を出すこともままならない。経済の発展とともに第一次産業は衰退の一途を辿ることとなった。これは肉体労働の回避とも受け止められる。
近頃大工の技術が低下したという話を良く聞く。材木の刻み(柱材や梁材などが組み建てられるよう寸法取りして加工する)の出来ない職人が増えているらしい。住宅建築の現場では、プレカットによる工場加工に頼り、大工が刻むことは殆ど無い。私は大工の腕力の低下と技術の低下が平行しているのではないかと思っている。腕力を使った鋸・鉋・鑿等を使う技術が、丸鋸・プレーナー・角鑿(電動鑿)等を使う事により腕力と技術が低下すると思うのである。
著者は都市部のこの様な流を止めるかのように、4寸角(約12cm)の柱を使った純木造建築を提唱して20年が経つという。この本の中に紹介されている著者たちの活動環境・作品等からはこの様な心配はあまり感じられなく羨ましく思うのである。提唱されている「住まいを四寸角で考える」には、我々日本人が各地に育んできた文化や生活環境を破壊することなく世代交代するための多くの方策と教訓を考えさせる。里山のこと、民家再生の意味、住まいの歴史、室内環境(暖冷房・換気等)、構造・工法、木造と人間、各地の民家・使われ方とその違い、民家生活の知恵等々、木の住まいの良さを説明するに余りある内容である。文末近くの井篭倉の部分には、筆者に同道した信州の倉の写真らしきものも見られ、懐かしく感じられた。本文は「住宅建築」「チルチンびと」等に掲載されたものを纏めたもので、「である言葉」と「です言葉」の文章が混在するが、違和感は無い。
現行法規で都市部に建てる為には外部周りの不燃化が必要であり、敷地の狭い場合は開口部にも制限を受けるので難しい面もある。地方に出かけても都市部でも住宅産業製の同じような形の住まいが建築されている。其処には歴史も文化も伝統も感じられない。めまぐるしい現代経済社会から一歩抜け出して人間性を取り戻す為にも、この本に提唱されている「木で作られた家」を考えることは大切であり、充分その価値はあると思う。住宅建築に携わる人、これからどこかに住まいを建てて暮らしたい人。地方に出かけ地理風俗習慣などを見聞する人等は、是非一読されてよい本である。
(宮崎勝弘) |
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