地域とつながる高齢者・障がい者の住まい
内容紹介
誰もが暮らしやすい住環境をいかにつくるか
地域包括ケアシステムが推進されるなか、高齢者や障がい者が自宅や地域でいきいきと暮らす環境が整いつつある。本書は、ライフステージや身体の変化、障がいの種類に応じた住宅の設計や改修、施設計画のほか、地域での支え合いや交流・通いの場づくりを紹介。建築や福祉など多分野の専門家がまとめた多職種連携にも役立つ書。
西野 亜希子 編著 岡部 真智子 編著 阪東 美智子 編著
著者紹介
体裁 | B5変判・172頁 |
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定価 | 本体3400円+税 |
発行日 | 2024-09-15 |
装丁 | テンテツキ 金子英夫 |
ISBN | 9784761533045 |
GCODE | 2353 |
販売状況 | 在庫◎ |
ジャンル | 設計手法・建築計画・住居学 |
はじめに
第1章 高齢者や障がい者の住まい・暮らしを支える
1-1 地域共生社会と住まい
1) 地域共生社会とノーマライゼーション
2) 外出して人・地域・社会とつながる
1-2 高齢者のからだと住まい
1) 高齢期の心身機能の特徴と住まい
2) 高齢期の住まい手の変化に応じた住まい・住まい方の選択肢
3) 毎日の生活で用いる移動方法と住まい
1-3 障がい者のからだと住まい
1) 障がいによる心身機能の特徴と住まい
2) 地域で暮らす障がい者・障がい児の住まい
1-4 地域で暮らす高齢者・障がい者を支える仕組み
1) 地域で暮らすとは
2) 在宅生活を支える福祉サービス
3) 地域で交流やつながりをつくる
4) 外出を支える移動環境
第2章 事例から読み解く高齢者の住まい
2-1 高齢者の住まい
2-2 アクティブな生活から介護予防まで
1)生涯夫婦で自立して本音の暮らしができる家
―バリアフリーで将来の変化を受容し地域の人を招ける新築住宅
2)住宅を改修して高齢期に備える
3)高齢期の移住とライフステージによる変化
4)サービス付き高齢者向け住宅
5)住まい方を工夫しながら住み続ける集合住宅
2-3 介護が必要になったら
1)片麻痺で車いすを利用する高齢者向け新築住宅
2)車いすで暮らせるように1階店舗を住宅改修
3)認知症に求められる住環境と自宅での環境整備
4)天井設置型の見守りセンサの活用事例
―見守りセンサにより介護職員と利用者の距離感を適切に保つ
5)可搬設置型の見守りセンサの活用事例
―見守りセンサにより介護職員・利用者の負担を軽減する
6)介護施設の新しい姿を示す木造・分棟型の計画
―ケアタウン小牧 特別養護老人ホーム幸の郷
7)物理的環境が認知症を支えることを実証
―認知症高齢者グループホーム こもれびの家
コラム 災害後の高齢者の仮住まい
第3章 事例から読み解く障がい者の住まい
3-1 障がい者の住まい
3-2 肢体不自由者の住まい
1)バリアフリーはストレスフリー―車いすユーザーが住むマンションのリノベーション
2)子どもの成長で変化する住要求に対応した住宅改修
3)障がいのある子どもの成長を促す住環境整備―家族にも配慮した段階的な改修
4)身体障がいのある人々が集まって住む―重度身体障がい者グループホーム
5)既存公営住宅改修による車いす使用者用住戸の整備
3-3 視覚障がい者の就労施設
1)視覚障がい者の就労施設における環境の工夫―五感活用で過ごしやすい自立の場
3-4 精神障がい者・知的障がい者の住まい
1)精神障がいのある人々が集まって住むグループホーム
2)強度行動障がいのある人々のためのグループホーム
3-5 発達障がい者の住まい
1)発達障がい児(者)の住まいの工夫
第4章 人と人のつながりを生む地域の実践
4-1地域でつくるつながり
4-2 地域の支え合い
1)自助・互助による住民が主役のまちづくり―神奈川県・横浜若葉台団地
2)地域交流のまちづくり―横浜市寿地区
4-3 通いの場づくり
1)小学校区ごとの小規模多機能型居宅介護施設の整備―大牟田市
2)学生が運営に参画するコミュニティ拠点
4-4 多世代交流
1)共用空間を活用し多世代で支えあって暮らす―千葉県・シティア
2)大学生が支え、支えられる団地の暮らし―兵庫県明舞団地
3)協働する住まい―コレクティブハウスかんかん森
4)“ごちゃまぜ”で暮らす―Share金沢
4-5 住民参加
1)住民主体のサービスづくり―沖縄県・波照間島
4-6 多様な活動とサービス
1)地域居住を多様な世代・サービスで支える―神奈川県・認定NPO法人ぐるーぷ藤
2)多様な制度外サービスを提供―もちもちの木
3)団地再生事業における居住者の交流の場づくり―柏市・豊四季台団地
コラム 制度外ケア付き福祉仮設住宅「あがらいん」
第5章 高齢者や障がい者の住まいの制度と相談窓口
5-1 介護保険制度における住宅改修費給付制度
5-2 障がい者向けの住宅改修支援制度
5-3 高齢者や障がい者の住まいの相談窓口
5-4 居住継続支援における多職種連携
おわりに
「知っておきたい用語・解説」索引
本書について
本書は、高齢になっても障がいがあっても、誰もが自分らしい暮らしや住まいをより主体的に選択できるよう、生活の基盤となる住まいと住まいのある地域に焦点をあてている。実際の計画や設計に役立てるため、多くの人の関心に沿うよう幅広く網羅することで、個別性が高く多様な住まい手の状況に応じた選択肢を俯瞰できるようにすることを心がけた。
本書の構成は次の通りである。まず、第1 章で「高齢者」「障がい者」の暮らしを支える概念や、からだの特徴・住環境について取り上げる。第2章の「高齢者の住まい」では、元気でアクティブな時期から、身体機能に変化が生じてからも住み続けるための自宅や、住み替え先となる住まいや施設の事例を紹介する。また第3章の「障がい者の住まい」では、肢体不自由や視覚障がい、精神障がい、知的障がい、発達障がいなど、障がいごとに工夫された事例を掲載する。第4章では、住民や行政、企業など様々な立場にある人が主体となり取り組んでいる地域・コミュニティづくりの事例を紹介する。第5章は、住まいに関するサービスや制度を紹介し、相談窓口となる場所を示した。また独自の取組みを行う自治体を取り上げ、全国一律ではない取組みがあることを紹介する。
本書の特徴
本書の主な特徴は、以下の1~3 である。
□特徴1:多様な「暮らし」を俯瞰し、一人ひとりに合った選択につなげる
ニーズが多様化する中、本人や家族には、一人ひとりに合った住まいや地域の環境を主体的に選択する機会が増えるだろう。そして、それらを支える設計者や関係する専門職には、住まい手の暮らしに寄り添った提案がより一層求められる。
本書が想定する読者は、高齢者や障がい者の住まいに関わる設計者はもちろん、福祉・医療関係者や建築関係者、まちづくりに携わる行政職など実務家である。さらには、こうした分野に関心を持つ研究者や初学者にとっても学びの教材にしていただきたいと考えた。
また、高齢者や障がい者、障がい児、そしてその家族にとって、暮らしでのわずかな頑張りすぎや我慢のしすぎを日常的に積み重ねることは、大きな負担になる。そのため、本人が持っている力を活かして「できること」を増やしたり、家族・支援者の生活にも配慮したうえで、その人らしい暮らしを実現するためのヒントとして、本書を活かしていただきたい。
□特徴2:事例を多用することで、その人にあった例を取り入れやすくする
新たな選択をする際に、候補となる住まいや地域の暮らしがイメージしやすいように、本書では多くの事例を用いている。各事例は共通項が見えるように、建物等の概要、計画・設計に至る経緯、課題を解決するための取組み、事例のポイント、知っておきたい用語・解説で構成している。第2章から第4章の冒頭では、その章の全体像がわかるよう表を設けるとともに、読者が関心を持ったどの事例からでも読んでいただけるよう工夫した。
本書で取り上げた事例は、執筆者の研究や実践の成果、くわえて日本建築学会高齢者・障がい者等居住小委員会の研究活動の成果を用いている。さらに、各事例には想定する読者をアイコンで示している(次頁参照)。
暮らしは住戸内で完結するものではない。そこで本書は、住まいだけでなく、暮らしを支える地域についても、先駆的な地域・コミュニティの取組みを紹介している。このように、生活の基盤となる住まいと、外出先であり、人とつながるきっかけとなる地域を取り上げることで、多様な選択肢が俯瞰でき、その人らしい暮らしの一助となる書籍づくりを試みた。
□特徴3:「用語・解説」で当事者の主体的参加や専門職間の連携に役立てる
暮らしにおける課題の解決策は一つとは限らない。暮らしの選択肢が増える中で、設計者は他の分野の専門職と連携し、建築以外の分野の専門職は建築に触れる機会が今後ますます増えることが見込まれる。そこで、それぞれの分野で重要とされ、多職種連携を円滑に進めるために互いが理解しておくことが望ましい用語を「知っておきたい用語・解説」として設けた。
一人ひとりが培ってきた暮らしの維持・継続につながる一冊として、多くの方に本書を手に取っていただきたい。暮らしにおいて自己決定が容易にでき、その人が持っている力を活かし、最期まで尊厳を持って、住み慣れた地域や自宅などでその人らしく安心して住み続けるために、本書が役立つことを願っている。
編著者 西野亜希子
本書は、「はじめに」でも述べたように、執筆者が研究対象としてきた実践や取り組んできた事例、日本建築学会高齢者・障がい者等居住小委員会の研究活動で得た成果を取り上げ、まとめたものである。いずれも高齢者や障がい児(者)を対象とした興味深い事例で、多くの読者に知っていただきたいと考え、選んだものである。委員会メンバーは建築分野を専門とする者だけでなく、福祉や医療、情報を専門とする者も含まれており、多用した事例も複数の視点から選択したものである。様々な分野からなる執筆者が選んだ事例を掲載したのは、一つでも読者の関心に沿ったものがあり、参考になればとの思いからである。また困った際の相談先を取り上げたのは、住まいに困りごとを抱えている、あるいは今後抱える可能性のある当事者やその支援者の住まいにかかる不安を小さくし、問題の解決につなげる一助となることを目指したからである。
以上の理由から、本書は非常に多くの執筆者の協力を得て作成した。取り上げた事例は、既に完成から時を経たものもあるが、今も役に立つ内容となっている。また今回の執筆にあたり、再度調査を行ったものも少なくない。事例提供をしてくださった施主や関係者のみなさまのご協力がなければ、これだけの事例を載せた本書は完成しなかった。ご協力いただいた皆様には、この場を借りてお礼申し上げたい。
近年、分野を横断する研究の意義が広く認識されるようになった。その面から言えば、本書は建築分野にとどまらず福祉分野等の視点も含んだ内容で、読者には高齢者や障がい者、またその家族に加え、彼らとの接点を持つ建築関係者や福祉関係者等を想定している。本書を通じて、建築関係者には福祉分野等を、福祉等の関係者には建築分野の一端を知っていただき、今後の協働作業に役立てていただければと願っている。互いの言語、考え方を知るための参考として本書を活用していただければ幸いである。
最後に、本書作成にあたり学芸出版社の中木保代氏と沖村明日花氏に心よりお礼申し上げる。中木氏には、本書出版にかかる伴走者として、我々に根気強く付き添っていただいた。中木氏・沖村氏の助言や支援がなければ、本書は完成までたどり着けなかったかもしれない。
多くの執筆者、協力者のおかげで完成した本書が、住まいの問題に直面する多くの高齢者や障がい者、その関係者にとって役立つものになることを願っている。
編著者 岡部真智子
開催が決まり次第、お知らせします。