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は じ め に

   

大河直躬

「まちづくり」と歴史的遺産の保存・活用

 各地の市町村が進めている「まちづくり」事業で、歴史を経た建物、城址、原始時代遺跡などの保存と活用を含むものが、とても増えてきました。

 「まちづくり」は、多くの意味を含んだ言葉です。生活環境の快適さと安全の確保を主な目標にする場合があります。農林水産業等の在来産業が活力を失いつつある市町村では、地域経済の振興が大きな課題になっています。

 それらと並んで、歴史的な建物や遺跡の保存と活用を大きく取り上げるようになったのが、最近の「まちづくり」の特色です。

 歴史を経た建物や遺跡は、以前は一般に「文化財」と呼ばれ、歴史的あるいは芸術的観点から見て特に価値の高いものだけが、保存されてきました。

 しかし最近では、保存され活用されるもののなかには、立派で有名な建物や遺跡だけではなくて、清流が流れる用水路や、農家の茅葺き屋根など、それぞれの地域が誇りにする非常に多種類のものが含まれています。

 また、このような私たちの身の回りにある多くの「歴史を語るもの」の全体を、「歴史的遺産」や「歴史的環境」と呼ぶようになってきています。

 「自然環境」とともに、それらが私たちの生活にとって重要だ、と認められるようになったことの反映でしょう。

 「歴史的遺産」の範囲は非常に広く、そのなかには建物や遺跡のような形のあるものだけではなく、それらと密接な関係を持って存在した、祭礼・芸能・技能・習慣なども含まれると思います。

 最近の「歴史的遺産」の保存のもう一つの特色は、それらを以前のままの状態で保存するだけでなく、現代生活のなかで積極的に活かしてゆこうという例が多いことです。これらは一般に「活用」と呼ばれています。

 「歴史的遺産」は、単に大切なものとして保存するだけでなく、現在の私たちの生活に役立つものだという考えが広がってきたのです。そのような見方から、「歴史的資産」「ふるさと資源」などと呼ぶこともあります。

 各種の歴史的遺産の保存と活用が各地で進められるにつれて、それらを支援する省庁の法令・補助事業や、市町村の条例・要綱等が、急速に整備されてきました。1996年の文化財保護法の改正によって生まれた文化財登録制度もその一つです。それらの刺激と裏付けを得て、「歴史的遺産」の保存と活用は、今後いっそう発展すると思います。

この本の目的と構成

 この本は、歴史的遺産のうちの建物と☆町並み☆を中心にして、各地の「まちづくり」でその保存と活用に努力されている方や、これからそれを始められる方の手引きになることを目的に作成しました。

 前に同じ編者によって『歴史的遺産の保存・活用とまちづくり』(学芸出版社、1995年)を刊行しました。そこでは、「まちづくり」と都市の歴史および歴史的遺産の関係を、全体的、網羅的に扱いました。それ以降の2年半に満たない短い期間に、歴史的遺産の保存と活用は各地でさらに盛んになり、関係する法律と補助事業もかなりの変化をみました。

 この本は、それらの経過を盛り込むとともに、より具体的な「まちづくり」に役立つために、歴史的遺産の「活用」と「再生」に重点を置きました。

 第T部は、基本的な考え方と、法制度の解説を中心にした内容にしました。外国の状況の紹介は、近代につくられた歴史的遺産の活用が盛んな米国を取り上げました。前著で、中国・イギリス・イタリアの状況を紹介したので、併せて参照していただきたいと思います。

 第U部では、「活用」と「再生」の実例をできるだけ多く紹介しました。また最近は、普通の建築業務に従事されている人で、歴史的建物の修復と再生に参加したいと希望される方が増えたので、すでにそのような活躍をされている方に自身の経験を語っていただきました。一昨年の阪神・淡路大震災は、歴史的建物の保存と再生についても大きな問題を投げかけました。現地でこの課題に取り組んでおられる方の貴重な経験も書いていただきました。

 前著の参考文献は、都市史と歴史的遺産に関する文献を広く収録しましたが、今回は、近代の建築と産業遺産の保存と再生、歴史的遺産と「まちづくり」および都市計画との関係に重点を置いて収録しました。また、今後は外国語による文献の参照も必要度が高くなるので、その主要なものも収録しました。これらと前著の参考文献を併用していただければと思います。

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大河直躬編『歴史的遺産の保存・活用とまちづくり』

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