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パートナーシップによるまちづくり

行政・企業・市民/アメリカの経験
【書  評】  

佐藤 博信

 

 近年、我が国の公共事業や都市開発に係る住民運動が活発化しているが、その多くは反対行動や抗議の意志表示であって、計画策定段階における建設的な議論は低調のように見受けられる。このような我が国の現状に照らすと本書の「パートナーシップ」には新鮮な響きが感じられる。パートナーシップによる都市開発とは、公共と民間の協議による都市開発の一つの特殊形態であるという。本書は、まずアメリカにおけるパートナーシップ導入の歴史的経過を述べ、それが多くの失敗と経験の積み重ねにより得られた方式であることを明らかにする。即ち、1950年代においては、地方自治体による計画策定からディベロッパー選考までの一切を自ら行う方式が、市場性の欠如等により失敗し、やがて計画段階から民ディベと交渉する形がとられ、更に1970年代に入ると地方自治体の財政難から、地方自治体が「規制者から起業家」へと変身したという。

 

 では、我が国の再開発事例との相異点は何か。我が国の地方自治体も、もはや民間との接触なしに都市開発は成立しないことは認識している。が、かと言って起業家にまでは転身し切ってはいない。アメリカの場合、補助金等の制度の枠組みの中に民間の参加を義務付けていること、あるいは民間に有能な都市プランナーが存在すること等であろうか。一方、我が国には住宅・都市整備公団のような公的セクターがあり、官と民を繋ぐ役割を果たし、結果としてまずまずの成果を上げてきたとは言えないか。幸か不幸か地方自治体が失敗から学ぶ機会がいまだ不十分ではなかったか。本書は、今後のまちづくりの方向を考える上での豊富な教材を与えてくれる。

(『建築士』1997年9号より)

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秋本福雄『パートナーシップによるまちづくり』

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