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『造景No.9』書評

 「まちづくり」について考えるとき、いつも戸惑うのはその内容が不明瞭なことだ。特に最近、まちづくりがブームになって、ますますその傾向が激しくなっている。本来なら官主導の都市計画に対し、市民と自治体との協慟によるコミュニティづくりを指していたものが、今では建設省内部に「まちづくり事業推進室」が設けられる状態である。言葉の乱発によって、本来、まちづくりと呼ばなかったものまでが、そう命名されるケースが少なくない。例えば、単なる再開発などに伴う旧来の住民対策にすぎない行政行為に対して、堂々と「まちづくり推進」と名付けられていたりする。

 このような用途の混乱だけでなく、まちづくりの定義付けには、もっと大きな問題がある。それは、まちづくりが近年多様に展開するようになったため、十分な理論形成が行われないまま、現実が先走りしていることに起因している。まちづくりには、都市計画だけでなく、社会、経済、心理、歴史など、多種多様の要素が含まれている。そのため、従来の学問的な枠組みでは捉えきれない面がある。

 現在、様々な専門分野を横断する実践学としての「まちづくり学」は全く出来ていない。したがって、実務者の間では、分かり切ったことでも、一般にはその内容がほとんど知られていない。市民のまちづくりを唱えるには、十分な説得力のある言葉や理論を持っていないのである。

 さて、前置きが長くなったが、本書はその名の示すとおり、「キーワード」によってまちづくりの内容を整理しようとする試みである。現在、まちづくりという言葉に含まれている事柄が「キーワード」として余すところなく解説してある。

 103のキーワードを「基本事項」「住宅・住環境まちづくり」「景観まちづくり」「歴史を生かしたまちづくり」「防災まちづくり」「交通からみたまちづくり」「健康・福祉のまちづくり」「水と緑(オープンスペース)のまちづくり」「生態環境のまちづくり」「循環型まちづくり」「市民まちづくり」の11項目に分類し、見開き構成で見やすく編集されている。また、必ず、参考文献が掲載されているのも役立つ。

 まちづくりには広範な市民層の支持が不可欠である。それには強い説得力のある言葉が必要である。本書の内容は、まちづくりの入門書として役立つ内容となっている。

『造景』No.9より

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