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森村道美氏書評

森村道美

長岡技術科学大学教授

 「まちづくり」という言葉に、明確な定義はまだ与えられていない。「まちづくり」という言葉が普及する過程で、それは、都市計画や住宅行政の範疇であるミクロな居住環境整備から、地域の活性化を狙ったまちおこし・むらおこし運動の展開やイベントの開催、そしてそれらを行うための仕組みづくりやひとづくりに至るまで、ひろがりをもつようになったと著者は言う。指摘のとおりである。

 全国にはさまざまな課題を抱えた「まち」が存在するから、また、われわれの価値観も時間の流れの中で変化していくから、「まちづくり」の内容が多様化することは当然だし、今後も「地方分権」・「住民参加」・「持続しうる環境」などのキーワードを軸として、もっとひろがりを持っていくことは確かであろう。

 まちづくりの内容の多様化は、それに係わるひとびとに日々学習を強いることになる。学習のためのいい手引き書が欲しいと多くのひとびとは考えるが、適当なものがない。ここに、本企画の狙いはあったものと思える。

 本書は、都市工学・建築学・環境科学・地学・住居学を修めた、代表者と13名の執筆陣からなるコラボレーション(共同作業)によって編纂されている。比較的若い、研究者とコンサルタントの混成部隊であるが、専門や職業の異なる部隊を組んだのは、「まちづくり」という総合的テーマに出来る限り近づこうとした配慮であろう。

 本書の構成について紹介しておきたい。まず11の分野が挙げられている。「基本事項」・「住宅・住環境まちづくり」(以下まちづくりを略)・「景観〜」・「歴史を生かした〜」・「防災〜」・「交通からみた〜」・「健康・福祉の〜」・「水と緑の〜」・「生態環境の〜」・「循環型〜」・「市民〜」である。そして、各分野について6〜12のメインキーワードがたてられ(計103)、それぞれのメインキーワードについて、図表も含めて見開き2頁の解説が加えられている。さらにメインキーワードに対応してサブキーワードが整理され、その中の重要なものについては(分野毎に9〜13)、1頁のスペースに納まる範囲で簡潔な説明が加えられている(合計124)。メインとサブを合わせて227ワードの事典である。

 利用者にとって、この事典はどんな特徴があるだろうか。順不同にあげれば、(1)巻末の索引を頼りに検索する利用方法もさることながら、分野毎に読む利用もありそうである。分野の最新の情報が得られるからである。(2)いわゆる都市計画や住宅政策よりも、防災・健康福祉・生態環境・循環型など、まちづくりの新しい視点に力点が置かれていて、前者に属する基本的なキーワードに欠けているものが若干ある。(3)キーワードの拾い方と記述、参考文献の提示の仕方が、分野毎のレベルが必ずしも揃っていない、などである。

 このような点を指摘できるにしても、本書が、まちづくりに係る行政官・市民・専門家、そしてこれからまちづくりを学習する学生諸君の、書架を飾るに相応しい書であることに変りはない。利用者は著者たちのまちづくりに向けた熱情に触れることになる。

『住宅』9706より

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