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はじめに

 昭和60年代以後「まちづくり」が全国の市町村で行われれるようになり、いまやまちづくりはブームとなっている。しかし、まちづくりとはどういうことかと説明を求められても、なかなかうまい説明が見いだせない。ましてやここで定義することは難しい。それは、まちづくりの概念が、変化、多様化してきたことによる。当初は都市計画やそれに関連する事業がまちづくりといわれていた。次に、まちおこしやイベント、そして仕掛け作りなどの地域の活性化につながることもまちづくりと呼ばれるようになった。そして現在は仕組みづくりや人づくりもまちづくりと呼ばれるようになり、ハードな面からソフトな面の意味まで含むようになった。また、地域や地区レベルでの意味から国土計画のような広域的な意味を含めて使われることもある。

 用語の使い方をみても「街づくり」「町づくり」「まちづくり」などがある。一般的に、「街づくり」は市街地などの街をつくる場合に用いられ、「町づくり」は自治体としての町をつくる場合に用いられ、「まちづくり」はソフトな意味を含めて幅広い意味で使う場合に多く用いられている。

 「まちづくり」は、明確な定義がないだけ、様々な要素や側面を含めた意味で使うことができ、使う側からすれば使いやすい言葉である。これがブームとなっている一つの要因であろう。

 また、住民にとっては、上位計画的な計画というよりは、合意形成というように、自らが関係し、共に知恵を出し合うというような意味が込められたことばである。そのため、民主主義的であり現代的であり、○○計画というよりまちづくりという方が住民にもマッチしているように響く。そしてわかりやすい言葉である。このようなところがブームになっている所以であろうか?

 英語ではコミュニティプランニング(Community Planning)があるが、これも解釈しようによってはいくらでも広義に解釈できる言葉である。以上で述べてきたような言葉の使い方は決してその意味を逸脱したものではないだろうが、なかなか適当な訳語はない。

 本来まちづくりは一つであるが、現実的には、景観、防災、福祉、環境、そして市民まちづくりなどのように、様々な側面から展開されている。総合的なまちづくりの体系があってそれらの各分野が展開されているというよりは、それぞれの分野のまちづくりが新たに展開されているのが実態である。そのため、これからは総合的なまちづくりが課題となってくる。

 さて、まちづくりの勉強をしたいと思うが、まず勉強するための基本となる適当な図書がない。勉強するにもまず言葉の理解が必要だが、なかなかまちづくりに関する適当な辞書がない、また、分野別の図書はあっても各分野を一覧できるような総合的な図書がない。

 本書はそのような現状を踏まえ、行政やコンサルタントの実務家やこれから学ぼうとする学生が、総合的にまちづくりを理解できるように、

「基本事項」「住宅・住環境まちづくり」「景観まちづくり」「歴史を生かしたまちづくり」「防災まちづくり」「交通からみたまちづくり」「健康・福祉のまちづくり」「水と緑(オープンスペース)のまちづくり」「生態環境のまちづくり」「循環型まちづくり」「市民まちづくり」

の各分野を取り上げ、分野毎に理念や計画・手法的な面を中心にキーワードを選び、具体的な事例を加え解説している。

 キーワードは、国土計画や都市全体的な広範囲のものよりは、地域や地区的なまちづくりに関連するものを中心に、今後のまちづくりの方向性を見据え最新の話題となっているものを選んでいる。そのため、新たにまちづくりに携わる人にとってはタイムリーで、また、いままで携わってきた人でも今までの知識を最新の情報で整理し、今後のまちづくりを展望するのに役に立つと考えている。

 基本的に各分野は、解説とメインのキーワード及びサブキーワードで構成されている。解説では、一般的に使われている言葉も含めたキーワードの関連図も加え、各分野のまちづくりの概要が理解できるように意図している。メインのキーワードでは、具体例をあげ、図、表、あるいは写真入りでできるだけわかりやすく解説している。サブキーワードは、よく使われる言葉や文中に出てくる言葉の解説として補足的に取り上げている。

 全体的に本書は、辞書としての言葉の理解から、各分野のまちづくりの概要、更にはまちづくりの全体像の理解までできるように意図し、よき手引き書となることを意図している。

 できるだけ多くの言葉を取り上げ、まちづくりの全体像が理解できることを意図したが、紙面の都合により割愛したものも多かった。商店街の活性化や防犯まちづくり、情報化まちづくりなども今日的なまちづくりの主要なテーマで、一つの分野になるべきものであるが、基本事項の中に一項目としていれた。また、まちづくりには経済的な話が伴うが、経済的な分野は除いた。更に、今回は都市を中心にとらえたため、農山村、漁村のまちづくりに関しては省いている。改訂版がでるときはこのような点も含め、時代、社会の変化に対応し内容を見直していきたい。

 会の名称はまちづくりコラボレーションとした。コラボレーション(collaboration)には共同研究、共同作業、合作、協力などの意味がある。まだ一般的になっていない、わかりにくいのではないかという意見もあった。しかし専門誌などでコラボレーションの特集が組まれ、国際会議でもその必要性が訴えられる今日である。いよいよこれからは、コラボレーションが時代のキーワードになるかも知れない。

 さて、この会は、今後も長く続けていこうということになった。その時々に応じて出版を含めて様々な活動をしていければ良いと思っている。

 本書の出版には、学芸出版社の前田裕資氏の力が大きい。会合には毎回足を運び、構成面などでも何度もチェックを要請された。その結果できた本である。従って本書は、執筆陣と前田裕資氏とのコラボレーションの結果である。

'97年1月
まちづくりコラボレーション代表 三船康道

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