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あとがき

 

 この本の端緒は、 1965(昭和40)年に京都大学建築系学科に新たに地域生活空間計画講座が誕生し、 当時新米の助教授だった私が地域調査や都市設計の講義を担当するようになったことに発している。 このような機会を私に与えてくださったのは、 建築系学科と恩師である故西山夘三先生(1911〜95)である。 それまで、 都市計画の講義はお隣りの土木系学科が担当していた。 道路、 橋梁、 鉄道、 上下水道、 港湾、 河川などは土木工学が主流をなしてきた領域であるが、 それらを都市という場で調整し適切に配置する、 つまり都市施設の体系化こそが都市計画の主な役目であり、 関連してゾーニングや区画整理、 公園・都市美なども紹介されるのが当時の内容であった。

 建築系学科の講義では、 西山先生、 故絹谷祐規先生(1927〜64)をはじめとする住居・近隣住区などの研究を原点とする「生活空間計画」という概念が展開されてきた。 そこで、 在来の内容に居住地の計画、 住環境と建築行政、 歴史的環境の保存、 アーバンデザインなどを加えて建築系らしい講義をすすめてきたつもりである。 一方、 土木系の方は、 施設計画の最適化をめざすシステム工学、 地域景観のデザイン、 計画プロセスの社会工学などの世界を広げてきた。 このように、 私が京都大学で講義を担当してきた30年間(海外では信じられない長期間だが)において「計画」の実践と学問は飛躍的に発展した。 建設のための計画から、 計画なくして建設なし、 そしてプランニングの科学という状況の逆転と進展が起こったのである。 今日、 建築系や土木系の自己変革とともに、 社会科学・人文科学からの参入も盛んで、 都市計画は新しい多分野的共同段階に入ろうとしている。 本書もその動機づけの一冊になればさいわいである。

 

 都市計画という実に間口の広い領域をあつかう本書は、 実に多くの方々の研究成果の摂取と考察によって叙述できたものである。 建築学会や都市計画学会での交流、 著作や報告書の学習、 フィールド調査や計画策定チームへの参加、 そして研究室ゼミでの討論、 講義における学生諸君の反応などから学んできた。 また本書の理解を進めるために用いた図表・写真などの少なくない部分は、 各自治体や公団等の計画書、 行政資料、 個々の著述等からも引用させていただいた。 それぞれの出典をその場所で記載し、 また掲載の依頼をお願いして承諾を得られるように努めた。 しかし、 これらの点でなお不行き届きがあった場合はご連絡をいただきたい。

 草稿の段階では、 それぞれの専門の方々に点検と助言をお願いした。 都市計画全般にわたっては川上光彦・金沢大学教授に、 都市計画法・建築行政法規に関しては寺西興一・大阪府泉北センター主任に、 公園緑地計画については中山徹・奈良女子大学助教授に、 地域計画・住環境については西山徳明・九州芸術工科大学助教授に点検をお願いした。 図・表の仕上げについては真鍋博君(京大大学院生)に、 都市防災の事項にについては紅谷昇平君(京大研究生)から多大の協力を得た。 しかしながら、 本書でなお不備な部分があるとすると、 それらはすべて著者の責任である。

 

 執筆期間中は、 研究室の諸君と語る時間をときに惜しんだこともあったが、 東樋口護助教授、 神吉紀世子・橋本清勇両助手およびドクターコース大学院生がゼミ活動を立派に盛り立ててくれた。 安宅純子事務補佐員には、 この間の煩雑な研究室業務をしっかりとサポートして貰った。

 早い時期から出版を奨めてくださった学芸出版社の京極迪宏社長、 初期企画からずっと6年間もねばりつよくお世話くださった編集担当の前田裕資氏、 仕上げ業務を担当された三原紀代美氏に感謝する次第である。

 もっと早く本書を出版したいと思いながら、 ついに定年退官の時期に至ってしまった。 これまで出版は何時ごろかと期待してくださってきた方々に、 あらためてご挨拶申し上げる。 なお、 私事にわたるが、 仕事優先で家庭を等閑にしがちだった私をささえてくれた家族にも、 ここで一言感謝の気持ちを記しておきたい。

1996年12月

三村浩史

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三村浩史『地域共生の都市計画』

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