<改訂版> まちづくりのための交通戦略

山中英生・小谷通泰・新田保次 著

内容紹介

高齢社会、低炭素社会を踏まえて全面刷新!

低炭素化、高齢社会への対応のため、歩いて暮らせるまち、人と環境に優しい交通への転換が始まった。成功のためには、明確な目的とビジョンをもった「戦略」が必要であり、目的達成の決め手は様々な手法を絡めるパッケージ・アプローチによる自治体の取り組みにある。世界で急展開する交通施策の理論・手法と先進事例を紹介。

体 裁 B5変・192頁・定価 本体3800円+税
ISBN 978-4-7615-3184-3
発行日 2010/02/10
装 丁 前田 俊平


目次著者紹介はじめに
はじめに

1 都市交通戦略の視点とパッケージ・アプローチの考え方

(1)まちづくりを変える交通
(2)止まらないモータリゼーション
(3)都市における交通問題
(4)交通問題は解決されるか?
(5)都市交通戦略がめざすもの
(6)都市交通戦略のための戦術
(7)パッケージ・アプローチ
(8)都市交通戦略への市民関与

2 都市交通戦略を構成する手法

2・1 都市サイドへのアプローチ 交通負荷の少ない都市づくり

(1)交通負荷の捉え方
(2)交通負荷を少なくするために
(3)都市圏レベルでの総合的な取り組み
(4)都市レベルでの取り組み―クリチバのTOD
(5)日本での取り組み―コンパクトなまちづくりに向けて

2・2 行動へのアプローチ

(1)交通問題の自覚と行動
(2)自覚のための視点―持続可能な社会づくり
(3)変更への働きかけと行動形態
(4)ヨーロッパにおける取り組み
(5)豊中のローカルアジェンダづくり
(6)モビリティ・マネジメント(MM)

2・3 自動車交通へのアプローチ

(1)自動車交通の抑制の考え方
(2)保有の抑制
(3)走行の抑制
(4)駐車の抑制

2・4 公共交通へのアプローチ

(1)便利で快適な公共交通システムの構築
(2)公共交通ネットワークの形成
(3)乗り換え抵抗の低減
(4)運賃制度
(5)公共交通の優先通行
(6)情報提供、案内システム
(7)路面公共交通機関の活用
(8)整備・運営のための財源

2・5 歩行者へのアプローチ

(1)安全で快適な歩行環境の整備
(2)歩行者空間の整備
(3)交通静穏化
(4)エリア・アプローチ
(5)共有空間

2・6 自転車へのアプローチ

(1)自転車の役割と課題
(2)自転車の利用空間の整備
(3)駐輪問題と解決方策
(4)自転車利用の促進

2・7 高齢者・障がい者などの交通困難者へのアプローチ

(1)急激な高齢化の進展
(2)交通環境整備の必要性
(3)交通バリアフリー化の取り組み
(4)ユニバーサルデザインの適用
(5)地域福祉交通の充実
(6)まちづくりとのパッケージ戦略

2・8 交通空間へのアプローチ

(1)都市に必要な交通空間の整備と利用のあり方の検討
(2)幹線道路ネットワークの形成
(3)道路空間の再配分
(4)駐停車スペースの確保
(5)地区道路網の構成

2・9 貨物車交通へのアプローチ

(1)貨物車交通対策の考え方
(2)環境にやさしい貨物車
(3)幹線道路沿道の環境対策
(4)物流拠点の整備
(5)荷さばき施設の整備
(6)物流の効率化と貨物車の規制・誘導
(7)地域ぐるみでの取り組み

2・10 情報通信技術によるアプローチ―ITSの挑戦

(1)情報通信技術の発展と交通課題への応用
(2)国家プロジェクトとしてのITS
(3)案内情報:カーナビゲーションからVICSへ
(4)決済の自動化、ETCの普及
(5)自動車そのものの安全化
(6)道路での情報収集との連携
(7)道路・交通管制・車両の連携へ
(8)システム開発から市場化・普及にむけて
(9)ユビキタス社会と交通の質への需要

3 事例にみる都市交通戦略とパッケージ・アプローチ

3・1 都心環境再生のための交通パッケージ フランス・ストラスブール

(1)ストラスブールの歴史
(2)交通問題解決のスタート
(3)ストラスブールの都市交通政策
(4)合意形成のプロセス
(5)成功の鍵

3・2 メトロを中心とした公共交通 システムの統合化 イギリス・タイン・アンド・ウェア都市県

(1)メトロシステムの導入と交通システムの統合化
(2)地域バス事業の規制緩和
(3)規制緩和による影響
(4)1990年代以降の動向

3・3 LRTとバスによるコリドー・パッケージ イギリス・ウエスト・ミッドランド都市県、 バーミンガム

(1)ウエスト・ミッドランドの交通戦略
(2)LRTメトロラインの整備
(3)バスベース・パッケージ
(4)自動車交通の抑制

3・4 都心部流入車両からの賦課金徴収と 都市交通基盤の整備 ノルウェー・ベルゲン、オスロ、トロンハイム

(1)ベルゲン
(2)オスロ
(3)トロンハイム
(4)パッケージ・アプローチとしてのトールリング

3・5 ロードプライシングを中心とした 交通需要マネジメント シンガポール

(1)ロードプライシングの位置づけ
(2)1998年以前のロードプライシング・システム
(3)エレクトロニック・ロードプライシングシステムの実験
(4)料金徴収システムの概要
(5)エレクトロニック・ロードプライシングの政策内容
(6)エレクトロニック・ロードプライシング実施後の自動車交通量の変化と料金改定
(7)ロードプライシングを中心とした総合的施策パッケージ
(8)最近の状況

3・6 ロードプライシング:混雑税を核とした都市戦略 パッケージ イギリス・ロンドン

(1)意外な決着
(2)混雑税の導入経緯
(3)混雑税のしくみ
(4)混雑税施策の効果
(5)混雑税を核とする都市戦略

3・7 都心交通管理から市民参加の都市交通プランへ オランダ・グローニンゲン

(1)コンパクト・シティ
(2)都心交通管理プラン
(3)都市プランへの発展
(4)市民参加の環境都市プランへ

3・8 環境首都における交通政策 ドイツ・フライブルク

(1)環境に配慮した交通政策への取り組みの経緯
(2)総合的な交通対策の推進
(3)地域環境定期券
(4)交通政策とまちづくりとの連携
(5)交通手段分担率にみるパッケージ施策の効果

3・9 自転車を中心にしたまちづくり オランダ・ハウテン

(1)オランダの自転車交通政策
(2)ニュータウン「ハウテン」の試み
(3)サイクル都市づくりに向けて

3・10 環境都市の実現に向けた挑戦 韓国・ソウル

(1)ソウル都市圏の現況
(2)都心に蘇った清流―清渓川復元プロジェクト
(3)バスの改革
(4)歩行者空間の整備
(5)TDM施策と流入抑制

3・11 都心の歩行者空間整備と交通パッケージ イギリス・ホーシャム

(1)イギリスにおける都心活性化施策
(2)ホーシャムの都心パッケージ

3・12 道路空間設計における交通静穏化 ドイツ、デンマーク、イギリス、オランダ

(1)住宅地区における面的な交通静穏化
(2)幹線道路での交通静穏化

3・13 ハイストリートの道路パッケージ イギリス・バークハムステッド、シッティングボーン、イーストハム、ボアハムウッド

(1)ハイストリートの魅力化
(2)バークハムステッド:バイパス建設とハイストリート魅力化パッケージ
(3)シッティングボーン:リリーフ道路と静穏化
(4)ボアハムウッド:バイパスなき静穏化

3・14 わが国でのLRTによる都市再生への取り組み 富山市

(1)富山市の現況とLRT導入の経緯
(2)LRT導入事業の概要
(3)事業計画と支援体制
(4)現在の利用実態と評価
(5)今後の展開

3・15 社会実験を活用し、交通戦略の実践へ 古都・京都の挑戦

(1)京都の魅力創出と交通戦略
(2)観光地区における総合的な交通社会実験
(3)LRT導入に向けた動き
(4)都心歴史地区の交通戦略
(5)世界環境都市へ、実験から実現へ

4 まちづくり交通戦略の実現に向けて

(1)整備財源と費用負担
(2)パッケージ・アプローチへの市民合意
(3)都市交通戦略のためのしくみづくり

付録1 都市交通戦略のつくりかた

(1)都市交通戦略をつくる手順
(2)目標と制約の確認
(3)現状認識
(4)将来計画と予測される課題
(5)解決策・アイデア・コンセプト
(6)予測・評価・選択
(7)フェイズ設定と実施・モニタリング
(8)交通戦略評価のアプローチ

付録2 都市交通戦略のためのモデル分析

(1)交通モデルの利用目的
(2)交通モデルの概要
(3)4段階推定法(Four-stage Models)
(4)交通モデルの進展

索引

山中 英生(やまなか ひでお)

1982年京都大学大学院工学研究科交通土木工学専攻修士課程修了。工学博士。現在、徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部教授。主な著書:『歩車共存道路の計画・手法』(都市文化社、共著)、『人と車・おりあいの道づくり』(鹿島出版会、分担)、『都市の交通を考える』(技報堂出版、分担)、『都市・公共土木のCGプレゼンテーション』『LRTと持続可能なまちづくり』(学芸出版社、共著)『参加型社会の決め方』(近代科学社、分担)など。
〔執筆担当:1章、2・6、2・10、3章概説、3・1、3・3、3・4、3・6、3・7、3・11、3・13、3・15、4章、付録〕

小谷 通泰(おだに みちやす)

1977年京都大学大学院工学研究科交通土木工学専攻修士課程修了。工学博士。現在、神戸大学大学院海事科学研究科教授。主な著書:『歩車共存道路の計画・手法』(都市文化社、共著)、『人と車・おりあいの道づくり』(鹿島出版会、分担)、『都市の交通を考える』(技報堂出版、分担)、『クルマ依存社会』(実教出版、分担)、『都市・公共土木のCGプレゼンテーション』『LRTと持続可能なまちづくり』(学芸出版社、共著)など。
〔執筆担当:2章概説、2・3~2・5、2・8、2・9、3・2、3・8、3・10、3・12、3・14〕

新田 保次(にった やすつぐ)

1975年大阪大学大学院工学研究科 地球総合工学専攻修士課程修了。工学博士。現在、大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻社会基盤工学部門交通システム学領域教授。主な著書:『クルマ依存社会』(実教出版、分担)、『地方自治体21世紀への提言』(公職研、共著)、『都市と地域の交通問題―その現状と政策課題』(自治体研究社、共著)、『講座、高齢社会の技術6―移動と交通』(日本評論社、分担)など。
〔執筆担当:2・1、2・2、2・7、3・5、3・9〕

初版へのはじめに

「現れる交通の量に合わせて、道路や駐車場を作る。こうした追随型の交通施策はもはや成り立たない。従来の考え方を大きく転換する時代がやってきている」。大学の交通計画の講義でこう教えられて、すでに20年以上が経っている。わが国の交通政策は本当に大きく転換したのであろうか?

地方都市では、公共交通の重視は叫ばれるものの、自動車に対抗できるようなサービスを提供することは、制度上や財源上はむろん、市民合意の上でも難しい。多くの市民は、「この街では移動には車しかない」と考えている。大都市では公共交通サービスの整備や自動車交通を減らす試みが始まっているが、目のあたりにする交通渋滞に、「道路がないから」と決めつける市民は多いし、お年寄りらのニーズがあっても、採算のとれにくい公共交通の整備には行政も事業者も消極的である。そこには、少なくとも都市政策のドラスティックな変化を読みとることはできない。
しかし、交通事故で愛する肉親を失った人達。大都市から地方に移り住み自動車免許がないと何処にも行けない現実を味わった人。健康への不安から車をやめて自転車通勤にしたところ、あまりに走りにくい道路に唖然とした人。歩いてやって来るなじみのお年寄りが車が怖くて歩けないと嘆く声を聞いた人。郊外のショッピングセンターにお客をとられた商店主。路面電車や自転車が優遇される欧米の都市を訪れ、その快適さと街の品格に触れた人びと。

このように自動車にあまりに依存してしまった都市の不合理に気づく人びとは増えている。まちづくりを考えれば考えるほど、交通のあり方を変えたいと思ったという人も現れている。交通の姿、都市生活の姿を変えるべきと感じる人は確実に増えている。

交通問題ほど身近に感じられながら、いざその改善となると、恐ろしく複雑な様相を示す題材は他にはないかもしれない。交差点を広げて右左折車線をもうけると交差点の渋滞が一時なくなる。しかし、その下流の別の交差点でまた、渋滞が生まれる。どこからか自動車がやって来て、次第に、交通は増え、結局、もとの交差点も渋滞に陥ってしまう。その時には前よりも多くの自動車が通っており、排気ガスや騒音はより悪化している。

商店街を歩いて快適に買物のできるショッピングモールにしたいとだれもが思う。しかし、自分達の商店へ商品を納入する自動車をどうにかして通す工夫をしなければならない。今通っている自動車が思わぬ所に迂回して問題を起こすかもしれない。荷下ろしの駐車が歩行者や自転車の邪魔になっているとわかっていても、どうすればよいのか? 実現には多くの困難が伴う。

環境を考えると車の利用は減らすべきだと頭でわかっていても、郊外のスーパーにバスでいくなどということは想像しただけで非現実である。かといって、あらゆる人に便利なバスサービスを提供できるのか?膨大な数の空のバスを走らせることになりはしないか?

このように、目にみえる問題に対して場当たり的な対策を進めても交通問題は解決しない。クルマの使い方、道路などの都市空間の使い方について、市民が環境への配慮とともに共通の目標を認識しないと、どんな施策も解決には結びつかないのである。つまり、交通問題を解くには、まちづくりと密接に連携した「戦略」が必要である。それも、都市生活のあり方自体を変えようと訴えるメッセージが必要になっているのである。

本書はそうした思いのもとに、海外で集めた新しい交通戦略の考え方と事例を紹介して、日本の都市への展開を考える素材として活用してもらいたいと考えて書き始めたものである。著者の3名は都市交通計画を専門とする大学人であるが、いずれも関西や徳島を中心に、実際の都市交通の改善を市民・行政とともに悩む日々を送っている。本書がそうした人びとを元気づけるものとなれば、これほどの喜びはない。

2000年4月   著者

改訂版発刊に際して

上記の「はじめに」を記してから、7年余がすぎて改訂版の作業は始まった。この作業は、世界とわが国の交通戦略の進展を見直す貴重な機会であった。最も大きな衝撃はやはりロンドンの混雑税であろう。あれほどの大都市で大規模な道路賦課金が現実に運用されるという予想は我々にも無かった。また、ソウルでの取り組みも衝撃であった。「先進国」の既成概念に捕らわれていたことを身にしみて感じる出来事であったといえる。中国をはじめとするアジアの都市でも交通戦略は進んでおり、今後注目されるであろう。

わが国でも、バリアーフリーの取り組み、コミュニティバスを初めとする公共交通の見直し、さらには富山市のライトレールと、まちづくりをめざした交通戦略の具現化の姿はみえつつある。また、交通改善を参加型や市民関与のもとで進めることで「まちづくり」そのものへの貢献を果たそうとする「交通まちづくり」の活動も始まっている。しかし、持続性のある、また、全国へ普及していくモデルというと、心許ないのが現状であろう。そのような思いを何度も語りながら、改訂の作業を進めた。なお、それぞれの事例については最新状況の記述を努めることにしたが、いくつかの節については、初版の記述にとどめて、歴史的記述として残している。

まちの交通に悩み考える人々にとって、これからの交通戦略の大きな流れを作る力を生み出すために、振り返って目標を見直す指針として、本書が少しでも役立つことを期待したいと思う。
本書の刊行にあたり、貴重な助言や示唆をいただいた交通研究者の諸先輩や同僚達にまず感謝したい。また、訪問した数々の都市では行政やコンサルタントの方々に資料の提供やヒアリングに時間を割いていただいた。また、学芸出版社の前田氏には本書の企画から始まり、改定作業への激励、適切なアドバスを得た。併せて感謝の意を表したい。

2010年1月   著者

建築・都市・まちづくりの今がわかる
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