コミュニティシップ


橋本 崇・向井 隆昭・小田急電鉄株式会社 エリア事業創造部 編著

吹田良平 監修

内容紹介

先駆的プロジェクトの全貌を、当事者が語る

地域住民が街と積極的に関わり・楽しむ意識「コミュニティシップ」に溢れる、街づくりプロジェクトの全貌。住民とともに開発コンセプトをつくり、チェーン店より地元の個店を、賃料より持続可能性を重視する先駆的な取組みは、なぜ実現したのか?人口減少・消費スタイルの多様化など、業界の課題に応えた当事者が本音で語る

体 裁 A5・224頁・定価 本体2600円+税
ISBN 978-4-7615-2815-7
発行日 2022-05-01
装 丁 テンテツキ・金子英夫

 

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目次著者紹介まえがきあとがき関連ニュース関連イベントレクチャー動画

・はじめに
・下北線路街AREA MAP
・下北沢サイトマップ/シモキタ徒歩20分圏エリアマップ
・序文 人と街との幸福な関係――“シモキタ”にみるコミュニティシップ(橋本崇)

1章 鉄道事業者の挑戦、支援型開発という街づくり――コミュニティシップ溢れる街のつくりかた

01 下北線路街プロジェクトとは
02 プロジェクト、動き出す
03 まず歩いて街を知る。現地調査
04 全体構想を策定する
【関係者・事業者インタビュー】
・プロジェクト全体構想、事業基本計画策定者が考えたこと
・コミュニケーション戦略立案者が考えたこと
05 下北線路街、出発
06 街の人による、街と自分のための活動
【カタログ】 街の人による、街と自分のための活動
07 持続可能な街づくりの新手法
08 支援型開発のこれから
【プロジェクト分析】 パーパスモデルで見るBONUS TRACK――新たなチャレンジや個人の商いを支援する長屋
【プロジェクト分析】 デザインルールで見るBONUS TRACK
【カタログ】 下北線路街 全ブロック施設ガイド
【関係者・事業者インタビュー】 関係者が考えたこと、事業者が考えていること
【ヒストリー】下北線路街完成までの流れ

2章 地域の人たちがはじめた挑戦――コミュニティシップ溢れる街のつかいかた

・商店連合会 会長の場合 出る杭は打たずに支える
・地主、商店街組合副理事長の場合 創造への挑戦はやがて消費を超える
・地主の場合 街がつながり、人がつながり、街は繁栄する
・住民、飲食店経営者の場合 積極的に変化を受け入れるという価値観
・住民、商店主の場合 ありがとうの交換で街をつなげる
・BONUS TRACKテナントの場合 挑戦する人のための不動産、自ら挑戦する不動産屋
・住民の場合 好きなことを楽しむという街への関わり方

3章 コミュニティシップをめぐる5つの考察

01 Well-being論から考察するコミュニティシップ

幸せは天下のまわりもの

  ―鼎談 矢野和男(株式会社日立製作所フェロー)×橋本崇×向井隆昭
02 都市空間学から考察するコミュニティシップ

ライフスケーピング 未来に近づいていく情景

―武田重昭(大阪公立大学大学院 農学研究科 緑地環境科学専攻 准教授)
03 都市社会学から考察するコミュニティシップ

街と市民の新しい関係をめぐる社会学的考察

―三浦倫平(横浜国立大学大学院 都市イノベーション研究院 準教授)
04 都市論から考察するコミュニティシップ

挑戦する者は挑戦している者が居る場所を好む

―吹田良平(アーキネティクス代表取締役)
05 都市論から考察するコミュニティシップ

「迂回する経済」と発酵するコミュニティ試論

―吉江俊(早稲田大学 創造理工学部 建築学科 講師)

4章 コミュニティシップ醸成のためのレシピーー街づくりと街づかいの新しいアプローチコミュニティシップ溢れる街のつくりかたとつかいかた

・コミュニティシップ溢れる街のつくりかたレシピ
・コミュニティシップ溢れる街のつかいかたレシピ

・新たな経営ビジョン「UPDATE小田急」
・下北線路街アーカイブス
・おわりに
・執筆者紹介

【編著者】

橋本 崇

小田急電鉄まちづくり事業本部エリア事業創造部課長
1973年生まれ。東京理科大学理工学部卒業後、小田急電鉄株式会社に入社。鉄道事業本部にて大規模駅改良工事、駅リニューアル工事、バリアフリー整備工事等を担当後、開発事業本部に異動し、新宿駅リニューアル工事、駅前商業施設、学生寮「NODEGROWTH湘南台」、旧社宅のリノベーション住宅「ホシノタニ団地」等の開発を担当。2017年より下北沢エリアの線路跡地「下北線路街」のプロジェクトリーダーを務める。

向井 隆昭

小田急電鉄まちづくり事業本部エリア事業創造部課長代理
1990年生まれ。立教大学経済学部卒業後、小田急電鉄株式会社に入社。開発事業本部にて海老名駅前商業施設「ビナフロント」、旧社宅のリノベーション住宅「ホシノタニ団地」等沿線の不動産開発を担当。 2015年より下北沢エリアの線路跡地「下北線路街」の開発プロジェクトにおける企画・営業面で開発から管理運営まで一貫して担当している。

【監修者】

吹田良平(スイタ リョウヘイ)

株式会社アーキネティクス代表取締役、『MEZZANINE』編集長
1963年生まれ。浜野総合研究所を経て、2003年、都市を対象にプレイスメイキングとプリントメイキングを行うアーキネティクスを設立。都市開発、複合開発等の構想策定と関連する内容の出版物編集・制作を行う。主な実績に「渋谷QFRONT」企画、著書に『グリーンネイバーフッド』等がある。2017年より都市をテーマとした雑誌『MEZZANINE』を刊行。

【著者】

近藤希実(コンドウ ノゾミ)

ライター、編集者、脚本家
1982年生まれ、京都大学卒業後、新聞記者を経てフリーのライター・編集者に。まちづくり、災害、ジャーナリズムなどを中心に執筆するかたわら映画製作にも携わり、商業映画のアシスタントプロデューサー、脚本家を務める。趣味は街歩き。

河上直美(カワカミ ナオミ)

株式会社アーキネティクス、『MEZZANINE』副編集長
2004年よりまちづくりに関わるNPO法人タブララサ(岡山県岡山市)にて活動するとともに、2017年より(株)アーキネティクスにて都市をテーマにした雑誌『MEZZANINE』の副編集長を務める。

吉備友理恵(キビ ユリエ)

株式会社日建設計イノベーションセンター プロジェクトデザイナー
(株)日建設計のイノベーションセンターで社内外をつなぐハブを担う。また、(一社)FCAJで共創や場を通じたイノベーションについてリサーチを行う。共創を概念ではなく、誰もが取り組めるものにするために「パーパスモデル」を考案。2022年書籍出版予定。

武田重昭(タケダ シゲアキ)

大阪府公立大学大学院 農学研究科 緑地環境科学専攻 准教授
1975年生まれ。UR都市機構および兵庫県立人と自然の博物館を経て、2013年より母校にてランドスケープ・アーキテクチュアの視点から都市と人の関係について教育・研究に携わる。共著書に『小さな空間から都市をプランニングする』(2019年・学芸出版社)、共訳書に『パブリックライフ学入門』(2016年・鹿島出版会)など。

三浦倫平(ミウラ リンペイ)

横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院 都市科学部 准教授
1977年生まれ。専門は地域社会学/都市社会学。著書に『共生の都市社会学 ー下北沢再開発問題のなかで考える』(2016年・新曜社)、Characteristics and importance of Japanese disaster sociology: Perspectives from regional and community studies in Japan(2016年・地域社会学会四十周年記念事業)など。

吉江 俊(ヨシエ シュン)

早稲田大学 創造理工学部 建築学科講師
専門は都市論・都市計画論。消費社会の都市空間の変容を追う「欲望の地理学」で博士(工学)取得。日本学術振興会特別研究員、ミュンヘン大学研究滞在を経て現職。民間企業と協働した都市再生や「迂回する経済」の実践研究、都市体験をベースとしたエリアブランディングなどに取り組む。共著に『無形学へ』(2017年・水曜社)など。

皆さんは普段、「街」とどのように関わっていらっしゃるでしょうか?
「街」や「街づくり」と聞いてもなんだか自分とは遠い存在でピンとこない方も多いのではないでしょうか?
私の場合は、私たちが携わった通称“シモキタ”を舞台にした、「下北線路街」のプロジェクトを通して、「住民と街との新しい関わり方」と出会い、その素晴らしさを教えてもらいました。それは、“街のために取り組む”のではなく、“街を舞台に自分がしたいことを、仲間と共に思い思いに楽しみながら行う”、という住民と街との幸福な関係を意味します。言うなれば「街づくり(街のつくり方)」ではなく、「街づかい(街のつかい方)」という感覚です。
私たちはそれを皆さんにお裾分けしたく、その幸福な関係性を「コミュニティシップ」と名付けました。コミュニティシップは、「スポーツマンシップに溢れる」などの表現と同様に、主体となる当事者の意識であり、価値観であり、伸ばすことのできる能力です。これはすべての人に備わっており、高められる能力であり、日々の暮らしの中で自らの幸福感を高めるために有効な能力だと思います。
ここで改めて、下北線路街について簡単にご説明します。下北線路街とは、小田急線東北沢駅から間に下北沢駅を挟んで世田谷代田駅に至る3駅間の小田急線地下化に伴う鉄道跡地開発を指します。舞台は東京都世田谷区下北沢エリア。私たち小田急電鉄が10年ほど前に計画に着手し、2022年に全ての開発が完成を迎えました。全長1.7キロメートルに及ぶ敷地は13ブロックに分けられ、ホテルや商業施設、保育園や居住型教育施設、広場や公園などで構成されています。おかげさまで地域の人たちから評価を頂いたほか、数多くの取材や視察のご依頼が寄せられています。その理由は本編でしっかりとご説明します。
この本では、まず1章で、コミュニティシップを考えるきっかけとなった、下北線路街プロジェクトについてご紹介します。これは街の人たちの「コミュニティシップ」を高め、存分に発揮してもらうための方法、いわば「街づくり」編です。2章は、コミュニティシップに溢れているシモキタの人たち、あるいは発揮しようとしている人たちの取組みやその背景、価値観をご紹介する、いわば「街づかい」編です。続く3章では、人と街との関係性を常日頃から研究している識者たちによる、各専門分野から考察した「コミュニティシップ」論をお届けします。
最後となる4章では、「コミュニティシップ」を意識し、高め、発揮するためのコツ、つまり、暮らしと切り離せない街という舞台で、一人ひとりが幸せな日々を暮らすためのレシピをご紹介します。
さまざまなテクノロジーが発達し、メタバースの世界の広がりが予測されている今の日本にこそ、リアルな街との関わりから生まれる幸福の重要性はより高まると確信しています。普段「街づくり」や「街づかい」に携わっている方はもちろん、街との距離が少し遠い方にこそ是非読んでいただき、一人でも多くの方のお役に立てることを心から願っています。

小田急電鉄株式会社 エリア事業創造部 課長代理

向井隆昭

私たちがこの本を制作する過程で何度も思ったことがあります。それは、今回のような開発、つまり、街の人起点で開発者側はあくまでその支援役に徹するという開発は「下北沢だからできた」と捉えていただきたくないということです。
もちろん、下北沢には個性豊かで街に関して自覚的な人が多いと言えます。でも、どの街に行ってもそうした人は必ずいますし、どの街にも潜在的な魅力は必ず存在します。では、それ以外で重要になってくる要素とは何か。その一つは、街づくりに取り組む際に、いかに関係者全員がリスクを取るか、という点ではないかと思います。

下北線路街の例で言えば、まず、街の人たちが新しく生まれた空間で、仲間を集めて具体的な活動を始めるという行動を起こしました。私たちもそういう場を街にたくさん生み出す、あるいはそういうムードを街に生み出すべく、ビル開発という分かりやすくて比較的手離れもいい不動産事業から街づくり事業にピボットしました。テナントとなってくださった個人事業主さんたちも、彼らを誘致した管理運営会社さんも、皆、これまでに経験したことのない新しい地平に一歩踏み込んでくれました。地域の方を含めてプロジェクトに関わる人全員がそれぞれの立場でリスクを取って一歩前に踏み出してくれた。下北線路街にとって、そこが一番大きなポイントでした。そうしたチャレンジを目の当たりにすることで、私たちも今回改めてそういう場と機会や雰囲気づくり、さらには体制や仕組みづくりこそが重要であると再認識することができました。会社もプロジェクトチームが動きやすいように従来の枠組みから一歩踏み出して意思決定をしてくれました。このように各々が今までの領域からリスクを取って一歩前に踏み出したことが今に至った最大の要因だと強く感じています。
では、このようなリスクを取る勇気は一体どこから湧いてくるのでしょうか。私たちは、下北線路街を通して数多くのシモキタの人たちと接することで見えてきたことがあります。それはシモキタというマジックワードです。地元の人たちは、“シモキタ”という言葉をもちろん場所(エリア)を示すときに使いますが、それとともに “自分たちが思い思いに好きなことをしている” 状態や概念のことをも “シモキタ” と表現していることに気づきました。
唯一下北沢の特異性を挙げるとすれば、この点においてです。街を使いこなす精神、街を使いこなすことで人生を楽しむというリテラシー、これこそがリスクを取るための原資だったのです。今回私たちは、それを「コミュニティシップ」と名付けて相対化したいと思いました。

もう一つ重要な点は、柔軟性です。街づくりにおいては、計画を立てることはもちろん大事ですが、実行しながら状況に応じて臨機応変に変えていくこともそれ以上に大切になります。街づくりにおいては瞬間瞬間ごとの最適解はあっても真の正解はないのかもしれません。それが人間中心である街づくりの難しさであり、だからこそ変化を許容する組織かどうかがとても重要になるのだと思います。チームに完璧を求めすぎない、チームは計画に従うと同時に、うまくいかないケースも想定しながら柔軟に対応策を考え実行し続ける学びと挑戦の文化を身につける。一旦そうした体質ができ上がると、一人ひとりがイキイキと街づくりに取り組める気がします。

下北線路街においては、会社は私たちにたくさんのチャレンジを認め、そして後押しをしてくれました。会社とチームの仲間には感謝しかありません。中でも2018年に今回の計画案を会社の意思決定の場に掛けたときのことは今でも忘れません。なかなかうまく伝えることが難しい計画だったため、不安だらけの上申でしたが、「良い計画なのではないか」と前向きな反応を得ることで、「絶対にやってやる」という思いに至ったことを記憶しています。また、プロジェクトを進めるにあたっては、本当に多くの人たちの協力を得ながら進めてきました。本来であればチームメンバーをはじめ、関わってくださった社外の方々全員、この本に登場していただきたいというのが本音です。
最後になりますが、ここまで辿り着けたのは、たくさんの方々の理解やサポートがあったからこそだと痛感しております。本当にありがとうございます。下北線路街は今動き出したばかりでここからが本当のスタートです。皆さまへの感謝の気持ちを忘れずに、次のステージにおいても前例に捉われず挑戦し続けて、一歩ずつ踏み出していきたいと思います。

2022年3月11日

橋本崇、向井隆昭

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