建築系のためのまちづくり入門


JCAABE日本建築まちづくり適正支援機構 編 連 健夫 著 野澤 康 他著

内容紹介

創造力を鍛え、チャンスを拡げる取り組み

建築を学び仕事にする、いわゆる「建築系」の人がまちづくりを始める際に知っておくべき内容をまとめた入門書。都市史・都市計画・設計手法・法令・環境をまちづくり視点でまとめ、実務の現場にかかせない不動産やファシリテーションの具体的なノウハウを実践例と共に紹介。現場がよくわかる漫画「まちファシ物語」も掲載。

体 裁 A5・256頁・定価 本体2600円+税
ISBN 978-4-7615-2792-1
発行日 2021-09-25
装 丁 美馬智


目次著者紹介はじめにおわりに

はじめに

序章 建築からまちへ

建築+αの知識がまちを変える|連 健夫

1章 都市の課題と共に変わる建築系の役割

1-1 都市計画の変遷と参加型まちづくりの発展|野澤 康
1-2 まちづくり現場における建築士の多様な役割|三井所清典
1-3 建築設計における参加のデザイン|連 健夫
1-4 人口減少社会における空き家・空き地の利活用と建築系専門家の可能性|饗庭 伸
1-5 魅力アップにかかせない市民とつくる「まちづくりのルール」|松本 昭
1-6 建築系の未来にかかわるSDGsと持続可能なエネルギーの新知識|北村稔和

――ローカルレポート
大田区:下町文化に習う安全で賑やかなまちづくり|山田俊之
福岡市:空き家を活用して商店街を活性化する|今泉清太
新潟市:地域の専門学校で伝統文化の担い手を育成する|仁多見 透

2章 本音を引き出すコミュニケーション・ファシリテーション術

2-1 市民と協働するための「手助け」の態度(Attitude)|松村哲志
2-2 共通目標を実現するためのワークショップの進め方|阿部俊彦
2-3 目的に応じた合意形成の手法とプロセス|連 健夫

3章 まちづくりにかかせない不動産・経営的視点

3-1 エリアマネジメントにつながる建築と不動産の基礎知識|高橋寿太郎
3-2 “負動産”の新陳代謝を促す空き家マッチング術|田中裕治

4章 建築系によるまちづくりの実践

(1)建築ストックを利用して地域らしさを引き出す

4-1 リノベーションでまち全体をアップデートする|連 勇太朗
4-2 グローカルな近代建築の保存活用活動がまちを活かす|渡邉研司

―― Column
保存と修復、地域のまちづくりにつなげて|大倉 宏

4-3 適切なインスペクションによる耐震・不燃化がまちの寿命も更新する|向田良文

(2)市民と協働して持続可能なまちをつくる

4-4 事前復興まちづくりで「くらしとまちの継続」を考える|市古太郎
4-5 環境配慮型の建築づくりで市民とつながり地域のリテラシーを向上させる|湯浅 剛

役に立つ文献紹介
おわりに

※裏表紙からスタート
漫画「まちファシ物語」|連ヨウスケ

編者

JCAABE日本建築まちづくり適正支援機構

著者

*認定まちづくり適正建築士 **登録まちづくりファシリテーター

連 健夫(むらじ・たけお)*[序章、1-3、2-3]

登録建築家、JCAABE代表理事、連健夫建築研究室代表、早稲田大学、芝浦工業大学非常勤講師
1956年京都府生まれ。多摩美術大学卒業、東京都立大学大学院修了。建設会社10年勤務、1991年渡英、AAスクール留学。AA大学院優等学位取得の後、同校助手、東ロンドン大学非常勤講師、在英日本大使館嘱託を経て1996年帰国、連健夫建築研究室を設立。設計活動の傍ら、港区登録まちづくりコンサルタントとしてまちづくりに関わる。著書に『イギリス色の街』『心と対話する建築・家』、共著に『対話による建築まち育て』など、作品に「ルーテル学院大学新校舎」(JIA優秀建築選)、「はくおう幼稚園おもちゃライブラリー」(栃木県建築景観賞)、「荻窪家族レジデンス」(グッドデザイン賞)など。

野澤 康(のざわ・やすし)*[1-1]

工学院大学建築学部まちづくり学科教授、博士(工学)、技術士(建設部門)、シニア教育士
1964年北海道生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同大学院修士課程・博士課程修了。1995年より工学院大学に勤務、2011年より現職。大学で教育・研究に従事する傍ら、地方自治体で審議会委員等を歴任。相模原市建築審査会会長、府中市土地利用景観調整審査会会長、八王子市まちづくり審議会会長等。共著に『初めて学ぶ都市計画 第二版』『まちの見方・調べ方-地域づくりのための調査法入門』『まちづくりデザインのプロセス』など。2005年より日本建築学会「学生と地域との連携によるシャレットワークショップ」を企画・運営している。

三井所清典(みいしょ・きよのり)*[1-2]

芝浦工業大学名誉教授、公益社団法人日本建築士会連合会名誉会長、㈱アルセッド建築研究所設立主宰、設計専攻建築士、まちづくり専攻建築士、教育・研究専攻建築士、登録建築家
1939年佐賀県生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院修士課程・博士課程修了。住宅、集合住宅、学校、美術館、医療施設等の他、近年は庁舎建築等中大規模の木造建築の設計とその普及推進に努めている。まちづくりに関しては、HOPE計画、町並み環境整備、伝統的建築物群の保全整備等地域に根づいた建築・まちづくり活動を続けている。

饗庭 伸(あいば・しん) [1-4]

東京都立大学都市環境学部教授
1971年兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(工学)。専門は都市計画・まちづくり。人口減少時代における都市計画やまちづくりの合意形成のあり方について研究すると同時に、まちづくりの合意形成のための技術開発も行っている。主な現場に山形県鶴岡市、東京都国立市谷保、岩手県大船渡市三陸町綾里、東京都日野市程久保などがある。著書に、人口減少時代の都市計画の理論をまとめた『都市をたたむ』、平成期の都市計画の歴史をまとめた『平成都市計画史』など。

松本 昭(まつもと・あきら)*[1-5]

㈱市民未来まちづくりテラス代表取締役、(一財)ハウジングアンドコミュニティ財団専務理事、(一社)チームまちづくり専務理事
東京大学・法政大学非常勤講師、博士(工学)、技術士(都市及び地方計画)、一級建築士、マンション管理士など。主な著書に『まちづくり条例の設計思想』、共著に『地方分権時代のまちづくり条例』『自治体都市計画の最前線』『人口減少時代の都市計画』など。

北村稔和(きたむら・としかず)**[1-6]

㈱家フリマ代表取締役、NPO日本住宅性能検査協会理事
1981年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、㈱キーエンスに5年半勤務後、2011年に㈱バローズを設立、太陽光発電事業を統括。太陽電池パネルメーカー営業責任者を経て現職。太陽光発電の適正普及活動の傍ら、エネルギーとまちづくりの融合や再生可能エネルギーによる災害対策、企業活動のCO2削減提案、自治体セミナー講師等、活動は多岐に渡る。近年ではゼロエネルギービルディング(ZEB)の設計や再生可能エネルギーを電気自動車や蓄電池と組み合わせたマイクログリッドの構築等、エネルギーの高度利用化に取り組んでいる。

山田俊之(やまだ・としゆき)*[ローカルレポート]

日本工学院専門学校テクノロジーカレッジ建築学科学科長、技能五輪国際大会職種別分科会長(デジタル・コンストラクション)
1974年東京都生まれ。東京理科大学理工学部建築学科卒業、同大学院修士課程修了。2000年から同大学助手、2004年から有限会社アーキテクチャー・ラボ副所長の後、2012年に日本工学院専門学校に入職、日本工学院八王子専門学校主任を経て現職。

今泉清太(いまいずみ・きよた)*[ローカルレポート]

麻生建築&デザイン専門学校校長代行、一級建築士、全国専門学校建築連絡協議会会員(幹事)
1964年佐賀県生まれ。1987年近畿大学九州工学部建築科(現産業理工学部)卒業、1988年にハウスメーカーに入社、主に住宅の分譲販売企画に従事。1998年から私立筑紫台高等学校建築科教諭、読売理工専門学校常勤講師(建築士専攻科担当)、私立真颯館高校非常勤講師を経て、2004年より学校法人麻生塾麻生建築&デザイン専門学校常勤講師として勤務、建築士専攻科大学併修コース立上げに関わる。住宅金融公庫(現住宅金融支援機構)主催「マルチメディア時代の住まい・デザインコンテスト’97」で飯野健司賞受賞。趣味は空手道。

仁多見 透(にたみ・とおる)*[ローカルレポート]

新潟工科専門学校学校長、一級建築士、一級建築施工管理技士、JCAABE正会員、新潟県建築士会会員、全国専門学校建築教育連絡協議会常任幹事、全国専門学校土木教育研究会東日本幹事、全国専門学校電気電子教育研究会監事
1959年新潟県生まれ。事業創造大学院大学修了(経営管理修士)。建設会社16年勤務(建築施工管理業務に従事)を経て、1997年から新潟工科専門学校勤務、2009年同校副校長、2015年から現職。

松村哲志(まつむら・さとし)*[2-1]

日本工学院専門学校テクノロジーカレッジ建築学科教師、JIA登録建築家
1970年東京都生まれ。日本大学大学院修了(コーポラティブハウジングに関する研究)。名古屋大学教育発達科学研究科単位取得退学(体験学習に関する研究)。現在、専門学校で教育を実践しながら、「建築・まちづくり・参加のデザイン」と「教育」の両方の視点を融合した研究活動を行なっている。JIA建築家のあかりコンペ最優秀賞、東京建築士会設計競技佳作など受賞。

阿部俊彦(あべ・としひこ)*[2-2]

立命館大学理工学部建築都市デザイン学科准教授、アーバンデザインセンターびわこくさつ(UDCBK)副センター長
1977年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修了、博士(工学)。建築設計事務所、まちづくりコンサルタント事務所勤務を経て、LLC住まい・まちづくりデザインワークスを共同設立。早稲田大学都市・地域研究所客員研究員、非常勤講師を経て、現職。宮城県気仙沼市内湾地区の復興まちづくり、東京都内の事前復興まちづくり、地方都市のまちづくり等に関わる。日本都市計画学会計画設計賞・論文奨励賞、日本建築学会作品選集入選、都市住宅学会長賞、これからの建築士賞など受賞。

高橋寿太郎(たかはし・じゅたろう)*[3-1]

創造系不動産株式会社代表取締役、不動産コンサルタント、一級建築士、宅地建物取引士、経営学修士(MBA)
1975年大阪府生まれ。2000年京都工芸繊維大学大学院 岸和郎研究室修了後、古市徹雄都市建築研究所勤務を経て、東京の不動産会社で様々な業務に幅広く携わる。2011年創造系不動産を設立。「建築と不動産のあいだを追究する」を経営理念、ブランドコンセプトとする。扱う案件はすべて、建築家やデザイナーと共働し、建築設計業務と不動産業務のあいだから、数々の顧客の利益を創る。著書に『建築と不動産のあいだ』『建築と経営のあいだ』など。

田中裕治(たなか・ゆうじ) [3-2]

株式会社リライト代表取締役
1978年神奈川県生まれ。大学卒業後に大手不動産会社で10年勤務を経て、株式会社リライト起業。全国の売れない空地・空き家の処分に携わる。TBSテレビ「ガイアの夜明け」など多数のメディアに紹介される。著書に『本当はいらない不動産をうま~く処理する!とっておきの11の方法』『売りたいのに売れない!困った不動産を高く売る裏ワザ』『不動産 相続対策(貰って嬉しい富動産、貰って損する負動産)』など。

連 勇太朗(むらじ・ゆうたろう)*[4-1]

建築家、明治大学専任講師、特定非営利活動法人モクチン企画代表理事、株式会社@カマタ共同代表
1987年神奈川県生まれ。幼少期をロンドンで過ごす。2012年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了、2012年にNPO法人モクチン企画設立、2018年に株式会社@カマタ設立、2021年より明治大学理工学部建築学科の専任講師、建築計画研究室を主宰。モクチン企画は、縮小型社会に求められる都市デザイン手法の提案と実装を目的としたソーシャルスタートアップである。@カマタでは京急線高架下の開発「梅森プラットフォーム」のディレクションをはじめ、インキュベーションスペースKOCAの運営を行っている。

渡邉研司(わたなべ・けんじ)*[4-2]

東海大学建築学科教授、一般社団法人DOCOMOMO Japan代表理事
1961年福岡県生まれ。日本大学理工学部卒業、同大学院修了、1987年から93年まで芦原建築設計研究所勤務。一級建築士資格取得後、1993年から98年までイギリスAAスクール大学院歴史・理論コース留学。AA Graduate Diploma、1997年から文化庁芸術家派遣在外研修員(2年間)、2000年東京大学より博士(工学)、1999年から2004年まで連健夫建築研究室勤務、2005年から東海大学建築学科助教授として就任。2011年から同大学教授、2019年より一般社団法人DOCOMOMO Japan代表理事。著書に『論文はデザインだ』『図説ロンドン都市と建築の歴史』、共著に『DOCOMOMO選モダニズム建築100+α』、訳本に『世界の廃墟・遺跡60』『オーヴ・アラップ 20世紀のマスタービルダー』など。

大倉 宏(おおくら・ひろし) [コラム]

美術評論家
1957年新潟県生まれ。1981年東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。1985~ 90年、新潟市美術館学芸員。2000年新潟の8人の有志と非営利の企画画廊「新潟絵屋」を設立(2005年NPO法人、2015年認定NPO法人に認証)、企画運営委員代表となる(現在は理事長)。1990年代から新潟市の歴史的建造物の保存運動に関わり、2004年「歴史まちづくり」を志向する市民団体「新潟まち遺産の会」の設立に参加(現在代表)。また2005年より昭和初期のお屋敷を活用した新潟市の芸術文化施設「砂丘館(旧日本銀行新潟支店長役宅)」の運営に携わり、現在は同館館長。著書に『東京ノイズ』、共著に『越佐の埋み火』、編集・構成に『洲之内徹の風景』。

向田良文(むこだ・よしぶみ)*[4-3]

建築家、デザインタック株式会社代表取締役、一級建築士、統括設計専攻建築士
1964年石川県生まれ。武蔵野美術大学大学院修了、芦原建築設計研究所に20年勤務、「駒沢オリンピック公園総合運動場体育館・管制塔」改修工事、「横浜市立脳血管医療センター」新築工事、「石川県立音楽堂」新築工事、「横浜市立市民病院」(移転前)建物調査、医療機能向上建物改修工事、緩和ケア病棟増築工事などの設計監理を担当。2010年デザインタック株式会社設立、設計監理業務と並行して既存建物調査を積極的に行う。建築基準法第12条定期調査報告などの他、2015年から株式会社さくら事務所ホームインスペクターとして中古戸建て住宅のインスペクション業務の経験も積んでいる。

市古太郎(いちこ・たろう) [4-4]

東京都立大学都市政策科学科教授、東京都災害ボランティアセンター・アドバイザー
1972年神奈川県生まれ。横浜市役所勤務の後、東京都立大学助手、准教授を経て現職。東京都地域危険度測定調査委員会委員、東京都防災都市づくり推進計画検討委員会委員を継続して務めるほか、日本都市計画学会理事、地域安全学会理事を務める。日本都市計画学会論文賞(2021年)、論文奨励賞(2010年)を受賞。

湯浅 剛(ゆあさ・つよし)*[4-5]

登録建築家、一般社団法人えねこや代表理事、株式会社アトリエ六曜舎代表取締役
1965年大阪府生まれ。京都工芸繊維大学工芸学部建築学科卒業後、一色建築設計事務所勤務を経て、英国グリニッジ大学ランドスケープ学科を卒業。1995年、妻・景子とアトリエ六曜舎を設立し、木造住宅や木造建築の設計を手がける。原発事故や地球温暖化への危機感を抱き、2016年、仲間とともに(一社)えねこやを設立し、築40年の古家を耐震・断熱改修して、太陽光発電によるオフグリッドの小さな事務所も開設。2019年には多くの協力者とともにワークショップで移動式えねこやを製作して、小中学校での出張授業など、再エネや省エネの普及活動をすすめている。

連ヨウスケ(むらじ・ようすけ) [装画、見出しイラスト、巻末漫画]

漫画家
1989年神奈川県生まれ。東京藝術大学建築科卒業、同大学院修了。大学、大学院と建築設計を学ぶなか、計画や意図の外側に生まれる「物語」に興味を持つ。以来漫画を媒体として制作を行う。建築ジャーナルで建築家・山川陸と共に「見えない都市」を隔月連載。作品に「お見送り」(週刊漫画誌モーニング月例賞)、「ジャンピングガール」(新人増刊2016夏号掲載)、「BFFベタフラッシュフォワード」(2019年建築ジャーナル連載)、藝大卒業制作「多摩考」(吉村順三賞)、トム研M1チームYoung Architect Competitions : “Funagaku”(finalist Smart Harbor)。

日本のまちは高度成長社会から低成長社会・成熟社会に移行するなかで、複合的な課題が表出し、様々な専門分野が協働して解決する時代になってきた。特にまちづくりは、そもそも複合的なものなので分野横断的な知識や経験が求められ、ファシリテーター(促進者・調停者)という人と人をつなぐ役割が様々な場面で必要になってきている。

本書は文部科学省の2019年度「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」(地域課題解決実践カリキュラム)で採択された「まちづくりファシリテーター養成講座事業」を基に制作された。本書はその講座用テキストであると共に、建築を学び、仕事にする、いわゆる建築系のためのまちづくりの入門書でもある。まちづくりの専門性を持つ建築士・建築家として、一般社団法人日本建築まちづくり適正支援機構(JCAABE)が認定する「認定まちづくり適正建築士」がある。それにつながるキャリアストーリーとして、「まちづくりファシリテーター養成講座」がリンクしており、この講座を修了すると「まちづくりファシリテーター養成講座修了者」となり、JCAABEに登録すれば「登録まちづくりファシリテーター」となる。そして2年間の実務と一級建築士の取得により「認定まちづくり建築士」に登録できる。こうした仕組みを背景に、建築系の専門性をベースに、まちづくりファシリテーターとして拡がりのある知識を得ることによって、他の専門家と創造的な関係でスムーズに協働できる人材、つまり建築を軸にして他の専門性とリンクすることができる「T字型人材」の拡がりを目指している。

建築・まちづくりの講座は、座学のみならず、実践が大切であり、演習・見学・まち歩き・合意形成ワークショップも併用することが望まれる。本書はそれらを踏まえて実務者向けにアップデートした包括的なまちづくりの入門書である。建築・まちづくりに関する網羅的な分野の知識を扱い、実践的なコミュニケーション力をつけられるように、できるだけ具体的に記述した。本書の役目は、あくまできっかけを与えることであり、さらに知見を深めたいという方は、巻末に掲載した執筆者による推薦図書をぜひ参考にしていただきたい。

また、本文中では「建築系」「建築系専門家」「建築士」「建築家」など内容によって適宜使い分けている。その理由は、建築士は資格であり、建築家は職能である。また行政のまちづくり推進課の方や都市計画家はまちづくりの専門家だからである。したがって、まちづくりに関わる建築系ファシリテーターとしての「態度」を獲得してもらうこともこの入門書の狙いの1つである。

建築やまちづくりにおける大きな課題に空き家空き地の活用がある。空き家や空き地が増え、地域に悪影響を与えるなど社会問題が表出し、その解決が求められているのである。また中心市街地における空き店舗問題は、どこの地方都市でも商店街活性化の大きな悩みの種となっている。住宅の新築需要が減ってくるなか、単に建て替える、リニューアルする、というハードの手立てを講じる以前に様々な課題を総合的に解決しない限り、具体的なアクションにはつながらないのである。そこには、経営や不動産、エリアマネジメントやインスペクションなど幅広い知識が求められ、設計行為も新築、改修、増築、減築などを組み合せた編集設計という応用技術が求められている。これは建築を単体として捉えることではなく、周囲との関係で捉えることであり、おのずと、まちづくり的視点が求められるのである。つまり、これからの建築系の技術は、まちづくり活動の一部を担う、結果として担う、一躍として担うことにより、地域に大きく貢献することができるのである。
その分野横断的な役割に大切なのは、コミュニケーション力である。これは、建築やまちづくりの分野のみならず、あらゆる分野に必要なものであり、高等教育機関や組織において、それを身につけることによって、社会に拡く受け入れられ、活躍することができる。

成熟社会に向かうなかで、自己責任や発注者責任の比重が増す中、建築士・建築家がどのような専門性を持つかが問われる時代になってきている。これは、お店の商品にどのようなものが含まれているのかを示す内容表示と同じで、必要とする者が必要なものを得るための情報開示なのである。発注者が、まちづくりの専門性のある建築士・建築家、を求めた時に、その選択のための手掛かりとしての能力表示を建築士・建築家が身に付けていることが期待されているのである。本書がその期待に応えるための一助になることを心から願っている。

一般社団法人日本建築まちづくり適正支援機構 代表理事/連 健夫

「建築系のためのまちづくり入門」、いかがだっただろうか? 建築士・建築家・建築系学生に、まちづくりがいかに身近なものであり、面白いものであるかを感じていただけたのであれば執筆者にとって本望であり、嬉しいことである。
執筆にあたって何度もディスカッションをした。空き家空き地が増え、新築需要が減り、建築士・建築家のフィールドが変化していること、高度成長社会から低成長社会に移行し、都市は拡大するのではなくスポンジ化のなかでのまちづくりとなること、成熟社会に進むなか、施主・住民の意識が変化していること、SDGsを含めサステナブルなまちづくりのために必要なこと、など様々なポイントが浮き彫りになり、今、建築系にとって必要なことを多くの人と共有できる形でまとめることが、結果としてまちづくりに、その能力を活かすことができ、良質なものを創ることができるのではないか……その想いを具体化したものが「建築系まちづくりファシリテーター養成講座」であり、本書である。これらにより従来の知識とスキルに頼ることに危機感を持つ現役建築士・建築家にブレイクスルーの視点を与えたのではないか、と思う。専門知は時には啓蒙的態度になりがちだ。それを対話的態度にシフトすれば、まちづくりの世界が見えてくる。

読み終わった後の、まちづくりに関わってみよう、色々できそうだ、というポジティブでフラットな感覚は、建築系ファシリテーターにとって大切である。人と人をつなぐファシリテーターの特性、ものづくりに対する建築系の特性、それらを併せ持つことが、同じまちづくりに関わる人と夢を共有し、そのポジティブな想いがまちづくりの推進力になる。建築の専門性を軸に他の専門性とつながるT字型人材は今後、ますます求められるであろう。先日、ある先生が「建築士の試験が難しくなった。新たな知識が求められている。それはこの講座で扱っている内容だ」とおっしゃっていた。我々執筆者としては「してやったり!」。時代は動いているのである。

連健夫

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