スポーツ地域マネジメント

原田宗彦 著

内容紹介

最新の政策動向と国内外の事例から徹底紹介

スポーツを活かした持続的なまちづくりを目指すには、地域内での人材育成や環境整備等の取り組みと、自然や文化など地域資源を最大活用した地域外からの誘客を同時展開する戦略的なマネジメントが必要だ。最新の政策的な動向に加え、国内外の先進事例からマーケティング手法やビジネスモデルなどの実践スキームを豊富に紹介

体 裁 四六・252頁・定価 本体2300円+税
ISBN 978-4-7615-2742-6
発行日 2020/08/01
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史


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序章 スポーツと地方創生

1.超高齢化社会に潜むピンチとチャンス
2.都市から地方へ、モノからコトへ
3.地方に潜む競争優位性
4.スポーツ政策のパラダイムシフト
5.稼げるスポーツ地域まちづくりの仕組みづくり

第1章 地域が直面する課題とスポーツの可能性

1.硬直化する官主導の地域スポーツ振興施策
2.不可欠なインナー・アウター視点の両立
3.地域に必要なマーケティング的発想
4.自立した地域スポーツ事業の出現

コラム1-1 民間フィットネスクラブが運営する総合型地域スポーツクラブ
コラム1-2 地域スポーツコミッションの類型化

第2章 プロスポーツが地域で担う新たな役割

1.求められる現代的ミッション
2.地域を志向した日本型プロリーグ経営のビジネスモデル
3.シビックプライドの喚起装置
4.ハイカルチャー・地域活性化・社会課題解決の融合へ

コラム2-1:Jクラブが展開するスポーツ地域戦略
コラム2-2:スポーツホスピタリティ

第3章 スポーツツーリズムの新しい展開

1.市場の成長と需要の多様化
2.サイクルツーリズムの拡大
3.スノーリゾートの復活
4.スポーツ×文化×観光の可能性

コラム3-1:スポーツツーリズムに関する施策
コラム3-2:観光資源大国日本
コラム3-3:サイクルトレイン
コラム3-4:中国における氷雪スポーツ産業の発展

第4章 住む人を幸せにするこれからのスポーツまちづくり

1.スポーツまちづくりとは
2.スポーツ実施からアクティブライフへ
3.持続的なスポーツイベントの条件
4.スポーツコンパクトシティという考え方
5.スポーツによるコミュニティ再生

コラム4-1:歩行の概念

第5章 地域スポーツを支える新しいマネジメント手法

1.公民連携による効率的な施設マネジメント
2.パークマネジメントによるパブリックスペースの活用と整備
3.地域内外をつなぐ人的資源のマネジメント
4.地域スポーツの資金調達

コラム5-1:ビジネス・インプルーブメント・ディストリクト(BID)
コラム5-2:スポーツツーリズムと定住人口の増加

原田宗彦

ペンシルバニア州立大学健康・体育・レクリエーション学部博士課程修了(Ph.D.)。鹿屋体育大学助手、フルブライト上級研究員(テキサスA&M大学)、大阪体育大学大学院教授などを経て、2005年から早稲田大学スポーツ科学学術院教授。主な著書に、『スポーツマネジメント改訂版』(大修館書店、2015年)、『スポーツマーケティング改訂版』(大修館書店、2018年)、『スポーツ都市戦略』(学芸出版社、2016年:2017年度不動産協会賞受賞)、『オリンピックマネジメント』(大修館書店、2019年)など。一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構代表理事、日本スポーツマネジメント学会会長、Jリーグ参与、公益財団法人日本バレーボール協会理事、公益財団法人日本トライアスロン連合顧問を務める。これまで観光庁「スノーリゾート地域の活性化推進会議」議長、スポーツ庁「スポーツツーリズム需要拡大のための官民連携協議会」座長、2026年愛知・名古屋アジア大会レガシー委員長、2030年札幌冬季五輪開催概要計画検討委員会委員長などを歴任。スポーツマネジメントの視点から、未来を見据えた日本のスポーツビジョンづくりが研究テーマ。

本書が目的とするのは、スポーツを活用した地方創生の処方箋を提示することである。現代のスポーツには「稼ぐ力」が内包されており、この力を活用することによって、税金に頼らず、公民連携の仕組みを使い、創造的な方法でスポーツによる地方創生を行うことが可能となる。よって本書では、なぜそれが可能かを論理的に説明するとともに、具体的な事例を交え、地域の実情を踏まえつつ、最適解が得られるプロセスを提示したい。

そのために必要なことは、スポーツという概念を深く理解することである。欧米のスポーツは、ラテン語のdeportare(デポルターレ)を語源とすることが知られている。この言葉は、「運び去る、運搬」という意味であるが、近代になると、そこから転じて「気晴らしや遊び」「楽しみ」「休養」といった意味で使われるようになる。よってスポーツには「プレイ」(遊び)の要素が強く反映されており、レジャーやレクリエーションと近接した考え方が強い。

英国を始め、豪州やカナダ、そしてシンガポールなどの旧英連邦諸国が、プールや体育館を備えたコミュニティ向けのスポーツ施設を「レジャーセンター」(leisure center)と呼んでいるが、これはスポーツとレジャーの概念的近接性を示す一つの事例である。その一方、米国でも、コミュニティにあるテニスコートやプールなどの公共スポーツ施設は、当該自治体の公園・レクリエーション(Parks & Recreation)局が施設を管理運営している。ここでもスポーツとレクリエーションの距離は近く、スポーツ=遊びという「エートス」(慣習や慣行:ethos)が人々の心の底流をなしている。

それに比べて日本におけるスポーツは、明治期に海外から輸入された概念ということもあり、レジャーや遊びよりもむしろ、体操術や歩兵操練といった、国の富国強兵策に沿って立派な軍人を育てる軍事教練的な性格を強めていった。その残滓は現代の日本の体育やスポーツにも色濃く残り、整列や団体行動などの規律と秩序が重視され、教育をベースとする概念として定着した。

しかしながら現代的なスポーツは、体育の世界の外側で大きく成長を遂げた。特にグローバルな商業化と産業化の波は、日本におけるスポーツの捉え方を大きく変え、スポーツ産業やスポーツビジネスに対する考え方を、より欧米的(というよりもむしろグローバル的)なものにシフトチェンジしていった。今やスポーツは訓練や教育のためだけの媒体ではなく、消費の対象であり、個人が自由時間に自発的に、快楽を求めて行うレジャー的なアクティビティとなった。

歴史学者の梅棹忠夫は、江戸後期から明治まで、藩校などを通じて行われた教育には、武士階級の価値観が貫かれていたとして、これを「サムライゼーション」と呼んだ。すなわち近代日本は、国民を総サムライ化することで富国強兵を成し遂げたのである。しかし現代日本では、より豊かで幸せな社会をつくるために、消費をベースとした「町人文化」の熟成が必要と唱え、これを「チョニナイゼーション」と呼んだ。日本における「武士の論理」から「町人の論理」への大きな転換が、スポーツの世界にも起きつつあると考えると分かりやすい。

スポーツにおけるパラダイムシフトに関しては、拙著『スポーツ都市戦略』(学芸出版社、2016年)の第1章において、「アマチュアイズムからビジネスイズム」へというテーマで詳しく述べたが、80年代後半から現代に至るスポーツの急速なビジネス化は、スポーツを取り巻く風景(landscape)を大きく変えた。プロスポーツは、エンターテイメント産業としてIT産業やメディア産業、そしてスタジアム・アリーナ等の建設産業と呉越同舟の関係を築く一方、スポーツ用品メーカーは、シューズからウェア、そしてアウトドア用品まで、川上(繊維や素材)、川中(製造業)、そして川下(販売)から構成される、一気通貫の流通構造を確立することで巨大産業に成長した。このような成長は、たとえ新型コロナウィルス感染症のような突発的な災害で一時的に停滞しても、地球規模の健康志向(ウェルネスやフィットネス)や観光ブームが続く限り、今後も継続するだろう。

さらにスポーツと地域の関係に目を転じると、そこには大きな可能性が残されている。本書では、自立した地域の発展を支えるキーワードとして、スポーツ×文化×観光を媒体として、地域資源を有効に活用する実践スキームの紹介に重きを置いた。その構成は以下の通りである。

序章では、高齢化と人口減が進展する社会におけるピンチ(危険)を十分に把握しつつ、それをチャンス(機会)に転じる方法について論じる。モノづくりからコトづくりへの発想の転換とともに、世界的に見ても優位性が高い観光資源が眠る地方を、どのようにマーケティングすべきかを考える。そして体育からスポーツへとパラダイムシフトが進む日本で、旧来の制度に改革の手を加えながら、稼ぐ力を内包した新しいスポーツ地域マネジメントの考えを紹介した。

第1章では、30年以上前に制度化された官主導のスポーツ振興施策の問題点を指摘しつつ、地域スポーツマネジメントに必要なパラダイムシフトを俯瞰した。従来のインナーの視点だけでなく、そこにアウターの視点を持ち込むことによって、スポーツを振興する経営事業体のハイブリッド化が可能となる。これは、補助金に頼らない自律的な事業体への転化であるが、そのためには、マーケティング的発想が不可欠となる。

第2章では、プロスポーツが地域で担う新しい役割というテーマで、地域密着型プロスポーツの現代的ミッションについて考えるとともに、CSV経営によって、社会課題の解決を目指す新しいビジネスモデルの在り方を指摘した。プロスポーツの本質は、ファンをどうつくるかにあるが、ファンづくりにおいては、シビックプライドの喚起が重要な課題とされる。日本では、昭和から平成、そして令和にかけて、スポーツ行政は着実に発展してきたが、今後令和の時代においては、豊饒なスポーツ文化を実現するための方策が必要とされる。それが、スポーツが持つパワーを最大限に活用した地域活性化と、スポーツによる社会課題の解決、そしてスポーツホスピタリティに代表されるハイカルチャーの形成である。重厚な土台を築くことによって、日本のスポーツは新しいステージに向かうことが可能となる。

第3章では、アウター政策に必要なスポーツツーリズムの新しい展開をテーマに据えた。日本は観光資源大国であり、大きく分けると「自然資源」と「人文資源」がある。前者には「海洋資源」「山岳資源」「都市近郊資源」「氷雪資源」があり、四季を通じて、アウトドアスポーツのフィールドは全国に広がっている。さらに後者には、公園、庭園、社寺、城郭など多くの歴史的建造物があり、これらを組み合わせることによって、スポーツ×文化×観光の可能性は大きく広がる。サイクルツーリズムやスノースポーツなど、デスティネーションマーケティングを駆使することによって、今後の発展が期待できる領域を紹介する。

第4章では、スポーツとまちづくりについて考える。「スポーツまちづくり」とは、住む人を健康に、そして幸福にするためのアクティブライフの場づくりにほかならない。そのためには、歩くことを基調としたコンパクトなまちづくりと、住む人のウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)を高めるコミュニティづくりが必要とされる。地域のサイズに合ったスポーツイベントも、まちづくりの大切な要素の一つである。これからのスポーツイベントには、経済的な効果だけでなく、地域の社会的課題の解決に向けたCSV志向のベクトルが必要となる。

最後の第5章では、地域スポーツを支える新しいマネジメント手法として、公民連携による効率的かつ多様な施設マネジメントや、新しいパークマネジメントであるPark―PFIの事例等を紹介した。さらに今後重要となる人的資源の問題や、スポーツ地域マネジメントに有効な資金調達の方法について解説を加えた。

本書では、現在の地域スポーツ振興方策に潜む問題点を洗い出し、多彩な視点から分析を行ったが、そこから生まれた提言が、今後のスポーツによる新しい地域づくりの一助になれば幸いである。

原田宗彦

 

本書の執筆が終盤に差し掛かった2020年の初春、世界は未曽有の災害に見舞われた。新型コロナウィルス感染症(COVID―19)の蔓延である。1ミリメートルの百万分の1(1ナノメートル)という見えないウィルスの存在は、人の動きを止め、人と人の接触を妨げ、世界経済の停滞と不況を招いた。その中でも、特に大きな被害を受けたのがスポーツ、そして観光である。

2020年は、世界の目が東京と日本に注がれるオリンピックイヤーであり、通常のスポーツ大会や国際大会に加え、テストイベントや事前合宿など、各地で多くのスポーツイベントが予定されていた。しかしながら、新型コロナウィルス感染症対策のために「緊急事態宣言」(4月7日は7都道府県、4月16日以降は対象地域を全国に拡大)が発令されると、春に予定されていたすべてのスポーツイベントが中止に追い込まれた。

外国からトレーニングキャンプ(事前合宿)の受け入れを決めていた多くの自治体では、確保していた予算が無駄になり、アスリートたちとの交流イベントもキャンセルになった。プロ野球やJリーグも開催が延期されたが、一時的とはいえ、国民的な娯楽の消滅は、スポーツ番組やスポーツ新聞から旬のニュースを奪っただけでなく、家に閉じこもる生活から生まれた空虚感に一層拍車をかけた。ただその一方で、われわれの日々の生活にとって、スポーツ・文化・芸術などの「不要不急」なレジャーが、いかに貴重であるかを再認識する機会を与えてくれたのも事実である。

今後、コロナ禍が一段落したと仮定して、行動変容(例えばStay Home)を強いられた都市住民の生活が、百パーセント元に戻るかどうかはわからない。「三密」を避けるテレワーク(在宅勤務)やリモートワーク(遠隔地勤務)の活用によって自宅での勤務が増えるとともに、自然豊かな遠隔地(例えばリゾート地)での仕事が増える可能性も否定できない。さらに、郊外へと一時的に居住地を移し、自然豊かな場所での生活を楽しみ、最先端の仕事に従事するワーケーション(ワーク+バケーション)も注目を集めるだろう。

人生80年を時間に換算すると、365日×24時間×80年で70万時間である。その一方、真面目に働く労働時間は、年間2千時間×40年として8万時間程度であり、70万時間の1割強にしか過ぎない。では自由時間はどうだろうか? 1日24時間の約3分の1(8時間)が自由裁量時間とすれば、生涯自由時間は21万時間と、労働時間をはるかに超える長さである。

コロナ禍によって変容した行動は、日本の経済にも影響を及ぼす。テレワークやリモートワークの普及は、通勤や移動の時間を圧縮し、自由時間の増大に寄与する。現在、年間の個人消費は約3百兆円であるが、それに占める余暇消費は約72兆円(レジャー白書2019)であり、遊びと密接に関わる「不要不急」の消費である。日本経済新聞の編集委員である中村直文は、「経済は『遊び』自粛を糧に」という紙面論文(2020年4月18日付朝刊)で、今後の日本経済は、不要不急の消費の比率が高まり、会社を中心に育まれてきた通勤に必要な化粧品、スーツ、ブランドバッグなどの「社用本位消費」は縮小する一方、観光地は一年を通じて関係人口の拡大を目指す総合型サービス業へ脱皮すべしという意見を述べた。

さりとてコロナ禍の被害は予想をはるかに上回り、「不要不急」の産業は甚大な被害を被った。今スポーツ界が関心を寄せているのは、コロナ後のスポーツを取り巻く世界の変貌である。サッカーのプレミアリーグ(英国)やブンデスリーガ(ドイツ)、野球のMLB(メジャーリーグベースボール)、そしてバスケットのNBA(ナショナルバスケットボールリーグ)のほか、テニスのウィンブルドンや全豪オープンなど、中止や延期を迫られたスポーツイベントが、以前の状態に復活できるのかどうか、誰もが不安に感じている。また仕事の場が消えたプロスポーツ選手は生活の糧を失い、オリンピック・パラリンピック、そして世界選手権を目指すトップアスリートも、当面の目標を失った。

しかしながら、一般的なスポーツに対する需要はいささかも揺るがず、さらに伸びていく可能性が強い。それはスポーツが遊びだからであり、ホイジンガの言葉を借りれば、「遊びは文化よりも古い」からである。人間の行動は変容しても、「ホモルーデンス」(遊ぶ人)に宿る「遊びの遺伝子」を変えることはできない。今回は、制御できると信じていた自然から手痛いしっぺ返しを受けたが、今後は、新型コロナウィルスとの共存を図りつつ、人と人の距離を保ちながら行う「ソーシャルディスタンス・スポーツ」のような考えも取り入れつつ、さらに楽しく有意義な遊びを発明していくことだろう。

2020年に起きた世界的なパンデミックは、ワクチンの開発とともにやがて沈静化し、人々は元の生活を取り戻すかもしれない。そして、人の動きが戻り、人と人が出合い、レジャーを楽しむ日常が戻った時、「不要不急」であったスポーツ、文化、芸術の大切さが、以前にも増して認識されるようになることを祈念したい。

本書は、2016年3月に出版した拙著『スポーツ都市戦略』(学芸出版社)の姉妹本であり、守備範囲を都市から地域に広げ、「スポーツマネジメント」「パークマネジメント」そして「デスティネーションマネジメント」の視点から、スポーツと地域の関係を解き明かすことを目的とした。ただその試みが成功したかどうかは、読者の皆さんの判断に委ねたい。

本書の執筆にあたっては、学芸出版社の若き編集者である松本優真さんに大変お世話になった。松本さんの的確な指摘とアドバイスは、本書のクオリティを高めてくれた。心から感謝の意を表したい。最後に、コロナ禍によって長期間の在宅勤務を強いられた時、自分のオンライン授業の準備の合間を縫って料理の腕をふるい、他愛ない会話を共有し、彩のある生活を提供してくれた妻の純子にも感謝の言葉を捧げたい。

2020年4月30日 豊中市上野坂にて
原田宗彦

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