建築概論


本多友常・安原盛彦・大氏正嗣・佐々木葉二・柏木浩一 著

内容紹介

驚きに満ちた建築への誘い、具体的発見の書

建築物を利用する主体〈人間〉を中心に据えて学ぶ、新しい建築学シリーズ。建築概論は、設計実務と建築教育のどちらにも携わる執筆者が、初学者に向けてメッセージを発信。「自然発生的建築のデザイン」「素材からみた現代建築」「日本建築の空間史」「空間と架構のデザイン」「ランドスケープデザインの世界と感性」「発想への技法」。

体 裁 A4・128頁・定価 本体3000円+税
ISBN 978-4-7615-3110-2
発行日 2003-03-30
装 丁 上野 かおる

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目次著者紹介まえがきあとがき

序 章 環境設計へのアプローチ

まずやってみようー建築入門
まずやってみようー空間体験
演習の解説

第1章 自然発生的建築のデザイン

1 精神世界の投影
2 風土と住形式の不確定性
3 シンボルの多義性
4 防御と結束の表明
5 風と対話する家型
6 集住の特異性
7 立地条件への適合
8 形式の持続性
9 地中の家の原初的形態
10 倉に貯蔵される記憶

第2章 素材からみた現代建築

1 重力からの解放
2 軽やかな技術
3 光を透過する皮膜
4 不透明な皮膜
5 コンクリートの自由な造形
6 コンクリートの多彩な様相
7 組積造の生命感
8 金属の皮膚
9 柔らかな平面
10 光の充満するインテリア
11 家具の力

第3章 日本建築の空間史

1 伽藍配置と空間
2 アプローチ上に展開する空間の変質
3 軒が囲い込む空間,領域
4 闇の空間
5 日本建築の透明性
6 光のくる方向
7 さまざまなる光
8 五感で感じとる空間
9 日本とヨーロッパの空間の光の扱い

第4章 空間と架構デザイン

1 重力―抵抗する
2 重力―利用する
3 水平力―抵抗する
4 水平力―利用する
5 空間―開く
6 空間―閉じる
7 空間―広げる
8 空間―分節する
9 緊張―つなぐ

第5章 ランドスケープデザインの感性と世界

1 楽園の創造
2 進化する庭園と広場の空間構成
3 オープンスペースによる都市景観形成
4 モダニズムデザインの胎動
5 日本におけるランドスケープの軌跡
6 都市の魅力を広場に
7 大地のデザインからエコロジーデザインへ
8 記憶と情報(メッセージ)を呼び起こす
9 新たなランドスケープの解釈と表現にむけて

第6章 発想への技法

1 フロッタージュ
2 他分野思考・現象モデルの引用
3 積み木遊び
4 束縛のなかの自由
5 プログラムの再編成
6 既成概念の打ち崩し
7 初めにことばありき
8 観察

あとがき

本多友常

1972年早稲田大学理工学部建設工学科大学院修了,1977年~1979年ロンドンAAスクール卒業,現在,和歌山大学システム工学部環境システム学科教授,神戸大学・大阪市立大学・京都造形芸術大学非常勤講師.著書に『ゆらぐ住まいの原形』(学芸出版社,1986),『建築ノート』(新建築社,1992) 他.

安原盛彦

1970年東北大学大学院建築学専攻修了,工学博士,現在,秋田県立大学・建築環境システム学科教授.著書に『日本の建築空間』(新風書房,1996),『近代日本の建築空間』(理工図書,1998),『源氏物語空間読解』(鹿島出版会,2000),『ペーパーバック読み考―レーモンド・チャンドラーからポール・オースターまで―』(新風書房,1995)他.

大氏正嗣

1987年神戸大学工学部建築学科卒業,建設省官庁営繕部,現在㈱デザイン・構造研究所代表取締役.技術士(建設部門),和歌山大学非常勤講師.著書に『建築構造ポケットブック』(共著,共立出版,2001).

佐々木葉二

1971年神戸大学卒業.1973年大阪府立大学大学院緑地計画工学専攻修了.カリフォルニア大学大学院,ハーバード大学大学院客員研究員修了.現在,京都造形芸術大学教授,鳳コンサルタント環境デザイン研究所所長.1996年,日本造園学会賞(設計作品部門)受賞.著書に『都市環境デザインの仕事』(2001)『都市環境デザイン』(1995)(共著,学芸出版社)他.

柏木浩一

1968年神戸大学工学部建築学科卒業,竹中工務店設計部プリンシパル・アーキテクトを経て2002年有限会社アビタ創設,2003年4月より姫路工業大学環境人間学部教授,神戸大学・関西大学非常勤講師.著書に『インテリア アイデンティティー』(共著,学芸出版社,1990).

この書は,建築を志した人々が,建築の世界を垣間見,興味をさらに深く掘り下げていくためのきっかけとなるテキストを目指している.しかし難易度を下げているわけではない.建築が驚きに充ちた世界であり,現実の世界が,自分たちの想像力をはるかに超えていることを示していくことにより,具体的な発見の書にしたいと考えている.

また建築を実践的な面から捉えることに務めており,豊富な事例をアイデア集のように編集することにより,発想やヒントのきっかけになることも念頭においている.  5人の執筆者は,全員,設計実務と建築教育の両分野にわたる経験を生かし,それぞれの視点への案内人として,発想の豊かさにつながることを心がけて資料を集めている.

設計にただひとつの正解というものが無いことは誰でも知っている.それは可能性に満ちていることの証でもある.ところがいざ建築の設計を手がけると,途方にくれてしまい前に進めなくなることに直面する.専門教育課程ではここで前に進めなくなる学生が続出する.しかしそれは本人に才能が無いからではない.実感のある情報が不足しているからだ.リアリティに満ちた情報となるために,各章は網羅的であることよりは個性的なものの見方を示すことを心がけている.

第1章のテーマ「風土」では,住まいの多様性を,編集している.第2章のテーマ「現代建築」では,素材,構法の観点から現地取材のもとに試みている.第3章のテーマ「歴史」では,建築空間史という視点から,今までの歴史学とは異なるものの見方を目指し,第4章のテーマ「構造」では,構造の原理が,社会にどのように実現されているかを示し,第5章のテーマ「ランドスケープ」では,人間の感性を直視するところから生まれるデザインを追及する.第6章のテーマ「発想」では具体的な設計手法への手がかりを,助走の技法としてあえて打出す冒険を試みている.

各章はこのようにそれぞれが「アイデアの玉手箱」でありながらも,逆説的には建築が単なる手法の編集では納まりきらない,ひろがりをもった世界であることを示していきたいと考えている.

2003年3月

執筆者を代表して 本多 友常

この書「建築概論」は,分野横断を目指して,執筆者陣が取り組んだものだ.
時代の要請は,既に建築という小さな分野を乗り越えて広がっている.福祉,再生・利活用,屋上緑化,木質環境,まちなみ保存,環境心理,歴史,技術,省エネルギー,環境汚染,都市再開発,地球環境等々,あらゆる分野の課題を総合的に把握していかなくてはならない時代において,近年は環境を地球規模で見直そうとする人々の意識が,急速な高まりを見せている.それほど人口問題やエネルギー消費が切迫し,そこに発生する様々な齟齬が21世紀におけるメインテーマになっていることは疑いない.

自然への向き合い方を試される時代を迎え,人々は汚染防止から,廃棄物処理問題へ,そして環境保全へと目を向け始めた.しかし近年の意識の高まりが,あまりにも急であることに気がついている人はどれぐらいいるだろうか.環境についての研究論文集が,測ったように厚くなり続けている.問題意識の高まりは歓迎すべき事柄だ.しかしこの現象の背後に,皆が一斉にひとつの方向へ向くことの危うさが潜んでいることを見逃してはならない.

情報化時代を迎え,選択の幅は大きく広げられた.それにもかかわらず,人々は一斉に自然の大切さを唱え,一斉に未来に目を向ける.社会の反応は,まるで一つの情報をもとに動いているかのように見える.自然の大切さに目を向けることに否定すべきことはひとつもない.しかし危惧すべきは,それぞれが多様な情報を持ちながら,ある磁場をかけられることによって,一瞬のうちに同じ方向を向いてしまうところにある.

それは多様に見える価値観が,実は不定形な,分離あるいは浮遊した細胞のようになりつつあることを物語っている.

人間のキャパシティを越えた情報量を前にして,人は知らず知らずのうちに,判断を他人に任せざるを得ない状況に追い込まれているではないか.

何が大切かを見きわめようとしても,より重要な情報があるかもしれない.その不安を解消するために新たなる情報に向かう.こうしてどんな問題を目前にしたときも,検索に力を注ぐあまり,思考停止の状態を引き起こしやすくしてしまっている.

ひいては自分で決断しているつもりが,実は判断を外部に委ねることによって,本来備わっているはずの自ら発想する力を,空洞化させてしまっている可能性が高いのだ.それは薄皮を重ねるように,構想力の貧困を肥大化させていく.
このような状況において自分の考えを掘り下げることは,今や存在の条件であり,抵抗の手段なのだ.

創造性は天才にだけ属しているものではない.

空間を構想することは,ものごとを統合する想像力と,構築力の源を豊かにすることを意味している.しかし硬くなる必要は無い.まず手を動かしてみよう.頭が真っ白になって何も出てこないのは普通なのだ.どうしても困ったときはこの書を少し紐解いてみたらどうだろうか.ただし毒と薬は紙一重であることも忘れてはならない.

2003年3月
執筆者を代表して 本多 友常

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