はじめに

21世紀は「農」の時代
 本書で私が強調したいことは、もともと「農」は人間が生存するため不可欠の衣食住のすべてを含む、極めて重要な概念であるということだ。
 単純に、食料危機が予想されるからとか、日本の森林と田畑の環境保全機能が46兆円にもなるからとか、いわれるからだけではない。
 EUのドロール氏は言っている。「通貨より重大なのは、農業です。農業は、文化ですから」と。
 正に、農業はアグリカルチュア、園芸はホーティカルチュア、樹芸はアーボリカルチュア。いずれにしても、カルチュア=文化は、その国の人々のアイデンティティそのものである。言い換えれば、人間として生きる力の源泉といってもいいし、むしろ、「農」は人間生存そのものといってよい。
 誤解を恐れずに言おう。20世紀は工学が支配し、都市が卓越した時代。その結果、地球環境問題が深刻化した。これを実践的に解決し、人間性を回復するのは「農」の思想と発想であろう。21世紀は、人間と自然、こころと生命を基調とする時代。これからは工と都市に、「農と自然」を回復しなければならない。日本政府が先ごろ発表した「21世紀の国土のグランドデザイン」でも、“多自然居住”や“ガーデンアイランド・日本”が主唱されている。「農―こころと生命(いのち)の学」を基調におき、地域の自立を促進し、自然豊かな美しい国土の創造、都市のふるさと再生をめざす。これが、これから私たちが目指すべき日本の姿だと思うのである。