都市論の脱構築

書 評

『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2003. 10
 「都市的(urban)」とは何か?本書はこの根本的な疑問から始まる。
 筆者は、「都市的なるもの」は時代潮流によって変化するものであり、時代の転換点を迎えた現在、これまでの「都市的なるもの」に対する抜本的改革が必要であると考えている。
 本書はまず、筆者が「危機の20年」と呼ぶ1960年代、1970年代における都市を舞台とした様々な出来事にふれる。次に、自然と都市、市民社会、持続可能性、都市のアイデンティティ、文化政策、学術研究都市、といったテーマに事例を交えつつ言及し、IT革命下における都市再生の望ましい方向を示したイギリス、アメリカの先進的政策事例を紹介し、最後に、都市論の脱構築とその新たな方向性について考察を加えている。
 全体を通して、様々な角度から「都市的なるもの」に対する批判的検討が展開されており、今後の都市の方向について総合的に考えさせてくれる1冊である。

『地方自治職員研修』(公職研) 2003.2
 時代潮流によって様々に変容する都市的(urban)なるもの。本書は、近代を支配した生産中心の構築主義から、生活中心の脱構築主義への転換に伴い、めざすべき都市像がどのように変わったかを明らかにしようとする。環境・公害問題の顕在化から生じたポスト産業社会としての都市像、大震災を経ての自然適合都市、多文化共生と都市のアイデンティティを探る都市の文化論、そして都市と農村の共生構造の構築による都市再生の方向性など、都市の現在・未来図を多角的に示す一冊。

『計画行政』 2003.3
 著者の水彩画は質・量ともにその都市論に拮抗する。これは、著者のさまざまの論述の本質に関係しているように思える。多くの都市プランナーと異なって著者の都市論は生来的にホリスティックであり、人間的である。まさしく過去の都市プランナーの犯した過ちは歴史的な大罪ともいえるが、本書は在来型の都市論を解体し、スーパーシニアな都市プランナーによるいわばネオポストモダンな都市計画のソフト化のすがすがしい集大成である。
 「脱構築」という言葉に戸惑いを感ずる向きがあるかもしれないが、アクターの転換、社会行動の基軸の転換、環境概念のディープな転換、在来科学の方法論の転換、都市の哲学の転換を正面から見つめようとする意図が情熱的に伝わる。それは、近代化の負の産出に対する警告等を危機の時代としての認識からはじまっている。都市論として、人間中心主義の否定は鮮烈である。さらに、これらサスティナブル・シティの中核に著者は平和・人権・民主主義を強く意識し、都市における支配と従属の関係が自然破壊につながることを訴えている。
 本書は、都市の思想・哲学・倫理をふまえた新しい都市の枠組みを提示するべく、都市論の展望と課題、21世紀の都市像、都市の存立基盤、都市個性と都市の文化政策、都市の学術研究機能、都市の再生、都市論の脱構築の7章から構成される430頁の大部であるが、102の表、14の図を織り込んで読みやすいテキストブックとしても有用である。たとえば、ジェイコブス、ハワード、ライト、ロバートなど近代都市論を簡明に要約し、近代の都市思想などを巧みにまとめている。評者は、現在、環境省の重点プロジェクトであるコンパクトシティの研究に参加しているが、本書はコンパクトシティをふくめ、現代のサスティナブル・シティの概念を要領よく紹介している。
 これらのコンテキストは、消費最大化から満足最大化への志向であり、目標達成型から目標探索型へのシフトであり、計画形式はブループリント型からコンテインジェント型への転換を示唆している。そこでは、個人の内面的価値の比重がたかまり、福祉社会における負担配分のルールと公正局面が支配的になり、競争主義より協調主義が重視される。すなわち、利他主義へのシフト、地球レベルでの人類主義、共生ヒューマニズムが要請され、西欧中心主義から東西融合主義へと知の転換がはかられる中で21世紀の都市像が生成される。
 戦後の激しい都市化の進行は地方から大都市に向かうすさまじい人口の流入となった。人口・産業の大都市化は、中心都市よりその郊外の異常な成長をもたらすと同時に、ついには中心都市の空洞化をも引き起こした。まさに、都市衰退はメトロポリタニゼーションとそれに随伴するサバーバナイゼーションに帰結される。これに関連して、ピーター・ロバーツによって、ポストフォーディズム型産業構造の世界ペースでの転換、資本の利潤最大化志向、中心都市のプッシュ要因と郊外のプル要因の相乗効果、企業のコミュニティ・リレーションの減退、プロダクトサイクルの標準化などが紹介されている。この背景には、少子高齢化だけでなく総人口の減少傾向が基本的にあり、都市再生の問題は成長拡大型社会から停滞縮小型社会への転換に対応する都市政策の抜本的な転換を要求しているとみている。
 ここで、IT革命に呼応してのコミュニケーションネットワークとしての都市再生戦略が示唆されるが、情報化は都市の拡散傾向を温存させるかもしれない。本書で示唆される21世紀の都市政策は、人口半減・高齢化と経済力の減退、エコロジカルな共生志向のなかで都市のホリスティックなヴィジョンの形成が肝要であることを強く示唆している。われわれは極めて明白な成長の限界を先送りしている。地球環境問題の深刻化のなかで都市のありかたについてパラダイムの転換が求められている。本書では、機械論的な都市論ではなく、生命論型な都市論への転換が強調され、都市の概念形成における客観と主観のホリスティックな統合、都市の存立基盤についての人工から自然の強調、都市と田園の共生が強く示唆されている。しかし、都市の田園のあるべき関係は本来のまま対立的であるべきかもしれない。
(東北文化学園大学/樹下 明)