密集市街地のまちづくり
まちの明日を編集する



はじめに



 1998年7月、私たちは、「木密市街地」り・らいふ研究会(通称り・らいふ研究会)を結成しました。「木密市街地」とは、木造住宅密集市街地の略称です。「り・らいふ」とは、英語の動詞relive(リリブ)からとった造語です。
 reliveは、@よみがえる、A再生する、B住み替える等の意味を持ちます。まちの再生とそこに住む人々の住宅更新、これが「密集市街地」のまちづくりにおいて疑いのない最大目標ですが、reliveという動詞は、まさにその目標を包括的に表現できる言葉です。
 当時は、阪神・淡路大震災の直後に慌しく検討された法・制度の整備が一段落した時期でした。そして、「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」(通称密集法)や「防災都市づくり推進計画(東京都)」などが制定、策定され、密集市街地のまちづくりへの補助のメニューが豊富に整えられました。
 その時です。まちづくりの現場にいる自治体職員やコンサルタントが、新しい法・制度にほとんど期待していないということに、気がついたのは。現場では、どんなに法・制度が整備されても、「密集市街地」のまちづくりには有効に働かないことを、本能的に知っていたのです。
 何故なのでしょうか。「密集市街地」のまちづくりは、多様な阻害要因があまりにも複雑にからみあっているため、行政分野の一側面(例えば防災あるいは住宅政策)を分析したその結果として、どのような制度を設けてもトータルの問題解決につながらないのです。
 私たちは、「制度さえ整備されたら」という、「制度への幻想」を捨てることにしました。そして、現場から、いや現場の自治体職員やコンサルタントの視点からではなく、もう一歩踏み込んでそこに住む人々の暮らしから「密集市街地のまちづくり」を考えてみるべきだ、と思い至ったのです。数少ないまちづくりの成功事例は、そうした試みの意義を導くものとして、航路を知らしめる灯台のように私たちを惹きつけていました。
 り・らいふ研究会は、多様な職種の人間の集まりです。大学教授から学生までの大学人、密集市街地のまちづくりに勤しむコンサルタント、国家公務員や地方公務員、不動産鑑定士や税理士、そのほかの職種もいます。みな、個人の資格で参加しています。発言も論文も組織論理とは関係のない個人の意見です。
 そうして発足した研究会は、喧喧諤諤の議論の末に、「まちの明日を編集する」という言葉にたどりつきました。密集市街地のまちづくりは、ハード面のみではなく、高齢者福祉、多世代の隣居・近居の仕組み、コミュニティ活性化及び地元商店街活性化対策などの総和として取り組まれるものだと考えたからです。
 この多様な対策を、日常の暮らしからの視点で編み上げていく。そのことから、り・らいふ=まちの再生、よみがえり、住み替え=明るい明日につなげていきたいと思います。本書の副題、「まちの明日を編集する」には、そのような意味がこめられています。
 今日、都市の再生が声高に叫ばれています。しかし、残念ながら、その最大目的は、不況克服のカンフル剤としての効果のようです。私たちは、「そこに住む人々の安寧な暮らし」を取り戻すことから、都市再生に寄与したいと考えています。しかしながら現実には、「密集市街地のまちづくり」は、自治体の厳しい財政状況や目先の経済効果が見えないことから、いわば放棄されかかった状況にあります。もう一度、行政も企業も住民も、一緒に考えてみましょう。本書の各論文にみられるように、「密集市街地のまちづくり」に真剣に取り組めば、都市に暮らす人々のみならずまち全体にきっと明るい明日が約束されます。
 自らのまちのよき明日を希う地域のリーダー・まちづくりに関心を持つ住民の方、行政を担う政治家・議員の方、行政の中で都市計画やまちづくりを担当する職員、都市計画やまちづくりを業とするコンサルタント、大学でまちづくりを研究あるいは学ぶ方及びその他まちづくりに関わることを仕事とするすべての方々に、研究会の総員から本書をお贈りしたいと思います。

2002年9月
「木密市街地」り・らいふ研究会
事務局長 堀川 啓三



・り・らいふ研究会設立趣意書






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