界隈が活きるニューヨークのまちづくり
歴史・生活環境の動態的保全


書評

『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2002.9

 よく、アメリカは歴史の浅い国だと言われるが、特に東海岸には重要な歴史的価値のある環境を有する都市が多く、保全活動も熱心に行われている。そこでは保全といっても単に古い建物を残すということではなく、「都市の性格」を維持しつつ環境を漸次更新するという、いわば動態的保存の手法が活発に取り入れられている。
 本書では、歴史的環境保全サイドからニューヨーク市の都市保全について動態的保存手法の中核となるヒストリック・ディストリクトを主要テーマに掲げ、その普及背景や論理的根拠、まちづくり制度としての成長過程等について述べた後、さらにそれが保全しようとしている都市の「特別な性格」とはなんなのか、そしてどのように保全してきたのか、また、規制内容はどのように変化してきたのか等の点をグリニッジ・ビレッジを例に具体的に分析、考察している。そして最終的に、重層的な界隈や多元都市の実現を目的とした上で、今後のあるべき都市更新の課題と展望について論ずるものである。


『日経アーキテクチュア』(日経BP社) 2002.4

 著者は本書のキーワードの一つ、「界隈」という言葉を「何らかの魅力的な雰囲気をもち、人々が生き生きと生活している場所」と定義する。界隈は歴史の積み重ね、つまり重層化によって、その魅力を増す。そうした界隈を重層化する制度として、ニューヨーク市のヒストリック・ディストリクト制度を挙げている。
 ヒストリック・ディストリクトは、歴史的環境の価値が評価されて指定・認定などを受けた地区である。この制度による規制は建築物の保存というより、住民の生活環境を豊かにするための手段、いわゆる動態的保全の側面が強い。
 ニューヨークは、市民・行政・建築家・開発業者らの協同の結果、厳しい規制と柔軟な対応を併せ持つシステムをつくり上げた。そのプロセスをたどると、保全がいかにこの街の魅力をはぐくんできたかがわかる。
(『日経アーキテクチュア』 2002年4月1日号 p158より転載。掲載にあたっては日経BP社の許可を得ております)


『室内』(轄H作社) 2002.4

 界隈は本来「そのあたり、近所」という意味だが、本書では「なんらかの魅力的な雰囲気を持ち、活き活きと人々が生活している、まとまりのある場所」の意味で使われている。著者の窪田亜矢さんは、都市の魅力は「界隈」にあると考え、ニューヨークを例にその根拠をまとめた。
 界隈は昨日今日のうちにできたものではない。少しずつ時間を積重ねて生まれたものである。しかしそれは、新しいものをよいとする考え方のもとでは、真っ先に消されてしまう存在である。
 ニューヨークは、歴史的環境保全は公共の福祉であり、それを行うのは行政の責任である、という認識が一般にある。加えて「ヒストリック・ディストリクト」が大きな役割を果たしている。これは、そこに残る歴史的な建物だけでなく、その環境を守り育むための制度である。このおかげでニューヨークは、新たな変化を受け入れながらも、さまざまな特長をもつ界隈を残すことができた。窪田さんは、具体的な事例をあげながら、東京やそのほかの大都市が、もっと魅力あるものに生まれ変わる方法を探しているのである。
(暁)