都心居住 都市再生への魅力づくり


まえがき


 好景気時に比べると、賑わいは低調かも知れないが、週末には大規模なスーパーマーケット、ディスカウント店等の大規模店舗は賑わっている。田園地域、地方都市、県庁所在の地方中核都市でも生活は都市化し、大都市と同様な生活がある。週末には一週間分の食材等の買い物、家族での外食を楽しむ生活がみられる。このような生活がみられるのは車で出かけられ広い駐車場をもつ郊外である。
 一方、都市の中心部はどうだろうか。地域でも著名な何世代にもわたる老舗、最も古い商店街があるが、都心に出かけたのはいつだったのか、そういえば「中心部にある市役所へ出かけた帰路だった」と思い出すのに努力がいる。今日、都市に住む人、田園に住む人の多くが、それぞれの郊外に住み、生活は郊外にあり、都心部にはない。
 都市の中心部は発展の核であり、都市の歴史・文化がある。著名な老舗、最も古い商店街の他に、古い歴史の銀行、保険会社の店舗等が並び、最も古い小学校がある。まちで一番古い公園、一番古い橋があり、道路の最も整備された地区であり、まちのスットクがある。地元の著名人の生家、文学作品の舞台、歴史的出来事の記念碑があり、まちの精神的バックボーンである。しかし、人口・産業の都市集中により都市の郊外化が促進され、店舗の郊外進出、中心部魅力の一つであった娯楽の中心、映画も集客できなくなっていた。それでも、経済好調期には、古くからの地元企業、大企業の支店、デパート、各種団体等の建物が立地し、都心部は業務・商業機能が集積する中心業務地(CBD)と同義化していた。経済退潮期、経済構造の激変により、閉鎖、跡地利用が進み、様相が一変しているが、多くの人にはその変貌をよくは知られていない。
 本書は、経済発展期における業務・商業機能の集積が都心部を「単機能化」させ、都心部から生活の場をなくしてしまったこと、都心部を再度生活の場に変えことにより都心部を変え、再生させようとの想いから、都心居住を論じている。都心居住を単に都心に住むだけの問題でなく、都市再生の原点といえる都心部の魅力づくりの核と考えて、都市における都心部の歴史的文化的価値の認識、都心部におけるまちづくり活動、都心部に隣接する周縁的空間の再生等、「多論的」的視点で「都心に帰ろう、都心に住もう、都心を変えよう、都心を元気にしよう」を述べている。
 都市、まちの原点は、人のエネルギー、活動であって、人を除外した「モノ、情報」ではない。都市の中心部、都心は、以前は業務・商業の中心と同時に生活の場であり、中心でもあった。たしかに、ニューヨーク市のマンハッタン地区、パリ市の中心部等では、都心部に多数の住宅があり、生活がある。夜ともなれば、観光客を交え居住者の多様な生活が展開され、昼の業務・商業の世界拠点から、食事・エンターテイメント等を楽しむ生活拠点となる。中国上海市などアジアの大都市の都心も賑やかである。
 郊外の生活様式について、マンフォードは『歴史の都市、明日の都市』(一九六九)で「はじめ郊外は、生産にたずさわる都市中心の生活よりも、あらゆる点で楽で、非組織的、創造的、非形式的な新しい生活様式で、生産が進み、消費の重点が移るにつれて、一般化の傾向となり、もはや無秩序な都市に対する不満の表現だけでない。小さな歴史的な町さえ新しい郊外的周辺をもつ」。と、郊外生活スタイルの形成は述べているが、今日では郊外生活の定型化が目立っているのではないか。
 わが国では、今日、都心部における地価の低下、企業所有地等の売却による開発用地供給、等による住宅供給が活発であり、人口増加等、「都心回帰」がみられる。しかし、都心居住の動向には課題がある。郊外の生活スタイルがそのまま入るモノではないように思われる。生活自体も定型化傾向にある郊外生活の打破し、新たに都心居住のスタイルの確立が求められる。さらに、都心再生の原動力として都心居住を考える際には、都心のまち文化史、スットクを再考し、既に都心部再生を目指した住民・専門家の活動等を基盤として育成することも重要である。
 本書の構成は、「都心居住の新しいスタンダードへ」、「都心のポテンシャルと再生への視点」、「都心の将来像と都市再生」の三部である。第T部「都心居住の新しいスタンダードへ」では、都心居住、都心住宅を実践的に推進してきた都住創の中筋氏が、これまでの仕事を通しての見解を精力的に述べ、わが国で郊外居住スタイルの対比として都心居住スタイルが形成されてこなかった状況、都市住宅の夭折を論じている。第U部「都心のポテンシャルと再生への視点」では、今日「都市回帰」といわれる都心部マンションの供給状況、サンプル調査による入居者像、今日、居住スタイルにおける圧倒的主流となっている郊外居住と対比して考えるスタイルとしての都心居住の課題・推進、都心居住推進の担い手として期待されるハウジングNPO、大阪市都心部のまちづくり活動として注目されている「船場ニューポート」、異人町の再生「川口まちづくり」の活動、大阪の都心「船場」における都市資源の発掘、歴史的文化的都心の見直し、等を論じ、提唱している。第V部「都心の将来像と都市再生」では、二一世紀に向けての都心のあり方、大阪都心へ再生、魅力づくりの戦力を論じている。
 都心居住の今後を展開して結論的なことを言うと、都心居住促進には三大課題あると考えられる。第一に都心部に適切価格で、良好な居住空間・環境が形成されるような構造的な仕組み(都市計画)、第二に快適に居住出来、人の居住することによるエネルギー・情報などが街に発信するような建物実現の仕組み(質とデザイン誘導:アーバンデザイン・建築)、第3に都心型生活スタイルの創造・定着化を促進するような仕組み(生活創造者の誘致、文化の発信)、である。しかし、先ず大切なことは、都市資源活用および都心再生の都市方策、同政策における都心居住の意義・役割、都心居住促進の都市計画のあり方(パリ市、ニューヨーク市の用途別容積制等)等をしっかり議論し、都心居住を考え、推進の合意形成を図ることが必要であろう。
 都市にとって都心居住は、業務・商業等中心とする非生活環境に特化していた都心部の大規模構造改革、リエンジニアリングである。都心部の総合的再生であり、一部の特化した都心部を除外した大部分の都心部における「生活する都心部」と「企業活動・ビジネスの都心部」との重なりである。機能的、環境的に特化、専用型での代表であった都心部の複合型化である。都心居住を新たな社会・経済的開発の場とすることである。生活者にとって都心居住は、生活力の強化である。「何かと便利」で都心居住を選択したネガティブでない、ポジティブな新生活者の登場である。
 インターシティ研究会 代表幹事
濱田学昭


あとがきにかえて…中筋修さんを惜しむ







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