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大型店とドイツのまちづくり


書  評

『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2002.10
 わが国においてはドイツの都市計画は理想的だという神話がある。しかし実際はドイツの中心市街地もわが国と同様に郊外大型店の進出による既存商店街の衰退に悩まされている。それでもなお「ドイツ神話」が存在するのは適切な都市計画的対応がなされているからであるとも考えられる。ドイツの都市計画を正面から捉え直し、その本質を理解しておく必要があろう。
 このような問題意識に基づき、本書では大型店進出をめぐる関係主体の動きが克明に展開されている。具体的には1章でドイツの大型店規制の枠組みを概観し、続く2〜6章で大型店をめぐる5つの「攻防」がそれぞれ描かれている。
 本書では関係主体の動向が時系列的に記述されており、ドイツにおける大型店進出に対する都市計画的対応について詳細に研究するのに適した1冊といえる。2〜6章の事例を読み進みつつ、各アクションの制度的意味合いを1章で振り返るとより深い理解が得られる。


『建築士』((社)日本建築士会連合会)  2002.5
 本書は、都市計画で市街地を活性化するとはどのようなことなのか。またそのためには、何を行わなければならないのかを考える手がかりを得るため、先進的に努力しているドイツの実態を述べたものである。取り上げられている地域は、ドイツで人口が最も集積し、大型店進出も著しい大都市圏のルール地方と、南ドイツにある地方中心都市、ウルムの都市圏である。
 ルール地方西部にあるオーバーハウゼンには、1990年代のドイツで最も注目された商業プロジェクト「ツェントロ」が立地している。また、ルール地方東部の大都市ドルトムントでは、周辺地域へ大型店が進出した結果、都心が集客力の衰退に苦しみ、対策として複数の商業プロジェクトが登場して話題になっている。この両市が属しているノルトライン・ヴェストファーレン州は、地域計画において先進的な試みを行い、自治体の市街地活性化を積極的に援助している。一方、南ドイツのウルムは、人口密度が低い田園都市の中心都市である。この地域は、ドイツで最も大型店の進出が著しい地域で、「大型店が大型店を呼ぶ」と表現できる状況が見られる。
 ドイツのまちづくりは、日本にあまりに美化されて紹介されており、都市計画の理想だと信じている人も多い。しかし、ドイツで都市計画を担っている人々の苦悩や、まちづくりの裏に潜んでいる問題には、日本と類似した点が多い。なかでも、郊外大型店の進出による既存商店街の衰退、空洞化は日本とドイツがともに悩む問題である。
 本書をお読みいただければ、「都市計画で市街地を活性化する道」には、多くの困難が立ちはだかっていることがわかるだろう。
(竹村 喜次)


『建築士事務所』((社)日本建築士事務所協会連合会)  2002.3
 都市計画的な規制が整備されていると信じられているドイツにも、日本と同様の摩擦は存在する。経済効果や雇用創出をめぐってせめぎ合う自治体と住民たち。誘致か阻止か、揺れ動く都市計画運用の実態をドイツに追う。


『商店街通信』 2002.2
 本書は、都市計画や住宅政策の研究者で、福島大学教授の阿部成治氏が、「まちづくりによって市街地を活性化するとはどのようなことか、そのためには何を行わねばならないのか」を考える材料として、「苦闘するドイツ自治体と都市計画の運用実態」について書いた本である。
 日本のまちづくり研究者などには「ドイツの都市計画では、『計画なくして開発なし』という理念が実践されている」という理想的なイメージがあるが、それは実態とは異なる面もあるという。
 ドイツでも、「わがまちを発展させたい」と、中心市街地の空洞化をもたらしても郊外に大型SCを誘致する例はある。
 そのケーススタディーとして、ドイツで最も人口集積が著しい大都市圏、ルール地方と地方都市のウルムなどが取り上げられている。
 バラ色の成功例ではなく、「苦しんでいる姿」が具体的に描かれているが、「大型店対策と市街地活性化に関し、日本にもドイツにもそれぞれ長所があり、読者の創意工夫を引き出す源となる」(阿部氏)からだ。
 また、都市計画を進めるにあたって議会の強さや個人の役割の大きさも強調されている。このあたりは、日本でまちづくりを進める多くの人々にとって、参考になるのではないか。