書評



『民家』(日本民家再生リサイクル協会) No.23
 著者のまえがきに「日本の風土が育んできた石の文化、培われてきたデザインを紹介し、それらが街並み形成、地域デザインに果たす役割を考察し、……石による地域計画、まちづくりの視点を提示したい」とある。
 日本各地で産出される石を紹介し、それらを利用して多様な街並みを形成してきた経緯、それらが育んできた文化などを通して今後どのように「石の文化」を継承、発展させていくかを提示している。日本は世界屈指の火山国であり、地表の三分の一を火成岩が占める「石の国」として、古くから「石の文化」が私たちの生活に根づいている。石を知るということは、歴史や文化を知ることでもある。
 著者は日常工事現場で掘削中に出る地場の良質な自然石を処分して、外国からの安い輸入石材を利用している現状を憂い、「石垣(石材)バンク」を提唱している。石は木と異なり、人間の力で再生産することは難しい。そのような意味では「民家バンク」と共通するところがあるのかもしれない。
 日本の石、地域の石を知ることから「石の文化」を再認識することが始まる。本書は「木の文化」と同様、「石の文化」に目を向ける入門書と考えられる。


『日刊建設産業新聞』2002.3.15
 徳島大学工学部建設工学科助手で、関西学院大学、武庫川女子大学非常勤講師を務めている三宅正弘氏はこのほど、風土性豊かな石を活かした地域づくりの提案として、「石の街並みと地域デザイン―地域資源の再発見―」を出版した。
 兵庫県芦屋という石の街に生まれ育った著者が、石をテーマにしたまちづくりや地域デザインに関し、石は街の個性やアイデンティティを発揮させる最も身近な素材ということを、専門家のみならず一般の人たちにも理解してもらおうと著した意欲作。
 序章で、わが国は木の国に育まれた石文化というものを説き、第1・2・3章で日本の石の街並みとそこに育まれてきた文化の実態を、そして第4章では、1〜3章で導きだされる地域デザインの方法を述べている。
 同書で述べられている地域は、居住地の意味。我々の生活に最も身近な空間である居住地の固有性や文化は、地域の生活者自らが自分の地域を知り、他地域との文化の違いを感じることから育まれる。その最も身近な素材としての石を考察している。また、あまりにも身近で気づかれないでいた、しかし大きな可能性を秘めた石による地域計画、まちづくりの視点も提示している。


『庭』(龍居庭園研究所)  No.144
 「日本は『木の国』とは言われるが、『石の国』とはほとんど認識されていない」。しかし……、とこの本は始まる。確かに、日本各地を眺めて見れば、「石の国」を証明するようなランドスケープの数々が、存在感を示しているのに気づかされる。
 金沢に多く見られる戸室石がつくりだす亀甲型の意匠、花崗岩による六甲山麓の白い街並み、和歌山から四国北部に多い青石の石積み、古代の都の造営に用いられた飛鳥石が積まれた奈良の集落…。あるいは、防風のための石垣や、石で積まれた段々畑、生活道具を再利用した石臼の石垣…。
 「上流の町ではまだ角のついた石が積まれ、下流では、川でゆっくりと丸まった石が積まれた」。地場の石による造形は、土地の個性を際立たせる。個性豊かな石が織りなす農村の景観、都市の景観。石はまた、土地の歴史を物語る無言の語り部とも言える。
 このように、著者は石によって形成された魅力的なランドスケープを様々に披露しながら、これからの日本の地域デザインのための石の可能性を探っていく。
 石垣文化財の活用や、古い石のリサイクル、また、石垣をロックガーデンにしてエコロジカルな街をつくることや、不要になった石材をストックして、それを適宜有効利用する「石垣バンク」の提唱。地域のアイデンティティーを形成するための素材として、石に注目。


『建築士事務所』((社)日本建築士事務所協会連合会)  2002.3
 集落から今日のニュータウンまで、風土に育まれてきた石の街並みを日本各地に訪ね、あまりにも身近で気付かれないでいた石の地域特性を検証した。風土性豊かな石を「地域固有の資源」として活かしてゆく地域づくりを提案する。第1章石の国・日本では火山岩、御影石、変成岩、凝灰岩、砂岩のランドスケープを、第2章石の街並みの形成では自然と向き合う、集落、ニュータウン、お屋敷街、マンション街を、第3章石が織りなす都市文化では飛鳥、阪神間、京都、東京を、そして第4章石の地域デザインの可能性ではリサイクル、ロックガーデン、石垣バンク、石の公園づくりを紹介している。


『造景』(建築思潮研究所) No.35
 日本は木の文化の国といわれる。ところが、各地を旅行すると、意外に石の要素が大きいことに気付く。場所によっては、ほとんど石造りの町並みに近い印象を受ける場合もある。本書はそうした実感を多くの実例によって証明している。
 各地の石材の種類とデザインが採録されている。石と地域資源に関する研究としては初めてのものであろう。
 単行本の制約上、石によるランドスケープの良さが表現できていない点は残念だ。


『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2002.10
 一般に日本は「木の文化」であると言われるから、「日本は石の国であり、石造りの国である」という冒頭の書き出しは意外に思える。しかし石垣や石畳、石灯篭、近代以降の石造建築を思い起こせば、石の街並みは身近にある。本書はそのことに気づかせてくれる。
 石には様々な種類があり、織り成す街並みには違いがある。本書では古都・飛鳥や住宅街である芦屋、大都市である京都や東京・山の手の事例を通じて多様な石の街並みが描写される。そこには地形や河川などの地理的な条件、地場産の石の存在、そして都市の形成の過程で各地から石が集められてきたという歴史的経緯などの要因が絡んでいる。
 著者は、岩盤・地質の共通性をもって地域連携へとつなげようとする。また、石を地域資源と捉え、地域づくりに活かすべく、工事などで採石された石をストックし地域づくりに活かすための「石垣バンク」を提唱している。本書において一貫して石にこだわる著者の視点は新鮮である。



学芸出版社