コンパクトシティ

持続可能な社会の都市像を求めて

書 評




『建築とまちづくり』(新建築家技術者集団発行) 2002.3
 本誌の昨年11月号では郊外居住の問題を取り上げた。その中でも触れられていたが、都市への集中は一方で都市の郊外への拡大をともなっていた。欧米でも同様で、自動車利用を前提とした郊外への拡大は大きな環境問題、都市問題と認識されている。膨張する都市に対して、ヨーロッパの歴史的都市の形態をモデルに都市再生を図ろうというのがコンパクトシティの考え方である。
 著者は生活の質を高めながら都市が持続していくためには都市の形態が重要とし、論文集「コンパクトシティ」の編著者オックスフォード大学のマイク・ジェンクス教授の主張を引用、持続可能な都市形態とは@都市形態のコンパクトさ、A混合用途と適切な街路の配置、B強力な交通ネットワーク、C環境コントロール、D水準の高い都市経営、であるという。コンパクトシティ像とはこういうものである。
 本書の前半は最近の欧米の都市政策をこのコンパクトシティと関係付けて紹介している。サステイナブルな社会と都市をめざすEU、アーバンルネッサンスのイギリス、環境問題に積極的なドイツ、計画的国土利用のオランダ、ニューアーバニズムのアメリカ。後半では欧米における論争を紹介。低密度な郊外に対する人々の志向や、すでに拡大してしまった都市を変革する力はないというのがコンパクトシティに対する批判である。著者はコンパクトシティがすべての問題を解決するわけではないとしながらも、基本的な政策の方向はその推進に向かっているとして、日本でも青森・福井・神戸・金沢などの都市構想を例示している。
 最後に、日本型コンパクトシティの原則を提案している。個々の提案は特に目新しいものではないが、コンパクトシティという概念でまとめ上げることの有効性が本書の主張であろう。
(K)


『地域開発』((財)地域開発センター) 2002.3
 自動車利用を前提とした現在の都市空間に代わる新たな都市像として、特にEUを中心にコンパクトシティという概念が注目を集めている。
 コンパクトシティが提起しているのは、都市の諸問題に対する現実的な取り組みの中で発見された、新たな都市空間の共通の原則である。実際のコンパクトシティ政策の目的や手法は、田園風景の保持を目的とする英国、市街地の活性を維持しようとするドイツ、スプロール整序を目指すアメリカなど多種多様であるが、いずれも単純な過去への回帰ではなく、都市の問題を克服する新しい都市空間を実現しようとするものである。
 コンパクトシティの原則は日本においても例外ではないと著者は説く。本書はまだ日本では共通の理解が得られていないコンパクトシティに関して、欧米における論争や政策を紹介し、さらには日本の先進自治体の取り組みも交えながら、日本型のコンパクトシティに向けた10の原則と3つのモデルを提案している書である。


『人と国土21』((財)国土計画協会) 2001.11
 「まちづくり」という言葉があちらこちらで使われるようになって久しい。それだけ住民が「まちづくり」に興味を持ち、参加しようというムードになっている証左なのだろうが、裏を返せばそれだけ現在の「まち」に問題があるということなのかもしれない。郊外型店舗の展開に伴う中心市街地の空洞化などは、さしずめ典型的な問題なのだろう。
 「コンパクトシティ」は、もともとヨーロッパにおいて環境政策の中から出てきた概念であるが、現在では、その射程範囲は広く「まちづくり」のあり方までに及んでいる。本書は、「コンパクトシティ」を支える「持続可能性」の概念から、各国のコンパクトシティ政策の紹介、そして日本型コンパクトシティの提案まで、「コンパクトシティ」についての基本的事項をまとめたものである。
 コンパクトシティへの賛否はともかく、「まちづくり」について議論する上での共通基盤として、本書は役立つであろう。
(井上靖朗)


『造景』(建築思潮研究所) No.34
 現在東京で実施されようとしている「都心再生」を見て痛感するのは、明確な都市ビジョンのない段階で開発を行っても、結局、前世紀的な拡張志向を脱却できないということだ。
 「開発」を「再生」と呼び換え、表面的には自然環境の回復や歩行者空間の復権など、近年の流行りを取り入れても土建屋的な再開発であることに変わりはない。その理由は、目指す都市像が近代都市を抜け出ていず、規制緩和によって都市計画制度をなし崩しに改定しながら、高密度都市を目指しているためである。

 これに対し、ヨーロッパではEU統合が行われたせいもあり、前世紀末に徹底した都市像に関する討論が行われた。そこで生まれた概念が、持続可能な開発(サステイナブル・デベロップメント)である。
 本書は、この概念を都市形態の面から「コンパクトシティ」ととらえ、欧米の都市計画を一括して紹介している。
 サステイナビリティは、環境問題と社会問題を統合した概念である。都市計画の制度や手法が独立に存在するのではなく、環境や社会との関係においてとらえられ、失業やスラムなど、さまざまな都市問題を統合的に解決しようとする概念である。むしろコンパクトシティはその一部をなすものと理解すべきであろう。


『建設通信新聞』(日刊建設通信新聞社) 2001.10.22
 コンパクトシティは、サステイナブル(持続可能)な都市の空間形態として提起された欧州の都市政策モデル、都市空間の概念である。これを日本の都市づくりの指針となるように、10の原則を提案する。
 原則は@近隣生活圏で都市を再構築するA段階的な圏域で都市や地域を再構成するB交通計画と土地利用との結合を強めるC多様な機能と価値をもつ都市のセンターゾーンを再生、持続させる―など。このほかに、都市の規模によって環境共生型(小都市)、多重多層型(中都市)、多芯(しん)連携型(大都市)の3モデルを提案している。


『新建築住宅特集』(叶V建築社) 2001.10
 コンパクトシティとは、「サステイナブルな都市の空間形態として提起されたEU諸国で推進されている都市政策モデルであり、都市空間の概念」と説明されている。1996年には英国のマイク・ジェンクス教授らによって同名の論集が、2000年にはさらに第2、第3論集が出版された。そして持続可能な都市形態の共通原則として、(1)都市形態のコンパクトさ、(2)混合用途と適切な街路の配置、(3)強力な交通ネットワーク、(4)環境のコントロール、(5)水準の高い都市経営、の5点を挙げる。本書では、英国、ドイツ、オランダ、アメリカの事例を紹介しつつ、より望ましい都市形態のひとつとして日本型コンパクトシティを模索している。








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