コンパクトシティ

持続可能な社会の都市像を求めて

まえがき


 自動車利用を前提としたスプロール的な都市拡大は、20世紀の都市の大きな特徴となっている。そこから生じたさまざまな課題に対応するために、EUの環境政策、都市政策の空間形態として提起されているのが、90年代のコンパクトシティである。EU加盟諸国は、それぞれの国の独自性をふまえて具体的な政策を実施している。
 地球環境問題、社会的な公平性、都市中心部の活気の維持、効率的な公共投資、そしてなによりも都市の機能を強め、都市生活の魅力と生活の質を守り高めるために、コンパクトシティはわかりやすい解決策となっている。しかし、このテーマを巡って、欧米においては今でもさまざまな論争が行われて、多面的で実証的な議論や研究も行われている。
 わが国においても、コンパクトシティへの関心が高まっており、都市マスタープランなどに取り入れている自治体も増えてきた。しかし、コンパクトシティとは何か、どのように達成するのか、それは可能か、また、期待されているような効果は得られるのか、といった基本的なことについての共通の理解に乏しいのが現状である。

 本書は、コンパクトシティに関して、欧米における政策と論争の広範な紹介、わが国における都市づくりを取り巻く変化と日本型コンパクトシティの提案を、最新の情報をできるだけ取り入れて、まとめたものである。

 序章では、コンパクトシティが注目される背景を、経済、社会状況、都市計画の変化に着目して述べている。あわせて、経済発展が優先されてきたわが国の都市政策において、コンパクトシティ論が持っている意義を考察している。

 1章は、コンパクトシティの政策的な基礎となっている持続可能性(サスティナビリティ)について、歴史的な概念の展開をまとめている。さらに、EUにおける持続可能な都市(サスティナブル・シティ)とコンパクトシティについて、経緯や近年の政策展開を整理している。

 2章は、開発コントロールやパートナーシップなどを通じて、強力な政府主導で持続可能な地域、社会、経済を♀目指し♀ている英国を取り上げている。英国の都市・地域計画の仕組みと最新の動向を紹介し、新たな地域戦略であるアーバン・ルネサンスとロンドンを含む南東部地域戦略について、まとめている。

 3章は、英国政府の政策や、都市・地域づくりが自治体の現場でどのように具体化されているかを、中規模都市レディング市と、隣接する田園地域のサウス・オックスフォードシャ郡を取り上げて、現地での調査を踏まえて紹介している。

 4章は、中世以来の自治都市の伝統をもち、環境問題への積極的な取り組みで知られるドイツと、EU諸国のなかでも、計画的な国土づくりで知られているオランダにおけるコンパクトシティ政策とりあげた。

 5章は、世界でもっとも早く自動車社会となり、都市のさまざまな機能が郊外へとスプロールしてきたアメリカの動向を考察している。また、ニューアーバニズム運動や賢明なる成長(スマート・グロース)政策を取り上げている。

 6章は、コンパクトシティの理念、具体策、効果、実現可能性、社会の支持などを巡る論争を整理している。また、コンパクトシティの基本的な要素である密度、用途混合、モビリティとアクセシビリティなどについてまとめている。

 7章は、わが国の都市空間の特徴をコンパクトシティの視点から、考察している。市街地人口密度と施設の立地やひとびとの交通行動、わが国とドイツの都市空間について考察している。

 8章は、コンパクトシティの考え方を取り入れたわが国の自治体、産業界、プランナーなどからの提案、関連した国の政策の動向を、広範に取り上げている。そして、欧米における取り組みと比較しつつ特徴を整理している。

 9章は、コンパクトシティの原型ともいうべき中世都市とメガストラクチャー、段階的な空間構成についての提案をまとめた。さらに、長期的な都市の空間構成の変遷を整理し、これからの都市空間を展望している。

 最後の10章では、コンパクトシティのヨーロッパモデルとわが国の都市、地域の現状をふまえて、日本型コンパクトシティの10の原則を提案している。

 本書は、これからのまちづくりや地域のあり方に関わっている研究者や政策担当者、コンサルタント、学生にはもちろんだが、21世紀を迎え、環境問題や高齢社会といった新しい条件のもとで、望ましい社会像を模索されている市民の方々にも、興味深く有益な材料を提供できているものと思う。
2001年7月23日 海道清信









 あなたは人目(2001.7.11〜)の訪問者です。