コンパクトシティ

持続可能な社会の都市像を求めて

あとがき


 コンパクトシティに関心を持ち、勉強をはじめてから4年ほどになります。学生時代から都市の人口構造や工業都市の形成・変化、大都市の空間変化などに関心を持っていました。学位論文は、20年間勤務した地域振興整備公団の地方都市圏における新都市開発事業の事業運営と効果を中心にまとめましたが、このときに、地方都市の空間構造のあり方や、英国のニュータウン政策を勉強しました。いろいろな政策や計画が実際の地域空間をどのように変化させているのか、地域空間構成の基本原理とはなんだろうか、といったことへの関心が根にあるように思います。  コンパクトシティ論の勉強を始めた直接のきっかけは、静岡県島田市の都市マスタープランの専門委員として、これからの都市のあり方を考える必要に迫られたことにあります。島田市では、都市計画課(当時)の矢沢雅則さんたちといっしょに、ゼミの学生たちも参加して、参加型まちづくりの取り組みを進めています。同時期に、京都大学大学院生の田泰宇(ジョン・テウ)さんと一緒に、地方都市の計画論を議論していました。  人々の地域における交通行動の矛盾を通して、地域空間の問題とあるべき姿を探れるのではないだろうかということになりました。その後、津山と可児で調査を実施しましたが、このとき、私の恩師の三村浩史関西福祉大学教授・京大名誉教授から、英国で出版されたジェンクスらの著書『The Compact City』を教えられ、コンパクトシティという概念やモデルの存在を知ったのです。そして、この考え方には大事なテーマがあると直感しました。  しかし、この本だけでは彼らが議論している肝心の「コンパクトシティとは何か」という実体がつかめませんでした。その後、インターネットで、アメリカのサスティナブル・シティの取り組みを知り、さらに、名城大学図書館可児分館の皆さんの協力で外国文献の収集、インターネットで関連洋書の購入や資料収集を進め、少しずつ理解が深まっていったというのが、研究のたどった道でした。また、並行して雑誌『マイホームプラン』に全国各地の歴史的な♀まち並み♀をとりあげ、「まちをあるく」と題して連載しましたが、このときに訪れた50ほどのいろいろなまちの魅力も本書の論調にかなり影響しているように思います。  この間に、三村浩史編著『地域共生のまちづくり』(学芸出版社)にコンパクトシティについて小論を書きました。幸いなことに、それが神戸市の震災復興本部(当時)の本荘雄一さんや都市計画局の中山久憲さんの目に留まり、コンパクトシティ研究会に参加させてもらい、『The Compact City』の翻訳・出版を実現することができました。この翻訳をめぐって、東北でコンパクトシティの考え方を広めておられる福島大学の鈴木浩教授らとの交流もできました。また、EUの文献収集の中で、建築家・都市ジャーナリストの岡部明子さんのご協力も得られ、議論の機会も持てました。  滋賀県立大学の水原渉教授、米子高専の片木克男教授らと日本建築学会都市計画委員会地域計画小委員会で、コンパクトシティの考えを論議できました。98年夏に、ドイツに行き、アーヘン工科大学のクルデス教授から、ドイツにおけるコンパクトシティの取り組みについて教えていただき、99年には同教授とユーリッヒ市のシュルツ助役に来日していただきました。お二人をゲストとして、彦根、広島、東京でシンポジュームを開催し、認識を深めることができました。この取り組みで、伊藤伸一\財()国土開発技術研究センター上席主任研究員、轟慎一滋賀県立大学助手、神吉紀世子和歌山大学講師、中村司オリエンタルコンサルタンツ大阪支社地域環境部長にお世話になりました。  また、建築学会の地方都市研究会では金沢大学の川上光彦教授他の皆さんと良い経験をすることができました。金沢の資料については、木谷弘司金沢市都市計画課主査(当時)から多大の協力を得ました
 それ以降、99年度の神戸市コンパクトシティ研究会に参加して、神戸のコンパクトシティのありかたについて、紙野桂人帝塚山大学教授、佐藤滋早稲田大学教授らとも、議論する機会がありました。また、2000年度には、地域振興整備公団上野都市開発事務所が三重県上野市の将来像をまとめる作業に参加し、コンパクト・エコ・シティというコンセプトによる都市づくりの提案を、国際開発コンサルタントの大森和仁さん、まちづくりホームプランナー事業組合の池田利通さんらと議論することができました。  2000年の8月には、『The Compact City』の3人の編著者、ジェンクス、ウイリアムス、バートンさんと、オックスフォード・ブルックス大学で、お会いしていろいろな話ができて、理解を深めることができました。このときに、バーミンガム大学に留学中の中林浩平安女学院短期大学教授、レディング大学に留学中の植野和文神戸商科大学助教授のお世話になりました。  この他にもたくさんの皆さんのご協力で、研究を進めてきましたが、改めて振り返ってみると、本当に良い出会いと幸運に恵まれて、本書をまとめることができたと実感しています。だれにも、街や村の原風景、原体験があると思いますが、私にとってはそれはふるさとの金沢です。親戚のおばさんから「わたしらは、もう年を取ってしまったし、昔のようになんでも歩いて用がたせるような街にしてもらわんと困る。そうなるように、しっかりがんばって」という励ましが、勉強を続けさせる後押しともなりました。  なお、コンパクトシティ研究の関連で、旧文部省科学研究費「高齢化に対応した環境重視の都市像・コンパクトシティ論の検討と提案―日韓独比較」(98〜99年度)、同「地域共生型社会における持続可能な都市形態及び地域構造の研究―日本型コンパクトシティ・モデルの構築」(2000〜2001年度)、同様のテーマで名城大学総合研究所特別推進研究費(2000〜2001年度)の研究助成を得て研究を進めることができました。  さらに、本書の出版のチャンスを与えてくださり、かたくなりがちな表現を少しでも読みやすいように、いろいろと具体的にアドバイスをいただいた学芸出版社の前田裕資さんには、本当にお世話になりました。ありがとうございました。最後になりましたが、執筆の過程で家庭的な文句もあまり言わず、写真や図版の整理も手伝ってくれた妻の昭恵に感謝します。
2001年盛夏 海道清信









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