都市と路面公共交通

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◎資料bR 助成制度
1) ドイツ
 ドイツの都市交通政策と助成制度の変遷は表5に示すとおりである。ドイツの都市交通政策で転換点といえるのは、1964年の「自治体の交通状況を改善する方策」という報告書であった。阿部成治「ドイツにおける公共交通施設建設費の補助制度」(日本都市計画学会学術研究論文集、日本都市計画学会、1996)によれば、「報告書は、交通状況を改善するために各種の具体的提案を行っており、なかでも公共交通機関の任務を重視している。主な理由は2つある。第1は、全市民の生活に必要な交通の可能性を提供するには、自動車を公共交通・歩行者・自転車より優先させてはならないと考えたからである。第2は、マイカー利用を中心として交通問題を解決するには膨大な道路と駐車場が必要となり、空間面からも財源面からも供給できないと予測したからである」。
 さらに、そのためには魅力的な公共交通機関が必要であるが、その整備のための財源を自治体の財政に期待するのは困難であるとして、自動車燃料に対する鉱油税を原資に自治体財政への支援を強く打出した画期的な報告書であった。ドイツでは60年代に、都市の今日的様相を予測して、自動車交通から公共交通優先への転換を始めていたのである。
 そして、政策を転換し、実行するための担保ともいえる財政的な支援は、1967年5月12日に公布された「地方自治体の交通事情を改善するための連邦政府の援助指針」であった。1964年の報告書を受けて、連邦政府・議会は税制改革を断行し、特定の電車施設整備(路面電車の地下化も対象)に限り、補助金が受けられるようにした。財源は鉱油税で、1966年税制改革で増税分の60%は道路建設へ、40%は公共交通機関の整備に充てられた。なお、個々の事業の負担割合は、州毎で異なっていたが、連邦政府の補助率は50%であった。
 その後、この援助支援は「GVFG」という名で法制化され、ドイツにおける公共交通整備を支えてきた。
 一例としてニーダーザクセン州ハノーバーのC線西部建設(1984年に一部開業)における助成金の負担割合は次のとおりであった。
◎助成対象費用の60%は、GVFGスキームに基づくニーダーザクセン州に対する連邦政府の補助金
◎ 助成対象費用の20%は、ニーダーザクセン州とハノーバーの「ハノーバー都市高速軌道建設資金調達に関する取決め(1978年に取決め、82年に改正)」に基づく資金
◎助成対象費用の20%は、ハノーバーとUSTRAの負担
 現在は、地方分権化により財政支援が連邦政府補助と州政府補助に分けられ、州政府の自主性に委ねられつつあるが、原資は依然として鉱油税であることに変わりはない。なお、公共交通機関の運営に対する助成は、州政府や市の財源で補填されており、そのルールは各運輸連合や州政府・市によって異なる。

表5 ドイツの都市交通政策と助成制度の変遷

項   目 内   容
1953 「連邦長距離道路法」公布 ドイツ国内を張り巡らす連邦道路整備のための法律。
1955 「交通財政法」公布 道路整備財源を確保するために、自動車関連税をあてる。
1960 「連邦建設法(BBauG)」公布 建築の規制(地区詳細計画:B-Plan)と土地利用の方針(土地利用計画:F-Plan)を定めた法律で、ドイツにおける都市計画の基本法。
「道路建設財源法」公布 鉱油税の一部を道路建設のために連邦政府の特定財源に組み入れることを規程。
1961 「連邦長距離道路法」改正 連邦道路の市街地部分やアウトバーンへの接続道路に対して、連邦政府助成を規程。
「旅客輸送法」公布 路面電車、トロリーバス、バス、タクシー等を対象に軌道、駅舎、施設、諸建物などの計画と営業許可を行う法律。
1963 鉱油税値上げ 鉱油税を値上げして、鉱油税収入の50%を道路建設の財源とする原則を確立。
1964 報告書提出 「自治体の交通状況を改善する方策」報告書を連邦政府に提出('61委員会)。
1965 「BOStrab」公布 「BOStrab(路面電車の建設と運営に関する規則)」は軌道施設、車両に関する基準から経営、運行、手続きに至まで建設と運営に関する広範な部分を規程。
1966 税制改革 鉱油税を1リットル当り3ペニヒ増税して、増収分を自治体に交付。
1967 「連邦政府の援助指針」公布 1966年の税制改革を受けて、「地方自治体の交通事情を改善するための連邦政府の援助指針」を公布して、電車施設等への連邦補助を開始。
1969 地方財政への支援改革 基本法に第104a条を追加し、同条の第4項で州・自治体の特に重要で、地域間格差是正か経済成長の促進に必要な投資に対して、連邦政府の財政援助を可能にした。
1971 「GVFG」公布 「地方自治体交通財政援助法(GVFG)」は地方自治体の交通事情を改善するための連邦政府の援助指針を立法化したもので、道路と公共交通への配分比を見直して道路建設に55%、公共交通機関に45%を配分するように変更された(政府の補助率は50%)。
1972 税制の再改革 鉱油税をさらに4ペニヒ/g増税して、道路建設に50%、公共交通機関に50%を配分するように再変更された。又、連邦政府の補助率は60%に、自治体への補助は、増税分の3/4とされた等。
1973 「GVFG」の一部改正 州に配分される補助金のうち10%以内を州の判断で、公共交通に補助することが可能になった。
1975 「GVFG」の一部改正 自治体への補助を1割削減、配分比を道路建設45%、公共交通55%に変更し、さらに、州の判断で補助できる額を州配分の15%まで認めた。
1976 連邦建設法の改正 土地利用計画、地区詳細計画に市民から意見聴取することを義務付けた。
1986 「建設法典(BauGB)」の公布 連邦建設法を改訂して「建設法典(BauGB)」を公布。
1988 「GVFG」の一部改正 自治体への補助に上限を定め、補助対象に乗合バスを追加。
1990 東西ドイツ統合 助成額を拡大して、旧東ドイツへの助成の適用を開始。
1992 「GVFG」の改正 道路と公共交通の配分比を廃止して、州の自主性を重視する政策に転換し、補助総額の8割は州が配分を決定することとなった。また、公共交通車両の新造費用に連邦政府が助成を開始。補助率は連邦決定分は60%、州決定分は75%(94年までベルリンを除く旧東ドイツは90%、旧西ドイツは50%と旧東ドイツを優遇)。なお、自治体への補助総額は、1995年まで一時的に増加。
1993 「GVFG」の一部改正 自治体への補助総額増加を1996年まで継続することとした。
鉄道事業の改革 1996.1.1から都市圏の近距離旅客鉄道の政策と財政を連邦政府から州政府に移管することが決定。
(出典11、13、103及び阿部成治「ドイツにおける公共交通施設建設費用の補助制度」日本都市計画学会学術研究論文集、日本都市計画学会、1996、阿部成治「ドイツにおける公共交通施設整備への財政援助と路面電車の復権」運輸と経済、1998.2、を元に事項をひろい、西村が補足して作成した。)


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