地域福祉と住まい・まちづくり


おわりに

 5年間経った。震災は結局我われに何を教えてくれたのだろうか……。
 震災は社会のすべてを極限状態に追い込んだ。医療、福祉、住宅、まち、産業、行政、交通、防災などなど、社会の矛盾、弱点を暴露した。そして震災はその社会の各部分をさらに追求して、ヒトそのもの、つまりヒトと環境・他人との関係にまで迫った、と思う。
 直後は僕は「福祉が問われた」と思った。が、時間が経つにつれ、住まいの場所を移していった患者さんに教えられ、いろいろな人と交流するなかで、家族から突き上げられるなかで、21世紀は決して超高齢社会の問題だけではない、ヒトの心、人と環境の関係、人と人の関係、家族と地域(コミュニティ)の再構築の問題なんだと思えるようになった。
 経済成長は家族と地域の煩わしい?部分を外部化・産業化する中で進んだ。そして人の暮らしと社会を守るためさまざまな公的な支え合い(セーフティネット、社会保障)を発達させてきた。こうしてヒトは自由になり孤独を楽しめるようになった。しかしその過程でヒトの自立に必要な学習の場となる家族と地域の闘い、支え合いが衰退してしまった。ヒトにとってもっとも深刻なのは子育ての課題である。
 21世紀は高齢者が増えるだけでなく、独居者がより増える。さらに一般的には家族の絆も緩くなり、地域コミュニティの力も減少していく。それでも互いに自立し支え合う住宅・社会を模索していかねばならないだろう。
 公的セーフティネットをどう組み立てるか?地域住民自らが取り組むコミュニティづくりにどう取り組むか?公的部分と市民部分の関係をどう組み合わせるか?
 震災の経験は拡大一方の社会に対して、家族と地域を守る互いに顔の見える、話しの輪ができる、支え合いの仕組みの必要性を教えてくれた。この震災で多くのコミュニティづくりの経験が生まれた、あるいは加速された。現実には必ずしもスムースに進んでいるとは言いがたいが、その地域での「ちまちま」実践の蓄積の中にこそ次の時代が開けてくるのだろうと思う。
 人生の糧となるうわさ話を教えてくれた患者さん、地域の人達、職員に感謝します。地域型仮設の生活支援員調査で一緒に取り組んだ、柴尾さん、橘さんに感謝します。貴重な資料と刺激を与えてくれた石東さん、NPOを教えてくれた小森先生、大津さんはじめ復興塾のメンバーに感謝します。この本の出版の機会を与えてくれたコープランの小林さん、天川さんに感謝します。
 そして厳しい叱責と有益なアドバイスを与えてくれた妻と子供達に感謝します。
上田 耕蔵

学芸出版社
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