インターネットで政策づくり


はじめに

―インターネットで政策がつくれるか―

 あなたが、地方自治体の職員であれ、地方議会の議員であれ、またNPOのメンバーであれ、政策を作ろうと思い立ったとき、その素材となる資料をどのようにして集めるのだろうか。
 いくつかの具体的ケースで考えてみよう。
 設問1 阪神・淡路大震災以後、NPOが注目されるようになってきた。98年3月には、NPO法が制定され、NPOは法人格が取れるようになった。
 だが、地域でNPOと一緒に仕事をしたり、また、実際にNPOのメンバーとして活動していると、NPOが自立して活動を続けていくには、法人格の付与だけではやはり不十分で、何らかの支援策が必要であることに気づく。そこで、NPOに対する支援策を考えるため、NPOに関する本や報告書を読んでみようと思うが、果たしてどんな本が出版され、国や自治体からはどのような報告書が出されているのか。また、NPOの支援について、国の各省庁はどのような施策を採用しているのか
 設問2 身近な都市問題のひとつが、ごみ問題である。ごみの焼却処理からダイオキシンが発生し、廃棄物処分場の建設によって、水や空気などの環境悪化が心配されるが、社会経済活動を続ける以上、ごみの発生は避けられない。
 そこで、ごみの発生を減らし、リサイクルを進めるための施策を提案したいが、他の先進自治体や外国では、どのようなごみの減量・リサイクル施策を採用しているのだろうか。また、他のNPOは、どんな活動をしているのだろうか
 設問3 ごみ問題のひとつに、空き缶やたばこのポイ捨てがある。ポイ捨ては、基本的にはモラルの問題であるが、しかし、ただモラルに訴えているだけでは効果が望めない。
 そこで、思い切ってポイ捨てに罰則を定めて、禁止したらどうかと考えている。しかし、ポイ捨てを罰する法律がすでにあれば、条例で罰則を定めても屋上屋を架すだけであるし、法律を超える条例を作れば、これは違法になってしまう。
 そこで、ポイ捨て関連の法律をリストアップして、罰則の制定可能性を考えてみたいが、果たして、どのような関連法があるのだろうか
 設問4 99年には、国の行政機関を対象とする情報公開法が制定された。これまで情報公開は、自治体がその流れを作ってきたが、コンピュータの発達や市民参加の流れを見ると、自治体の情報公開制度も見直しが必要ではないかと考えている。
 情報公開制度について、マスコミ(市民)は、どのような意見や意識をもっているのだろうか

 政策づくりの基本は、良質の情報を数多く集めることである。しかし、どれだけ情報を集めて政策を作っても、それだけで実効性がある政策ができるわけではない。自治体の政策でもNPOの政策でも、政策の強さは、どれだけ多くの市民が政策づくりに参加し、多くの市民の共感を得て政策が作られるかで決まってくる。
 設問5 '92年の都市計画法の改正で、自治体では都市計画マスタープランを作ることになった。この制度は、まちづくりに市民が参加する画期的な制度であるので、できる限り、多くの市民に都市計画マスタープランづくりに参加してもらい、自分たちのまちの状況や、今後のあるべき姿を大いに議論してもらいたいと考えている。そこで、より多くの市民に情報を公開し、また多くの市民が参加できる、新たな市民参加手法がないのだろうか

 自治体を取り巻く状況は、依然として厳しい状況が続いている。行政改革と税収の落ち込みで、人も金も不足しているが、他方、市民ニーズは高度化・多様化し、仕事だけは増える状況が続いている。少ない人数で、効率的・効果的な政策づくりを工夫する必要がある。
 設問6 あるプロジェクトを担当することになったが、庁内には、このテーマについて専門知識を持っていたり、実践活動を行っている人がいる。こうした人たちに、プロジェクトに参加してもらって、知恵を出してもらえば、よりよい政策をつくることができそうである。しかし、どのセクションも忙しいなかで、共同作業もままならない。こうした庁内の職員の知恵を結集させる方法がないのだろうか
 設問7 役所も含めて、日本では意思決定は、稟議によって行われる。しかし、従来の文書による稟議方式では、時間もかかるし、はんこを押すのも形式的になってしまっている。決定をスピードアップし、実質的なものとするために、これまでの文書による稟議方式に代わる、新たな意思決定方式が考えられないだろうか

 最近では、NPOも政策づくりの主体に位置付けられるようになった。しかしNPOは、自治体と比べても、その持てる権限や資源は十分ではなく、また多くのNPOは、資金、情報、場所、人のネットワークなどいくつかの課題も抱えている。
 設問8 そこで、NPOが政策主体にふさわしい政策形成能力を高める具体的で実践的な手法がないのだろうか

 以上は、政策づくりのそれぞれの局面である。
 設問1 から 設問4 までは政策づくりのための情報収集、設問5 は政策形成プロセスの公開及び市民参加である。設問6 設問7 は政策主体としての自治体の変革、設問8 は政策主体としてのNPOの政策形成能力を高める方法である。
 結論からいえば、インターネットによれば、これらのことが簡単にできるようになる。インターネットは、自治体や市民・NPOの政策づくりを大きく変える可能性を秘めている。
 以下では、これらの設問を意識しながら、インターネットによる政策づくりを考えてみよう。


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