『ECHO』80号
誰に向けて書かれた本?
●まちづくりに興味をもちはじめた市民
●活動を始めたが、どうも全体がわからなくて不安が出はじめた市民
●とんでもないトラブルに遭遇し、「日本の都市計画はいったいどうなっているのか!」と怒っている市民
●突然の行政からのまちづくり提起にとまどっている市民
●活動のし始めは活発であったが、最近この先の見通しに具体性が見出せなくなった市民
この本は「誰に向けて書かれたのか?」という問いに、答えています。その市民に対して、まちづくりの契機や範囲、市民の役割、行政の仕組みや援助など具体的な内容を順を追って丁寧にわかりやすく解説している本です。
実際に地域のまちづくり活動を進めていく中で、困ったときに、頭の整理ができる本といえます。
まちづくりの活動の勘どころ
興味深く参考になるのは、第4章「まちづくり活動の勘所」でしょう。様々な経験やノウハウからまちづくり活動の起こし方を5つ挙げています。
@「生活実感」を大切にし、問題や夢を考える事から始めよう
A組織づくりのポイントは、できるだけフラットにすることと、小規模から始めること
B組織をつくったら、行動を起こす前に、情報を集め、学習をしよう。その時に、既存の文献やインターネットなどを活用することも有効だが、「人」が重要な情報源であることを認識しておこう
C抽象的な議論より、小さなことでも実験的に行ってみて、その実践や体験から学び、発展させるという「アクション・アプローチ」をとることが有効である
D「プロセス+成果」を評価し、次の活動にフィードバックしていくこと
これらのほかに、行政や専門家との付き合い方や、地域コミュニティの人々との付き合い方、さらに、仲間の輪の広げ方についても紹介しています。
活動資金づくり
また、まちづくり活動を進めるうえで、活動資金をどう作り出していくかという点も大切なことです。本書は、この点についても、民間資金の集め方と公的な助成金の獲得方法について、項目別にわかりやすく説明しています。そういったノウハウの説明だけでなく、なぜ、「資金が必要なのか」といった根本的な内容についても記述しています。
著者が呼びかけている人はもちろんのこと、まちづくりに関心のある人も、もう一度初心に戻って、読んでみてはいかがでしょうか。
(田中)
『都市問題』2001.2
現在、「まちづくり」と一言でくくれないほど、さまざまなテーマで数多くの住民が活動している。「さびれたまちを蘇らせたい」という住民の願いが歴史的な建物を保存し生かす運動につながった例や、「歳をとっても助け合って生きていきたい」と願う気持ちが高齢者ケアの拠点を作る活動につながる例など、まちづくり活動の多くは、興味をもったところから始まり、大規模な活動へと発展している。まちづくりは、「なんとか問題を解決したい」から始まる型、「こうだったらいいな」から始める型、「グループのテーマが変わった、発展した」から始める型などに大別できるが、いずれの場合もその多くが地域で普通に暮らしている人たちが何らかの願いや、あるいは危機感をもって始める場合が多い。本書は、それらの活動をより有意義なものにし、地域の合意作りに役立てていくための手引き書として、一読に値する良書である。
本書は大きく5つの章から成っている。
第1章「個別テーマからスタートするのも良いでしょう」では、市民から見たまちづくりのきっかけ、さまざまなまちづくり活動の一端が紹介されている。また、まちづくりに関係する建築トラブルの発生問題も解説されている。
続く2つの章は、まちづくりの具体的な手法についての解説となっている。第2章「やはりビジョンが必要です」では、まちづくりにはビジョンが非常に重要であるが、それが住民間、あるいは住民と他のアクター(行政や企業など)との間で共通になっていない場合も多いという指摘がなされている。また、行政の全体ビジョンが前提にあり、それに基づき細かく地区ごとに市民の感覚でビジョンづくりをするとか、あるいは課題ごとにビジョンづくりをするというような、従来の下方へ向いたブレイクダウン型ビジョンづくりからの脱却が必要であるとされている。第3章「まちづくりの計画をつくってみよう」では、まちづくりを実現するために最も重要な計画という行為について、市民との関係に留意しながら説明されている。また、計画を実現する方法、都市計画の仕組みについても詳細かつわかりやすい解説があり、ビジョンを具体的な活動につなげていく際の大きな手助けとなる。
第4章「まちづくり活動の勘所」、第5章「飛び道具で楽しく、有効に」では、まちづくりをより充実かつ有効なものにするためのノウハウが紹介されている。第4章では、まちづくり活動を実際に展開していく上でのグループや組織の作り方、他組織との連携の仕方、行政の仕組みや専門家とのつき合い方など、人間関係を良好に保つさまざまな手法が解説され、活動に多大な影響を与える資金づくり方法についても丁寧な説明がある。最終章には、会議の仕方やまちづくりニュースの作り方、インターネットやパソコン通信のまちづくりへの活用法など、さらに幅広い活動とその成果を達成するための情報が掲載されている。
(Sa)
『住宅』 2000.7号
市民が読める「まちづくりの入門書」が意外に少ない。5年ほど前にリストを作ろうとして改めて気付いた記憶がある。特に公的な都市計画の仕組みと市民活動の展望の両面を考えたい人に読める本は限られていたと思う。
最近、状況が少しづつ変わってきた。「市民のためのまちづくり入門」(吉野正治、学芸出版社、1997年)は、市民活動に取り組む人に専門家が薦める場面が目に付いた。昨年は「まちづくりがわかる本 浦安のまちを読む」(彰国社)、「まちづくりブック伊勢」(学芸出版社)という地域版まちづくり書もあらわれ、関係者の書棚も賑やかになりつつある。
そこへ新たに加わった本書は「まちづくりガイド」の看板をかかげている。旅行ガイドの連想で言えば「ガイドブック」には三つの使い方がある。一つ目は旅に出る前に読む(読んで魅力がなければ旅行はやめる?)。二つ目は旅の基本的な道筋の情報を得る。そして三つ目は困ったとき、あるいは、旅先でさらに次の行動を組立てる必要が生じたときに読む。
本書の編集意図は、一つ目、二つ目の用途に答えることに十分配慮しながらも、三つ目の用途、つまり、行動しながら使えるガイドブックに相当の重点を置いているようである。
導入部では市民によるまちづくり活動全般が概観されており、末尾の「飛び道具」編(会議やワークショップやネットワーク)と合わせてまちづくりへの市民の関わり方の大まかなイメージをつかむことができる。高層建築反対運動などの対立型の局面から公園づくりワークショップまで一通り視野に入れているのも本書の特徴である。
それに加えて本書では、法制度、事業手法、行政の仕組み、NPO、資金づくり、ネットワーク等々を「市民のために」解説することに相当の重点を置いている。それらの箇所の記述はかなり詳細に書き込まれており、入門書風のソフトなイメージで読みはじめた人はとまどうだろう。予備知識のない人は、最初はとばしてしまうかも知れないが、活動で困ったときに読み返せば一定の手応えを得られるレベルが意図されているようだ。住民グループの具体的な動き方へのアドバイスにもかなりの紙数をさいている。
つまり、本書は啓発本ではなく実用書を目指す態度を鮮明にしていると思われる。しかも、四人の著者が「通り一遍の記述で逃げることはやめよう」と打ち合わせたかどうかは知らないが、刺激的で突っ込んだ項目が随所に見られる。
「計画策定委員会等で事務局案が否定されることはあるか?」という「さわらぬ神」にあえて触れた項(筆者は今日も事務局席に座っているのかも知れない)。専門家である筆者が「専門家に期待してよいこと、期待してはいけないこと」を説明する項。あるいは、「NPOと費用対効果」、「直接請求による条例制定」など、市民がまちづくりに足を踏み込んでいったとき、いずれ疑問を持ったりとっくみあいの議論をしそうな事柄を密度高く盛込んでいる。
ところで、「まちづくり」という語は、(全てではないが)多くの人が市民参加・市民主体の理念を込めて使ってきた。ガイドブックとは言え「市民のための」を名乗るからには、既成の都市計画、地方自治、あるいは地域社会を変革していこうというエネルギーを持った読み手にこたえる覚悟がいる。そういう読者に対して実用的なアドバイスを通じて問題提起をするというスタイルは意外に新鮮である。
本書は、三人の都市計画プランナーと一人の弁護士の共同執筆による。四人ともに幅広い市民活動への関わりを持っているが、同時に現行法、現行制度の枠組みに規定された実務を通じて「まちづくり」の展望をさぐる立場にある。本書の語り口は、市民グループの夜のミーティングでアドバイスを送る専門家のものだが、同時に計画策定や法に関わる実務を通じてねばり強く状況に対峙してきた積み重ねを土台にしている。本誌の読者であれば、文脈に隠れた職能観の読み取りや四人それぞれの得意分野の絡み合い方に注目するのも興味深いだろう。
(琉球大学工学部環境建設工学科 清水 肇)