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女性の仕事おこし、まちづくり

男女共同参画社会へのエンパワーメント

書 評


『都市問題』2001.2

 地域の活性化が叫ばれて久しいが、近年各地で、経済的な活性化や効率的な都市づくりといった従来型の活性化策とは異なる、新しい傾向が見られはじめている。本書は、経済優先のまちづくりにより喪失してきた人間同士のつながりや生活力を復活させ、それにより人間性豊かな地域づくり・まちづくりを目指す各地の活動を調査・報告した良書である。今、私たちを取りまく暮らしや町を見たとき、崩壊しているコミュニティをどう再生したらいいのか、高齢・少子化の社会をどう迎え、価値観が多様化する中で人はどう生きていったらいいのか等、多くの課題、悩みにぶつかる。著者らは、本書で取り上げた女性たちの仕事おこしやまちづくりの調査を通して、これらの疑問に答えようと試みている。
 本書は、3章からなり、最後にまとめと提言が加えられている。第1章「地域を豊かにする仕事おこし」では、地域に密着し、利潤を最大限追求するより社会的意義や生き甲斐を追求するさまざまな活動が紹介されている。著者らは、これら女性の仕事おこしの内容を、以下の7つに分類している。つまり、女性の仕事とされてきた家事・育児・介護サービスを提供し、女性をそれから解放することを目指す「家事援助型」、これから迎える高齢社会の中で、介護サービスをコミュニティの人間関係を重視しながら支えようとする「福祉型」、深刻化する地球環境汚染問題の解決に市民レベルで貢献しようとする「環境型」、女性の自立支援・まちづくり支援の企画等を通して、女性の仕事おこし等を支援する「企画・心の支援型」、農村地域において盛んな、農業生産活動を基盤にして村の特産品づくり等に励み、地域の活性化に貢献する「地域生産活動型」の7つである。
 第2章「まちづくりをみんなの手で」では、生活者の要求にもとづき、女性たちが自らの発意で始めたまちづくりの事例が紹介されている。そのうちの多くの運動は反対運動をきっかけにはじまっており、それをいかに住民主体のまちづくり運動へと発展させるかが、普遍的な課題とされている。こうしたまちづくりに取り組む過程を経て、女性たちの目が社会に開かれていった点が非常に印象深いと、筆者らは述べている。
 第3章「女性の視点で行政を変える」では、自治体がまちづくりや仕事おこしへの女性のエンパワーメントを進めるためにどのような施策を実施し、どこまで到達したかが明らかにされている。ここでは、第1に、住み手である女性たちへのエンパワーメントがどのように進められているのか、そして第2に、政治の場や行政内部で職員として、政策を実際に作る立場の女性たちのエンパワーメントがどの程度進んでいるのか、という2つの側面から事例に対する評価がされている。全国的にみると、まちづくり事業への女性の視点をとりいれた事業はひろがりつつある。とくに、後者の政策形成に取り組む女性たちへのエンパワーメントは着実に実を結びつつあり、多くの成功事例がここでも挙げられている。
 最後に、これらの活動を網羅する「まとめ」の章と、9つの具体的な提言が載せられて「提言」部分がある。新しい視点からのまちづくり・地域コミュニティづくりを考え実践していく上で、女性に限らず男性にも、お勧めしたい1冊である。

(Sa)



『地域開発』 2000.11

 高度成長時代の華やかなりし頃、官製の地域開発や都市計画に対する対抗概念として「まちづくり」という言葉が市民運動と住民運動の中から生まれた。まちづくりはいうまでもなく2つのキーワード、「まち」と「つくる」の合成語である。平仮名の「まち」は、ハードな都市空間のイメージの強い「街」とソフトな地域社会を意味する「町」の両方を包み込んだゆたかな大和言葉であり、これに一人ひとりの生活者が対象に主体的に働きかける行為としての「手づくり」が結びついて、まちづくりという言葉が生まれたのだった。そこには、大工場のベルトコンベアシステムに象徴されるような人間労働の部品化や機械命令系統への強い反発の響きが感じられる。また、明治以来のお上の命令であり、お上の仕事であり続けた地域開発や都市計画を自らの手に取り戻したいという揺るぎない民衆の意思がみてとれる。まちづくりはこのような歴史的文脈の中で、いまや現代社会に欠かすことのできない20世紀のキーワードとして都市と地域社会の中に定着するにいたったのである。

 しかしながら、まちづくりという言葉があまりにも魅力的であるだけに、あちこちで相乗り現象が発生する。そして一つの言葉に多義的な内容が盛り込まれていくにつれて意味の拡散が始まり、やがては語源自体が忘れ去られていくようになる。最近では国・自治体の行政文書一つとってみても、「人間と環境にやさしいまちづくり」「うるおいとゆとりのあるまちづくり」「文化と伝統のまちづくり」等々美しいまちづくり言葉が溢れるようになった。建設省ではまちづくり関連の冠事業も登場しはじめた。いまや、まちづくりは市民・住民の手を離れて、都市計画と同様、再び官製用語化しようとしているのではないか。それでは、まちづくりを如何なる意味合いを込めて再び市民・住民の手に取り戻すのか。この今日的状況と現代的課題に対して、女性の目線から真摯に応えようとしたのが本書である。

 本書を一読しての印象は、それはなによりも全国各地の「自然体のまちづくり」が素直に描写され平易に語られている点であった。それには筆者たちの優しい目線の存在もさることながら、女性を中心とするまちづくりそのものが内包している本質、すなわち「日常性のまちづくり」「ライフスタイルとしてのまちづくり」としての性格が本書全体に反映しているからだろう。第一に本書の中の数々のまちづくりのネーミングからして、男性の一員である評者などには逆立ちしても思いつかないような素敵な名前が並んでいる。「もりちゃんのおかいもの」「あーすきっちん」「びいめ〜る」「プロジェクト結ふ」「マーガレット愛ランド」などなど。

 評者が三十数年前に学会や地域でまちづくり論を展開したときは、官製の都市計画を住民視点から批判しながらも、その中身は男社会の発想そのものだった。対決姿勢の建前と理念がとかく先行し、内容的には政治的行政的課題をめぐって官側と正面から激突した。本書のいう「抵抗型のまちづくり」である。だが、持続的取り組みを通してはじめて実現できる数々のまちづくりの課題は、このような非日常的なまちづくりだけでは達成できない。人間は反対運動だけでは生きられないから、日常生活を通してのまちづくりが一番強いのであり、生き甲斐やライフスタイルとなったまちづくりが一番確かなのである。本書がこのような視点から日常生活の原点ともいうべき、「仕事おこし」と「人間のふれあい」に着目したのは、女性ならではの炯眼という他はない。

 自然体のまちづくりは、必然的に「共振型まちづくり」へとつながるだろう。本書では共振型まちづくりを必ずしも無条件で肯定しているわけではないが、紹介している事例にはそのようなタイプが多い。共振型まちづくりとは、事業を担う企業や行政と、運動を担う住民の同調による振動によって展開されるまちづくりのことを言うそうだが、最近流行の「共働型まちづくり」にくらべるとなかなか優れたネーミングではないかと思う。なぜかというと、共働型まちづくりは行政と住民のパートナーシップは強調するが、共働の前提となる両者間の共感や共鳴には触れることが少ないからであり、行政への協力を前提とした共働という側面が強いからである。これにくらべて、各々固有の波長をもつ企業、行政、住民の存在を認めた上で、互いに合意し響き合わなければまちづくりは進展しないという含意がこめられている共振の思想は素晴らしいと思われるのである。

 共振の思想はまた「男女共同参画社会へのエンパワーメント」という本書の副題にもリンクするのではないか。日常生活を通してのライフスタイルとしてのまちづくりは、なによりも男女共同参画社会の実現なしには継続し得ない。

女性中心の仕事おこし・まちづくりとはいいながら、本書が女性たちを支えている男たちの姿を忘れていないのはそのためであろう。それはまた、筆者たちが男女共同参画社会の実現が両性の対決からではなく、共感なき共働からでもなく、共振による共生によってはじめてもたらされることを熟知しているからだと思われる。

 最後に、私的なコメントを一言付け加えることをお許しいただきたい。評者は京都大学建築学科では室崎(旧姓三原)氏と、京都府立大学住居学科では上野氏と同僚であった。また京都大学の大学院生時代には理学部の大学院生であった小伊藤(旧姓坂東)氏の両親とは旧知の間柄にあった。著者たちといわば生涯を通しての友人関係にある者の一人として、本書の上梓を心から喜び、書評の光栄に浴したことを感謝したい。

(龍谷大学教授/NPO法人西山記念すまい・まちづくり文庫理事長 広原盛明)






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