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女性の仕事おこし、まちづくり

男女共同参画社会へのエンパワーメント


  はじめに

  近年、女性たちの中に、自分らしさを求めて地域での仕事おこしを始めた人々が、あちこちに現われてきた。この女性たちの仕事の内容とは何なのか、その特徴は従来型の仕事とどう異なるのか、彼女たちは何故そのように生き生きと活動できるのか、その生き方は、これからの都市生活づくりにどのようなことを示すのか、等の疑問から私たちは調査をスタートさせた。調べていくうちに、彼女たちの仕事が単に経済的な報酬を求めてというだけではなく、人と人とを結び、失われてきた地域の生活力を活性化させ、人間性を豊かにする地域づくり、まちづくりとも言える内容に結びついていることに気づかされた。
  一方、地域でのまちづくりの中にも、従来型とは異なる形態のまちづくりが現れてきた。一人から出発してネットワークを広げながら、主体者として、自分たちで環境を変え、納得のいく施設や空間、まちをつくろうとしてきている。ここで取り上げた例は、明らかにまちづくりの従来の幅を広げてくれるものになるであろう。
  これらに共通することは、現代の女性が家族・地域の中で置かれている立場や体験からくる固有の価値、生活者の論理、人間性をベースにした女性の視点≠ニいいうる特徴を持つことである。
  本書で取り上げた事例は、従来の日本の経済優先、効率的な都市づくりの中で、置き去られてきた人間にとって大事なものを、女性達が地域で取り戻そうとするものであり、住民主体のまちづくりに向けてのオルターナティブな提案でもある。

  本書は、このような視座で進められてきた京都をはじめとした日本各地、といっても主として関西での女性たちの典型的な事例を調査し、仕事おこしを1章で、まちづくりを2章でまとめたものである。そして、このような下からの動きに対して、先進的施策と思われる具体例としてはどのようなものがあるかを3章でまとめた。また、最後に自治体は現時点でどのような施策を打ちだし、女性のエンパワーメントを高める観点からは、どこまで到達したといいうるのかに触れ、当面の取り組みについての提言を記した。
  今、私たちを取り巻く暮らしやまちをみたとき、崩壊しているコミュニティをどう再生したらいいのか、高齢・少子化の社会をどう迎え、価値観が多様化する中で人はどう生きていったらいいのか等、多くの課題、悩みにぶつかる。本書でとりあげた女性たちの仕事おこしやまちづくりはこれらの疑問に一つの答えを与えてくれるだろう。まちづくり、コミュニティをベースとした女性たちの仕事おこしは、人間発達を保障してくれる場でもあった。本書にでてくる女性たちの姿は、そのことをありありと示している。
  99年6月、女性たちにとって待ち望まれていた「男女共同参画社会基本法」が施行された。これによって、地方自治体の女性行政はやりやすくなったと言えよう。また、同年7月の地方自治法の大改正により、期待外れの面も多いが地方分権化が進み、使い方によっては、住民本位のまちづくりを進めていく上ではプラス面もあると聞く。しかし、いずれも、それをどう実質化させるかが、地方自治体、住民に課せられている。これからは、まさに地方自治体ならびにそこに住む住民の力量が問われる時代でもある。

  最後に、次のような方々にこの本を読んでいただきたいことを訴えたい。女性行政の中で、啓発だけではなく総合的な女性政策を推進させることが大事だと認識し、そのためにはまちづくりを位置づけることが必要だと考える女性政策担当者、まちづくりに女性参画をすすめることが都市づくりを豊かにし、住民参画をすすめてていく戦略の一つだと気づき始めた都市計画分野の担当者、そして、わがまちを発展させ、住民に愛されるまちにしていくためには、女性の登用、エンパワーメントが不可欠だと認識していただきたいすべての自治体の議員や首長の方々である。
  そして本書が、日本の各地の女性たちによるまちづくり、仕事おこしへのエンパワーメントとして参考になればと願っている。

  この本は、京都市及び財団法人大学コンソーシアム京都地域研究成果公開支援助成を受けたものである。また、当初の調査には、京都市地域研究助成を受けた。この間、建築とまち研究所の戸谷秀子さん、折井節子さん、京都府立大学の学生であった寺井由恵さん、野口珠代さん、段暁儒さんの協力を得た。京都府立大学院生蜂須賀元文さんには図面を描いてもらった。また、出版に当たっては、学芸出版社の前田裕資さん、永井美保さんに大変ご苦労をかけたと同時に励ましと貴重な意見を頂いた。

  最後に、こうしたまちづくりや仕事おこしをされ、あるいは行政を変えた仕事を進め、私たちを魅了してやまない素晴らしい女性の方々に心から感謝の気持ちを表したい。





学芸出版社
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