書  評

 




『建築士』((社)日本建築士会連合会) 2001.10

 日本の都市には、歩いていてふと立ち止まり、ふり返ってみたくなるような風景に滅多に出会わないと、ある作家が言っていたのを思い出す。その作家は続けて、それに比べてイタリアなどではそのような風景に出くわすことが格段に多いとも言う。

 確かに日本の都市景観には美しいと感じさせてくれるような場は少ない。でもそれはなぜだろうか。日本と欧米とはどう違うのか。文化なのか、考え方なのかそれとも制度なのか。本書は欧米7ヶ国の制度を調べ、その特質、歴史性、文化性の様々な面から分析を試みている。
 各国の風景計画、もちろんそれは都市計画に密接につながるものではあるのだが、それらは日本の生ぬるい考え方と多いに違うことを知らされる。やるならば徹底的に。厳しい規制と監視、誘導行政はそれぞれの国によって違いはあるものの、確固たる信念に基づいてやっているように感じられる。登録建造物の位置づけという面からは、修理に際し補助金のでるものとして、2万件の登録数に規制しているフランス。イングランドだけで44万件の登録をしているイギリス。その2国の考え方の違いは建造物を文化財としてみるか、都市の景観資源としてみるかという姿勢の違いであると本書では述べる。そのほかイタリア、ドイツ、オーストリア、アメリカ、カナダの都市の制度、考え方を紹介していく。
 都市景観行政を学ぶには最適の書であり、都市開発的手法ばかりが優先されてきた日本のこれからの景観誘導のあり方を考えさせてくれる。
 じっくりと読んでいくべき書であろう。
(足立 正智)






『造景』(建築思潮研究所) 2000.4

 本誌連載記事の単行本化。欧米の町並みが美しく保たれているのは、街の風景に関心が高い住民の個別的な努力によるだけではない。眺望を意識した、多種類の規制が町並みに掛けられているためである。各国は、その歴史的・景観的な特性に応じて独自なコントロール・システムを定めている。
 各国の全体から細部に及ぶ景観コントロールのシステム(体系)を見ると、これが規制緩和と土地所有権優先の日本に導入可能か、暗澹たる気分になる。根本から制度を見直さなければ可能な技ではない。今後必要なのは、風景を形作るため、どのような手段が可能かである。幕末、日本を訪れた西欧人は、異口同音に日本の集落の美しさを絶賛した。確かに、かつてはこの国にも景観コントロールの方法が存在したのである。風景の美しさを復活させるには、単に欧米に学ぶだけでなく、この国の過去にも学ぶ必要があるだろう。

 

 


学芸出版社