はじめに

   一九九九年七月、地方分権一括法が制定され、地方分権は今まさに実施段階へと動き出した。この間の動きをたどれば、九三年六月の国会決議にはじまり、九五年五月地方分権推進法制定、同七月地方分権推進委員会発足、以来五次に及ぶ委員会勧告と二回の地方分権推進計画の政府決定という、長い道のりを経てきている。地方分権時代へ向けて、現在各自治体で取り組まれている対応は、これら一連の膨大な議論と作業の結果なのである。

 中でも都市計画は、今後の地方分権の推進において、紛れもなく中心的な課題である。これまでの過程でも、「個性豊かで活力に満ちた地域社会の形成」という地方分権推進の基本理念のもと、「まちづくりの中心的役割は住民にもっとも近い市町村がになうべき」という方向が地方分権推進委員会での論議の早い段階から打ち出され、都市計画中央審議会での議論とあいまって、改革のスキームが具体的に固められていった。都市計画に対する各界の関心も高く、他の制度の対応を終始リードするような形で進められてきたと言っても過言ではない。実際、都市計画法について言えば、すでに九八年十一月には、都市計画決定にあたっての国の認可の縮小と、決定権限についての都道府県から市町村への委譲の拡大がなされており、地方分権の成果の一部は先行して実施に移されている。

 都市計画の地方分権を、これから行われる実際の取り組みにおいて、真にみのりある改革とするためには、それが何を目指しているのかをしっかりと知らなければならない。なぜなら、地方分権は、地方自治体の主体的な選択と行動によって、はじめて意味のある成果が達せられるものだからである。権限区分の変更といった単なる事務手続き上の問題として対処していたのでは、何の意味も生まれない。
 日本都市計画学会では、地方分権研究小委員会(委員長:大村謙二郎筑波大学教授)を設け、政府レベルでの地方分権の検討と並行しながら、約三年間にわたって都市計画における地方分権のあり方を検討してきた。その間、公開シンポジウム、有識者や実務担当者による討論会、都市計画関係者へのアンケート調査などを数回にわたり実施し、議論を深めてきた。特に、学会という場の特徴を活かして、都市計画の実務に日々携わっている自治体職員や民間コンサルタントの諸氏はもちろんのこと、政府の審議会等に現に参画する形で地方分権推進に関わる有識者から、政府を批判する立場を貫く有識者まで、極めて幅広い立場の意見を直接たたかわせる中で、都市計画にとって地方分権とはなにか、どこまで達成され、残された課題は何なのか、市民はこれをどう考えどう生かすべきなのか、といった問題を探ってきた。

 本書は、日本都市計画学会地方分権研究小委員会のこれらの活動をベースとして、都市計画の地方分権をめぐる本質的な論点と、背景にある日本の行政制度全体に関わる大きな動きや、いくつかの自治体で実施されてきた先進的な事例等について、様々な立場の方々にいろいろな角度からの寄稿を頂き、とりまとめたものである。
 編集にあたっては、都市計画の実務に携わる方々や、都市計画に関心をお持ちの方々を念頭において、特に次の点に配慮した。
 第一に、地方分権が都市計画制度とどのような関わりを持つかについて、その背景を含めた本質的な論点、対立する論点等、都市計画の地方分権についての多様な論点を積極的に示すようにした。都市計画の地方分権について正解はなく、多様な論点のなかで成長していくものであると考えるからである。
 第二に、地方分権時代の都市計画をになう地方自治体やプランナーについて、現状の問題点、課題、期待について多面的に示すようにした。
 第三に、都市計画の地方分権について積み重ねられてきた議論の記録を出来る限り詳細に示し、今後の分権時代の都市計画を考える参考資料としても役立つことを狙った。
 まとめていえば、今まさに進められつつある都市計画の地方分権化にあたって、これをどのように理解し、どのように実践すべきなのかを考える一助となることを目指したのが本書の特色である。本書を一読されれば、そのエッセンスがお分かりいただけるものと思う。
 都市計画の地方分権は、すでに原理原則の基本論を議論する時期を過ぎ、実践段階に入った。しかし、実践段階でこそ、常に基本論に立ち返って考え、発展的な選択を積み重ねていくことが必要となる。都市計画の地方分権化が、地域の創意工夫に満ちた積極的な取り組みによって、市民のニーズに根ざした個性豊かなまちづくりの展開につながることを、期待してやまない。


学芸出版社/gakugei

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