飛躍する構造デザイン

エピローグ
感謝の意を込めて

 この本の出版企画を日本建築協会出版委員会の山田修さんと学芸出版社の吉田隆さんから持ち込まれたのが、いつだったか覚えていないほど時間が経ってしまった。多分、12、3年前だと思う。来年には、来年にはと言いつつ時が過ぎて、もうやめようと僕が決めても、吉田さんの執拗な勧めで何とか出版することができた。僕から吉田さんに出した引き延ばしの手紙は、随分といい加減なものである。最後は、何とか20世紀中に出しましょうとか、21世紀の初頭をめざしましょうとか、この本とはまったく関係ない提案を繰り返すばかりであった。
 僕は、学者でもないし、研究者でもない、実際の建築だけをつくり上げる一介の構造設計者でしかない。だから、自分の「構造デザイン」を展開するときに、何か特殊な技術の研究とか開発を行うのではなく、その時に世の中に出回っている既成の技術をかき集めて整理、分析し、全体を再構築するという作業の繰り返しをやるのである。これには膨大なエネルギーがかかる。しかも、僕は職人気質が旺盛だから、自分自身でそれをやり遂げないと我慢できない、というかその作業を自分でやらないと新しい発想が湧いてこないのである。簡単に言えば馬鹿なのだろう。あるプロジェクトに関わると、最初は頭でどうしようかと考えているのだが、時間が経過してくるとそのプロジェクトが自分の体内に流れ込み、「解」はこうではないかと自然に描かれてくる、それには時間がかかるから設計期間が短いと現場が始まってからようやく「解」を発見することも度々ある。
 それに僕は「構造デザイン」がとても好きだから、この魅力的な設計手法を他の人にも伝えたいと、いつも考えており、個々の建築の設計に参加するだけでなく、さまざまな会合、原稿依頼を断ったことがなく、必ず参加する。これにも膨大な時間とエネルギーを採られてしまう。したがって、自分が全部書く本を出すなどという大げさなことはできなかったのである。

 もう、本ができたのに、まだ言い訳をしているのは僕の習性ではなく、この本の出版に至るまでのあまりにも長い時間が費やされた理由を、あきらめることなく熱心に推奨いただいた山田さんや吉田さんに説明しておきたいからである。
 しかも、最後にこの本をまとめるにあたって、自力では何もできなかった。1年前までSDGにいた子真弓さん、それに学芸出版社編集部の越智和子さんの助けで完成することができた。特に、子さんの「構造デザイン」への愛着と意欲のおかげである。

2002年9月 渡辺邦夫