は じ め に


 「地球環境破壊」、「自然破壊」と言うけれど、地球はもちろんのこと地球上の生命も、人間の行為によって破壊し尽くせるほど軟弱なものではない。おそらく、太陽がしだいに大きくなって、地球上の水分がなくなってしまう10億年先までは、何らかの形で生命は生き延びるであろう。「環境破壊」は、あくまで「『人間にとっての環境』の破壊」であって、鳥や魚や哺乳類などが巻き添えをくっているという図式である。
 時折、ある種の生物が異常発生し、数が増えすぎたがゆえに大量死するというニュースを耳にする。こうした例を示すまでもなく、生命の誕生以来、環境の変化などによって滅亡した動植物は数億種にのぼる。人間も、自ら破壊した環境のしっぺ返しを受けて、同じように淘汰されるのであろうか。人間が淘汰された後、自然は再び豊かに美しく再生されてゆくだろう。私たちの生きた時代が「歴史」となるとき、後世の人々は、この時代をなんと呼ぶのだろうか。それより、何より、過去を振り返ることのできる知的生物は、地球上に存在しているのだろうか。
 地球の現状を見るとき、しばしば私はこのような悲観的な思いに駆られる。しかし、私は性来はオプティミストで、この事態に至ってもなお、どこかで「そのうち何とかなるだろう」と思っている。いや、「なるだろう」ではなく「するだろう」という方が正しい。生物は、種を存続させるための実に合理的な道具を持ち合わせているものだ。もちろん、その種自体が合理的であるからこそ、存在しているわけである。人間にとっては「知」が最も重要な道具である。危機を招いたのも「知」であるが、人間の英知は、おそらくこれを乗り越えるであろう。
 私たちのフィールドである建築の分野においても、「環境との共生」が重要視されるようになってきた。一般の人々も「健康住宅」や「自然住宅」を求め、新聞や雑誌にもしばしばそれらが特集されている。人工的な快適さや便利さを追求する生き方ではなく、環境と共生することこそが豊かであると実感する人々がしだいに増えてきている。
   本書は、「環境と共生する建築」をトータルに概観することを目的としている。
 第1章は、「環境建築の視点」と題して、建築生産とのかかわりのなかで、地球環境破壊、ヒートアイランド、ダイオキシン、環境ホルモンなどの今日的問題をとらえ、省エネルギーやリサイクルなど、建築活動のあるべき方向性を示している。
 第2章は、「環境建築の手法」と題して、主として建築物の形態と使用する材料を工夫することや、建築物を緑で包むことによって、省エネルギーをはかる手法、及び、シックハウスを防ぐ手法などを示している。
 第3章は、「環境共生の技術」と題して、太陽や風などの自然エネルギーと河川水などの未利用エネルギーの利用、燃料電池やバイオマスなどの新エネルギーの開発など、エネルギー利用に関する技術、及び、雨水の利用と地下浸透、河川の近自然工法とビオトープなど、水に関する技術について述べている。
 本書は、もちろん第1章から通読するほうがよいが、興味のあるところからアトランダムに読めるようにもなっている。索引を用いて、環境建築の辞書代わりに用いていただいてもよい。25のキーワードは、いずれも大きく深いテーマなので、本書を足がかりにしてさらに内容を深めて頂ければと思う。本書が、21世紀・・・「環境の世紀」を担う若い建築技術者の皆さんにとっての捨石となることを願う。
1999年 初秋
大西正宜



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